遺産相続コラム
人生の最後を迎えるための活動、いわゆる終活を始める方が増えているようです。
終活を始めるベストなタイミングとは、終活という言葉が気になりだしたとき、まさに、今この瞬間であるともいえます。
終活の内容は遺影写真の撮影や墓地、葬儀の手配、断捨離など、広範囲にわたります。終活を行うためにどのような用意を進めていけば良いのか、ベリーベスト法律事務所の弁護士が法的観点も含めて解説していきます。
終活とは、人生の終焉に向けて、自分の身の回りの整理を進めることをいいます。
終活を行うにあたっては、まず、老後にどんな生活をするのか、どんな最期をどこで迎えるのか、家族には何をどう残すのか、といった事柄を、具体的に考えます。
そして、そのために必要なことや、自分がやりたいこと、やらなければならないことを整理していくのです。
終活を進めることで、残される家族や周りの方々にも自分の意向や希望を伝えることができますし、何よりも残された時間をより良く生きることに繋がると言われています。
終活においては、身辺整理・葬儀の準備・遺影の写真撮影・お墓の用意・保険の見直し・介護が必要になったときの準備など決めなければならないことは多岐にわたります。また、相続について決めるためには、法的な制度や手続きについても調べる必要があります。
そうしたことを考えると、就活には思ったよりも時間がかかってしまうこともありますので、早めに準備を始めるのに越したことはありません。
つまり、終活を始めるベストなタイミングとは、終活という言葉が気になりだしたとき、まさに、今この瞬間であるともいえます。
実際には、50代に入ったころ、定年退職を迎えるころ、お子さんが全員独り立ちしたころなど、人生の節目を迎えて終活を始める方が多いようです。人生の節目において、夫婦で過去を振り返り、新たな生活を考える機会を持つことは、最近増えていると言われる熟年離婚を防止する効果もあるのではないでしょうか。
自分や家族の死後のことについて語ったり決めたりすることを、タブーと考える方も居るかと思います。
しかし、今では、葬儀や遺影などについて、自分で生前に決めておく終活も一般化してきています。終活ブームの背景には、死後のことに関しても自分のことは自分で決めておきたいという自己決定意識の高まりに加えて、事前に決めておくことで後々遺族に負担をかけないで済むという事情もあるようです。
お墓がすでにある場合は、そのお墓に入る方が多いでしょう。そうでない場合は、新たにお墓を建立するのか、するとしたらどこにどの程度のものを建立するのかを考えることになります。
また、最近は自分の墓を持たずに、お寺に永代供養を頼むという方法や、散骨するという方法を選択し、遺族の管理による負担を減らそうという方が増えています。自分の希望する方法を考えてみましょう。
お墓を建立する場合、場所や広さ、そして墓石へのこだわりなどによって金額に差が出ます。100万から200万円くらいを相場としている場合が多いようです。
家族が亡くなると、遺族は涙も乾かないうちに葬儀の段取りを開始しなければなりません。人の死は突然やってきます。そのような突然の事態において、葬儀屋選びや細かい段取りをひとつひとつ決めるのは大変な作業です。また、葬儀の行い方で、遺族同士がもめてしまうというケースもあります。
こうした遺族の負担を軽減し、遺族間でのいさかいを防止するために、生前に、葬儀社や葬儀のスタイル、費用まで事前に決めておくという方も増えています。遺族は、その葬儀社に電話をかけて連絡さえすれば、あとは、本人が生前に決めた方法で葬儀社が葬儀を執り行ってくれるというわけです。
この際に、先に費用をある程度払っておくことも可能です。遺族に葬儀費用の負担もかけたくないという配慮も実現することができます。
葬儀費用は、どの程度の規模で行うか、祭壇や御棺などをどの程度のものにするかといった内容によって、金額に幅が出ます。
平均としては100万から200万円程度が多いようです。葬儀費用以外に、お布施や親族一同の飲食代なども考えると、出費はさらに増えます。
遺族が意外に困るのは、遺影写真の用意です。高齢になると、自分の写真を撮る機会が減り、あったとしても集合写真で顔が小さいなど、遺影には適さない写真しか残っていないこともあります。
葬儀のやり方などは、葬儀屋さんに全て任せてしまうことも可能です。しかし、故人の写真だけは、遺族が決めて用意するしかありません。
生前に遺影用の写真を自分で決めておくことは、遺族にとって大きな負担減になるのです。
葬儀が終わると、遺族の次の仕事は遺品の整理です。財産的価値のあるものは、遺産分割の対象として分けることになります。また、形見分けとして家族がもらい受けるものは、遺族で分けあうことになります。
他方、そうした価値がないものについては、すべて遺族が手間と費用をかけて処分することになります。遺族からすれば、全て大切な思い出でもありますが、いつまでもすべてを残しておくわけにもいきません。
身の回りのものを自分で整理しようと決めていても、高齢になるにつれて、物の整理や処分が体力的にも大変になってきます。最近は、家電やまとまった量のごみを処理するのに、費用を徴収したり、回収に条件を付けたりする自治体も増えています。
必要なものをチェックリストで整理し、それ以外のものは、思い切って断捨離を早めに進めることで、身軽な老後を過ごせるでしょう。
この終活作業で自分が考えた内容は、ぜひ記録に残しておきましょう。この記録は「エンディングノート」とも呼ばれ、最近は書店でも色々なスタイルのものが売られています。
記録に残すことで自分の思いを整理できますし、人生を振り返ることで、家族や友人への感謝の気持ちを再確認する機会にもなります。そのうえで、これからの人生をどう生きるか、誰かに伝え忘れた言葉はないか、これからやるべきことは何なのか、もう一度人生に向き合うことができます。
