遺産相続コラム

相続土地国庫帰属法はどのような制度? 申請要件や費用について解説

2023年02月07日
  • 遺産を受け取る方
  • 相続土地国庫帰属法

相続土地国庫帰属法はどのような制度? 申請要件や費用について解説

相続によって土地を相続したものの、手放すことができず困っているという方もいるかもしれません。そのような場合、相続土地国庫帰属法も相続手続きにおける選択肢のひとつになるでしょう。

利活用していない土地を所有していると、固定資産税や維持管理費用を払い続けなければなりません。しかし、相続土地国庫帰属法を利用すれば、不要な不動産を手放すことができる可能性があります。

今回は、相続土地国庫帰属制度の概要と申請要件などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、相続土地国庫帰属法とは?

相続土地国庫帰属法による、相続土地国庫帰属制度とは、どのような制度なのでしょうか。以下では、制度の概要と相続放棄との違いについて説明します。

  1. (1)相続土地国庫帰属法の概要

    相続土地国庫帰属法とは、相続などによって土地を取得した人が法務大臣(法務局)の承認を受けることによって、その土地を手放し、国庫に帰属させることができるという制度です。

    相続によって土地を取得することになったとしても、必ずしもすべての人が望んで土地を取得するわけではありません。土地を相続した人のなかには、「遠くに住んでいるため利用する予定がない」、「維持管理にかかる費用負担が大きい」などの理由により、土地を手放したいというニーズも高くなっています。

    このように、相続によって望まない土地を取得したことにより、管理不全を招くケースが増加すると、隣接地への悪影響や所有者不明土地が生じるおそれがあります。そこで、これらの問題を解決するために、相続土地国庫帰属制度が設けられました。
    なお、相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月27日から開始となる制度です。

  2. (2)相続土地国庫帰属制度と相続放棄の違い

    相続土地国庫帰属制度は、相続などによって取得した土地を手放すことができる制度ですが、似ている相続手続きに、「相続放棄」があります。相続放棄と相続土地国庫帰属制度ではどのような違いがあるのでしょうか。

    相続放棄は、相続放棄をすることによって、相続に関する一切の権利を放棄することになりますので、不要な土地だけでなく、現金・預貯金などの財産についても相続することができなくなってしまいます

    また、相続放棄をしたとしても、土地の管理義務がなくなるわけではありません。そのため、他の相続人が管理を開始したとき、または、相続財産管理人が選任されるまでは相続放棄をした相続人も土地の管理義務を負うことになります。

    一方で相続土地国庫帰属制度は、相続財産のなかでも不要な土地だけを手放すことができ、それによって土地の管理義務もなくなりますので、相続放棄よりも使いやすい制度といえるでしょう。
    ただし、相続土地国庫帰属制度を利用するためには、後述する要件を満たす必要があります。

2、相続土地国庫帰属制度の申請要件は?

相続土地国庫帰属制度を利用するための要件や費用について説明します。

  1. (1)申請できる人

    相続土地国庫帰属制度の申請をすることができるのは、相続または相続人に対する遺贈によって土地を取得した人です。売買や贈与などによって自ら土地の所有権を取得した人については、相続土地国庫帰属制度の利用はできません。

    また、土地が共有地である場合には、共有持分のみ手放すことはできず、必ず共有者全員で申請をしなければなりません。共有者が複数いて所在が不明な共有者がいる場合には、不在者財産管理人や相続財産管理人を選任してからでなければ、相続土地国庫帰属制度の申請ができないので注意が必要です。

  2. (2)対象となる土地の要件

    相続土地国庫帰属法では、通常の管理処分をするにあたって、過分の費用・労力を要する土地については、国庫帰属制度の利用の対象外となっています。すなわち、以下のような事情がある土地については、申請が却下または不承認される可能性があります。

    ① 申請が却下される土地(一定の事情があれば必ず申請が認められない土地)
    • 建物の存する土地
    • 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
    • 通路その他の他人による使用が予定される土地(墓地、境内地、現に通路・水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地)が含まれる土地
    • 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
    • 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

    ② 申請が不承認とされる土地(ケース・バイ・ケースで申請の是非が判断される土地)
    • 崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
    • 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
    • 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
    • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地(隣接所有者等によって通行が現に妨害されている土地、所有権に基づく使用収益が現に妨害されている土地)
    • 通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地
      たとえば、土砂崩落、地割れなどに起因する災害による被害の発生防止のため、土地等。
  3. (3)必要な費用

    相続土地国庫帰属制度を利用する場合には、申請時および承認時に費用が発生します。

    ① 申請時
    相続土地国庫帰属制度の申請時には、審査手数料がかかります。審査手数料の金額については、現時点では詳しい金額は明らかになっていませんが、物価の状況、審査に要する実費その他一切の事情を考慮して、政令で定めることになっています。

