遺産相続コラム
相続の際、他の相続人に対する遺贈や生前贈与などが行われて、想定していたよりも遺産(財産)を取得できなかった、という事態になることがあります。そのような場合には、「遺留分侵害額請求」を検討しましょう。
ただし、遺留分侵害額を請求する権利には、消滅時効があります。権利を行使せずに長期間が経過してしまうと、ご自身の遺留分を確保できなくなってしまうおそれがある点に注意してください。
遺留分侵害額請求権を行使する際に、時効消滅しないようにするためには、一定の手続きが必要となります。遺留分侵害額請求を検討している方は、お早めに、弁護士にご相談ください。
本コラムでは、遺留分侵害額請求権の消滅時効期間や消滅時効の完成を阻止する方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺言書や生前贈与によって偏った遺産配分がなされて、不利益を被った法定相続人は、遺留分に基づく金銭的な補償を受けられる可能性があります。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、相続などによって取得できる財産の最低保障額です(民法第1042条第1項)。
具体的には、以下に挙げる基礎財産の総額に対して遺留分割合を乗じた金額が、各法定相続人の遺留分額となるのです(民法第1043条第1項、第1044条第1項、第3項)。
<遺留分の基礎財産>
遺留分の基礎財産=被相続人(亡くなった方)が相続開始の時において有した財産の価額+被相続人が贈与した財産の価額-債務の総額
<遺留分割合>
相続・遺贈・生前贈与によって取得できた財産が遺留分額を下回った場合には、財産を多く取得した者に対して「遺留分侵害額請求」を行うことで、不足額に相当する金銭の支払いを受けられます(民法第1046条第1項)。
なお、令和元年6月30日以前に発生した相続については、旧民法における「遺留分減殺請求」の規定が適用されて、財産の現物返還によって精算されることが原則となります。
遺留分侵害額請求には以下のとおり、「消滅時効」と「除斥期間」が設けられています。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時点から1年が経過すると、時効により消滅します。
たとえば、遺言無効を主張して争っている最中に協議や調停などが長引くことで、遺留分侵害額請求の消滅時効が完成してしまう場合があります。
このような事態を防ぐためには、遺言無効の争いが続いている最中であっても、ひとまずは内容証明郵便などで遺留分侵害額請求を行い、消滅時効の完成を阻止することが必要になるのです。
遺留分侵害額請求権は、相続開始の時から10年が経過すると、除斥期間により消滅します。
消滅時効とは異なり、除斥期間による遺留分侵害額請求の消滅は阻止できません。
たとえば、長年音信不通だった相続人が、被相続人が亡くなったことを知らないままに10年が経過してしまった場合には、除斥期間により遺留分侵害額請求が消滅するのです。
上記の消滅時効が完成する前、または除斥期間が経過する前に遺留分侵害額請求を行った場合、「債権一般の消滅時効期間」が新たに進行することになります。
債権一般の消滅時効期間は、相続開始のタイミングに応じて異なります。
令和2年4月1日に改正民法が施行され、消滅時効に関する規則が変更されたことが理由です。
遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)を行使するために、まず相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時点から1年が経過する前に遺留分を主張するなどして、請求権を行使してください。行使方法は口頭でも可能ですが、トラブル防止のため、通常は、内容証明郵便を利用します。遺留分を主張してから、債権一般の時効消滅を防ぐには、時効の「完成猶予」または「更新」の手続きを取る必要があります。
なお、令和2年3月31日以前に相続が発生した場合には、消滅時効完成を防ぐ方法は、時効の「停止」または「中断」となります。
時効の完成猶予・停止とは、消滅時効期間の進行を一時的に停止させ、時効の完成を先延ばしにすることを意味します。
時効の完成猶予・停止が認められるのは、以下のいずれかの事由が発生した場合です。
<時効の完成猶予事由>(令和2年4月1日以降に相続が開始した場合)
<時効の停止事由>(令和2年3月31日以前に相続が開始した場合)
時効の更新・中断とは、消滅時効期間をリセットして、ゼロからカウントし直すことを意味します。
時効の更新・中断が認められるのは、以下のいずれかの事由が発生した場合です。
<時効の更新事由>(令和2年4月1日以降に相続が開始した場合)
<時効の中断事由>(令和2年3月31日以前に相続が開始した場合)
上記の各方法によって消滅時効の完成を阻止したら、相手方との間で遺留分の精算に関する協議を開始します。
互いに主張を提示し合ったうえで、双方が受け入れ可能な妥協点を探っていくことになるでしょう。
もし遺留分に関する協議がまとまらない場合には、調停または訴訟へと移行します。調停不成立となっても審判に移行することはありません。
調停では、調停委員が双方の主張を公平に聞き取ったうえで、調停案への合意を目指します。