多くの場合、人は、突然、死を迎えます。自らの死の間際に、家族や友人にお別れと感謝の言葉を残すことはできないと考えておいた方がいいでしょう。いざというときのために、事前に感謝の気持ちを残しておくことは、家族や友人にとっても大切な宝物となるでしょう。
なお、死を迎える前にも、エンディングノートが役立つ場面があります。仮に認知症を発症してしまうと、自分の気持ちを伝えるのが難しくなります。自分の介護をどうしてほしいか、元気なうちに自分の希望を残しておくと、介護が必要になったときに、家族の選択が楽になります。
エンディングノートには、自分の財産について書いておく項目があります。
その財産の今後の用途、たとえば、介護費用、施設費用や葬儀費用など将来支出が予想される費用を、エンディングノートに記載しておくことで、今後の計画が立てやすくなります。
もっとも、エンディングノートには、法律上の「遺言」のような法的効力はありませんので、注意が必要です。基本的に、エンディングノートの記載によって、死後の遺産分割に関する法的な取り決めをすることはできないと考えてください。
自ら遺産の分け方を遺族に対して指定しておきたい場合は、エンディングノートとは別に、正式な遺言書を作成して残しておくべきです。
あくまで、エンディングノートの役割は、自分の気持ちを整理するツールであり、残された大切な人たちへのメッセージなのです。
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言など複数の形式があります。
それぞれにメリット・デメリットがありますが、紛失や改ざんの恐れがなく、内容が無効になるおそれも小さい公正証書遺言が安心です。公証役場で証人2名の立ち会いのもと作成し、その後、公証役場で原本が保管されます。
遺言に記載した内容のうち法的効力を有する事項としては、主として、遺産の分け方、相続人の廃除、認知、祭祀(さいし)承継者の指定、遺言執行者の指定などに関する事項があります。これらを法定遺言事項といいます。
なお、法定遺言事項以外の内容を記載しても問題はありません。たとえば、法定相続割合と異なる相続割合での遺産分割を指定した場合、取り分が少なくなってしまった遺族と多くもらうことになった遺族との間で争いになる恐れがあります。
そこで、遺族間の争いを防止するめに、相続割合を変更した理由を遺言書に記載することは有用です。このような記載内容を、付言事項といいます。
遺言の有効性をめぐって、遺族でトラブルになることはしばしばあります。遺族間のトラブルを避けるために作った遺言が、かえって、紛争を招いてしまっては本末転倒です。
遺言作成の折には、ぜひ弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
人はいつ人生の終わりを迎えるのかわかりません。それを完全にコントロールすることもできません。できるのは、今この瞬間を大切にし、前向きに生きることだけです。
終活によって自分の人生を振り返ってみると、きっとこれからの人生が違ってみえるはずです。大切な人をより一層大切にしながら、ひとりひとりのかけがえのない人生を前向きに生きていくきっかけとして、終活を始めてみてはいかがでしょうか。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
自筆証書遺言は、偽造や変造のおそれがある点が大きなデメリットといえます。
万が一、誰かしらに遺言書が偽造された場合、その遺言書に基づいて遺産分割がなされてしまうと不公平なものになってしまうおそれがあるでしょう。
その際は、適切な手続きを踏んで遺言の無効を争うことになります。
本コラムでは、遺言書の偽造が疑われるときの対処法や刑事罰、損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
会社経営者にとって、後継者への事業承継が視野に入ってくると、気になるのは「後継者や家族にどうすれば円満に財産を引き継げるか」ということでしょう。
事業承継が絡む遺産相続は、家族だけの問題ではなく、会社の取引先や従業員にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、慎重に準備を進める必要があります。
特に会社経営者がトラブルのない遺産相続を実現するには、遺言書を作成しておくことが重要です。
本コラムでは、会社経営者が遺言書を作成すべき理由や、作成時のポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書は、亡くなった方(被相続人)の意思が書かれたものなので、有効な遺言書があればそのとおりに遺産を分けなくてはなりません。遺産は元々亡くなった方の所有物だったことから、その処分も亡くなった方の意志に従うのが理にかなっているとされているのです。
しかし、「遺言書の内容に納得いかない」「遺言書を無効にしたい」「遺言書の内容を無視して遺産を分配したい」という相続人もいるでしょう。
まず、遺言書が存在していても、法律上効力を認められない遺言であるために、効果が生じない(無効になる)場合があります。法的に意味がないということは、そもそも遺言がされなかったということと変わらず、遺言書を無視して遺産分割を行うことに問題はありません。
遺言書が有効であったとしても、相続人全員で合意をすれば、遺言とは異なる内容の遺産分割を行うことが可能です。
本コラムでは、有効・無効な遺言書の見分け方や、有効な遺言書があっても遺言書の内容と異なる内容の遺産分割をしたい場合の対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。