    ② 承認時
    相続土地国庫帰属制度の承認を受けた場合には、負担金を納める必要があります。負担金は、10年分の土地管理費用相当額とされており、その金額は原則として20万円となっています。

    ただし、草刈りなどの管理が必要になると考えられる一部の市街地などの土地については、必要となる管理行為を踏まえて、土地の面積に応じた負担金の金額を算定することとされています。たとえば、100平方メートルの土地だと約55万円、200平方メートルの土地だと約80万円の負担金がかかります。

  4. (4)制度の対象となる土地の取得時期

    相続によって取得した土地であれば、法律の施行前・施行後に関わらず、制度の対象となります。たとえば、数十年前に相続した土地であっても、対象となります。

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3、相続土地国庫帰属法の承認申請手続きの流れ

相続土地国庫帰属法の承認申請手続きは、以下のような流れで行います。

  1. (1)相続人による承認申請

    相続土地国庫帰属制度を利用する場合には、法務局に申請書類を提出します。土地が共有である場合には、共有者の全員が共同で申請しなければなりません。
    なお、具体的な申請書類については、現時点ではまだ明らかになっておらず、今後法務省から詳細が公表される予定です。

  2. (2)法務局による要件審査

    相続土地国庫帰属制度の申請がなされると、法務局による要件審査が行われます。まずは、申請書の書面審査によって、相続土地国庫帰属制度の対象となる土地であるかどうかが判断され、却下に該当する場合には、その時点で申請が却下されます。
    書面審査をパスした後は、法務局の職員による現地調査が行われます。

  3. (3)審査結果の通知

    審査が完了すると審査結果が申請者に対して通知されます。
    審査に不合格となった場合には、不服申立ての手続きも可能です。

  4. (4)負担金の納付

    審査に合格した場合には、負担金の納付が必要です。負担金の納付は、審査結果の通知(負担金の額の通知)を受けた日から30日以内に納付しなければなりません。

4、申請を検討するときに注意しておくべきこと

相続土地国庫帰属法の承認申請を検討する場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)申請要件を満たすように準備が必要

    相続土地国庫帰属制度を利用すれば、どのような土地でも国に引き取ってもらえるわけではありません。一定の要件を満たす土地については、引き取りの対象外とされていますので、相続土地国庫帰属制度の利用をお考えの方は、申請前に要件を満たすように準備を進めておく必要があります。

    たとえば、土地上に建物があるという場合には解体してさら地にする必要がありますし、隣接地との境界が不明瞭であるという場合には事前に測量をして土地の境界を明らかにしておく必要があります。

  2. (2)審査には一定の時間がかかる

    相続土地国庫帰属制度を利用するためには、法務局への申請が必要となります。審査には一定の時間がかかりますので、すぐに土地を手放したいという方には不向きな手続きといえます。

    土地を手放す方法には、相続放棄や土地の売却といった方法もありますので、ご自身に最適な方法を検討してみましょう。

  3. (3)申請内容に虚偽・不正があった場合には損害賠償請求をされるリスクがある

    申請内容に虚偽や不正があった場合には、相続土地国庫帰属制度による承認が取り消される可能性があります。また、虚偽や不正な申請によって国が土地を引き取ったことで国に損害が生じた場合には、国から損害賠償請求を受けるリスクもあります。

    不要な土地であるからといって、不正な手段により制度を利用すると、さまざまなリスクが生じますので、絶対にしてはいけません。

  4. (4)相続登記も義務化される

    相続土地国庫帰属制度とともに相続登記も義務化されることになります。相続登記をせずに放置をしていると、10万円以下の過料というペナルティーを課されるおそれもありますので、相続登記は必ず行うようにしましょう。

    相続によって土地を取得する可能性がある方は、相続土地国庫帰属制度の利用を含めて土地をどのようにするのかを早めに検討しておくとよいでしょう。

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5、まとめ

相続によって不要な不動産を取得した場合には、相続土地国庫帰属制度を利用することによって、不要な土地を手放すことができる可能性があります。制度利用にあたっては、一定の要件を満たす必要がありますので、まずは、ご自身が制度の対象となるかどうかを把握するためにも、専門家である弁護士に相談をしてみるとよいでしょう

ベリーベストには、弁護士以外にも司法書士や税理士も在籍していますので、相続登記が必要な事案や相続税申告が必要な事案であってもワンストップサービスを提供することができます。遺産相続に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒 106-0032 東京都港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話] 03-6234-1585
[ご相談窓口] 0120-152-063

※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。

URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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