裁判官の作成・提示する調停案に当事者双方が同意すれば、調停は成立です。
訴訟では、裁判所の公開法廷において、遺留分侵害額請求権の存否および金額を争います。
請求する側は、遺留分の基礎財産の内容および金額などを、証拠によって立証しなければなりません。
協議・調停・訴訟によって遺留分侵害額請求権が確定したら、その内容に従って遺留分の精算を行います。
もし相手方が支払いに応じない場合、裁判所に強制執行を申し立てて債権回収することになるでしょう。
参考:遺産分割の調停と審判
遺留分侵害額請求を行うにあたっては、以下のポイントに注意が必要です。
いずれも法的に複雑な問題を含むため、遺留分侵害額請求を行う際には、弁護士に相談することをおすすめします。
遺留分侵害額として請求できる金額は、相続財産・遺贈・生前贈与から構成される基礎財産の総額によって左右されます。
特に、相続財産や他の相続人に対する生前贈与については、どれだけ細かく調べて網羅的に把握できるかが重要なポイントになります。
調査の綿密さがそのまま請求額・回収額に反映されるため、弁護士のサポートを得ながら、徹底的に調査しましょう。
遺留分の基礎財産の中に不動産や非上場株式が含まれている場合、財産の価値評価が問題となります。
預貯金や現金などとは異なり、不動産や非上場株式には客観的な価格が存在しないため、どのような評価手法を選択するかによって最終的な評価額が変わります。
遺留分侵害額請求を行う立場としては、「少しでも評価額を高くしたい」と希望するものでしょう。
そのため、弁護士・不動産鑑定士・公認会計士などの専門家と協力しながら、財産の評価方法について検討することをおすすめします。
遺留分侵害額請求権と混同されがちな権利として、「遺産分割請求権」および「相続回復請求権」が挙げられます。
どの権利を行使すべきかについては、相続人の置かれている状況によって異なります。
弁護士であれば、依頼者の事情をふまえたうえで、適切な判断をすることができます。
遺留分権利者の方が、他の相続人などに対して遺留分侵害額請求を行うことを検討する場合、消滅時効や除斥期間によって権利が消滅しないよう、注意が必要です。遺留分の侵害などを知ってから遺留分を主張すべき時期までの期間は1年しかありません。
消滅時効については、完成猶予(停止)または更新(中断)によって完成を阻止することができます。
弁護士に相談したうえで、早めに手続きを行いましょう。
ベリーベスト法律事務所では、遺産相続に関するご相談を幅広く承っております。
遺留分侵害額請求をご検討中の方や、その他の遺産相続に関するトラブルにお悩みの方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
遺産相続では、特定の相続人が遺産を独り占めしようとしてトラブルになるケースが多々あります。
たとえひとりの相続人が遺産を独り占めする状態であっても、その状態に相続人全員が納得しているのであれば問題ありませんが、そうでない場合には相続人同士の争いに発展するでしょう。
たとえば父の遺産を母が独り占めしようとしていて、それを子どもの立場から阻止したい場合、適切な対応をとることが必要です。
本コラムでは、父の遺産を母が独り占めしようとしているとき、子どもの立場からできる対抗策などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
親が亡くなり、子どもたちが残された遺産を相続することになった場合、兄弟間で相続争いのトラブルが発生するケースがあります。嫌がらせかと思うほど、兄弟の身勝手な主張に振り回され、もめるばかりでなかなか相続手続きが進まず、どうしたらよいのか悩んでしまう方も少なくないでしょう。
遺産相続でもめることは、ささいな内容であっても、精神的に疲弊してしまうことです。早く解決するためにも、そのまま兄弟の主張を受け入れてしまおうかと考えることがあるかもしれません。
しかし、法的な知識をもっていれば、一方的な主張を受け入れなくて済む可能性があります。
本コラムでは、兄弟間で起こりがちな相続争いの例をはじめ、相続分がどのように定められているのかといった相続の基本知識や兄弟間で話し合いがまとまらないときの対応法について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
亡くなった方(被相続人)の遺言が残されていた場合には、原則として、その遺言に従って遺産を分けることになります。
しかし、遺言の内容が「一部の相続人にすべての遺産を相続させる」といったものであった場合には、遺産を相続できない他の相続人から不満が出てくることが予想されるでしょう。このような遺言があったとき、他の相続人は一切遺産をもらえないのかというと、そうではありません。
相続人には、法律上保障された「遺留分」という最低限の遺産の取り分があります。そのため、遺言の内容に不満のある相続人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継、または相続分の指定を受けた相続人を含む)等に対して遺留分侵害額請求をすることが可能です。
本コラムでは、遺言の内容に不満があったときの対応や遺留分と法定相続分の違いなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。