遺産相続コラム
生前贈与による相続対策を行う場合、贈与税や相続税の課税を検討することが必要です。
贈与税と相続税の課税を考える際、生前贈与への課税方式を「暦年課税」と「相続時精算課税」のいずれかから選択することになります。まとまった金額の贈与を行う場合などには、相続時精算課税制度を利用する方が有利になりやすいので、税理士に相談してシミュレーションをしてみましょう。
この記事では、相続時精算課税制度のメリット、注意点および必要な手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
財産の贈与が行われる場合、受け取る人(受贈者)に「贈与税」が課税されます。
贈与税は、原則として贈与の金額に応じて毎年課税されますが(暦年課税)、受贈者が「相続時精算課税」を選択することも認められています。
まずは、相続時精算課税制度とは何なのか、誰が利用できるのかについて、基本的な知識を押さえておきましょう。
「相続時精算課税制度」とは、総額2500万円を限度として生前贈与を非課税とし、その代わりに、相続発生時に相続税を課して精算する制度です。「相続税」とは、相続財産などの金額に応じて、相続人および受遺者に課される税金をいいます。
本来であれば、生前贈与の時点で贈与税が課されるべきところを、贈与者が亡くなった時点で相続税として課税するという課税のタイミングを遅くする点で、実質的に課税を繰り延べる効果が生じます。
相続時精算課税制度には、贈与者および受贈者の双方について利用条件が設けられています。
贈与者(渡す側)は、贈与年の1月1日において60歳以上である必要があります。
他方、受贈者(受け取る側)は、贈与年の1月1日において20歳(※)以上の者のうち、贈与者の直系卑属である推定相続人または孫である必要があります。
(※)令和4年4月1日以後の贈与により財産を取得した場合は18歳
参考:生前贈与
相続時精算課税制度は、相続を見据えた節税対策として有効に機能する場合があります。相続時精算課税制度の節税上の主なメリットは、以下のとおりです。
暦年課税の場合、毎年110万円まで、贈与税の非課税枠が設けられていますが、それを超えた分は累進課税の対象となります。累進課税とは、課税対象の金額が増えるごとに税率が上がる課税方式のことです。
暦年課税は、毎年少しずつ贈与をする場合には課税上有利ですが、同じ年にまとまった金額の贈与をする場合には、贈与税が高額となってしまいます。
この点、相続時精算課税の場合は、総額2500万円までの生前贈与が一律非課税となります。
また、超過分についても、贈与税率は一律20%と、累進課税は採用されていません。
したがって、1年間で大きな金額の贈与を行う場合には、相続時精算課税制度の適用を受けた方が有利になる傾向にあります。
相続時精算課税制度を利用して、住宅や土地などの収益物件を早期に贈与することは、有効な節税対策になる可能性があります。
例えば、不動産を被相続人が所有し、亡くなった段階で初めて相続人に被相続人の財産が相続される場合を考えてみましょう。
この場合、生前の賃料収入が、被相続人の下で相続財産としてたまっていたのであれば、それを相続する際に、相続税が課税されてしまいます。
これに対して、相続時精算課税制度により早期に収益物件を贈与した場合、その後は賃料収入を受贈者が直接受け取れるので、賃料収入に対して改めて贈与税や相続税が課されることはありません。
このように、収益物件の贈与または遺贈を予定している場合には、相続時精算課税制度を利用して早期に贈与することで、節税効果を生じることがあります。
相続時精算課税制度が適用される場合、生前贈与の総額については、相続発生時に相続税が課税されます。このとき、生前贈与の対象財産の価値は、贈与されたときの評価額になります。
つまり、仮に生前贈与の当時よりも、相続発生時の対象財産の価値が上がった場合、相続時精算課税制度の適用を受けていれば、相続税評価額を低く抑えられるのです。
その結果、生前贈与に対する実質的な課税額を抑えられるメリットがあります。
相続時精算課税制度は、適用を受けたとしてもメリットばかりではなく、暦年課税との比較では諸刃の剣であることを理解しておかなければなりません。
相続時精算課税制度の利用を検討する際には、以下の点について注意が必要です。
相続時精算課税の場合、非課税となる贈与額は総額2500万円までです。そのうえ、いったんは贈与税を納付しなくてよいとしても、相続が発生したときには相続財産に贈与された財産を足し戻さなくてはなりません。その結果、相続税の負担が大きくなることもあります。
また、いったん相続時精算課税制度を選択してしまうと、暦年課税の毎年110万円の非課税枠を使うことはできなくなります。
このように、贈与の内容や相続財産の規模などによっては、相続時精算課税が暦年課税よりも有利とは限らなくなるので、きちんとシミュレーションを行うことが大切です。
相続時精算課税制度を選択した場合、生前贈与の総額に相続財産を併せた金額が相続税の基礎控除額を上回れば、相続税の課税が発生します。
また、生前贈与には小規模宅地等の特例が適用されないため、土地について相続時精算課税による生前贈与をすると、課税上不利になる可能性があります。小規模宅地等の特例とは、亡くなった被相続人(同一生計の親族も含みます。)が居住や事業のために使っていた宅地の相続税評価額を最大で80%減額する制度をいいます。
このように、生前贈与や相続財産の規模または内容によっては、相続税額が高額になるというデメリットの方が大きくなってしまうケースがあるので注意が必要です。
相続時精算課税制度の適用を申請した場合、再び暦年課税に戻すことは認められません。
そのため、申請前に暦年課税と相続時精算課税の両方についてシミュレーションを行い、申請後も計画的に生前贈与を行うことが大切です。
実際に相続時精算課税制度の適用を受ける場合、税務署で所定の届け出をする必要があります。
税務署への届け出や、適用開始後の贈与税額および相続税額の計算方法について、大まかなイメージを持っておきましょう。
受贈者が相続時精算課税制度を選択する場合、贈与税の納税地の所轄税務署長に対して、以下の書類を提出します。
上記の書類の届け出期間は、選択をしようとする贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。この期間を過ぎると、その年は暦年課税となるので注意しましょう。
相続時精算課税制度が適用される場合、適用開始年以降に行われる生前贈与については、総額2500万円までは非課税、それを超えると一律20%の贈与税が課されます。
その後、贈与者が死亡して相続が発生すると、相続時精算課税制度が適用された贈与財産の総額と、相続財産などの金額を合計した金額に対して相続税が課されます。なお、相続税率は10~55%の累進課税となっています。
暦年課税と相続時精算課税のいずれを選択するかは、生前贈与による相続対策における重要な問題です。
適切な選択を行うには、両者について具体的なシミュレーションを行う必要があります。しかし、特に不動産を生前贈与する場合には、キャッシュフローを含めたトータルでの課税を考える必要があり、専門的な検討が必要です。
その他にも、無用な相続トラブルを避けるために、生前贈与をする際には他の相続人への配慮が必要です。また、遺言書を作成する場合には、形式および内容を精査する必要があります。
弁護士にご相談いただければ、遺言書作成または生前贈与の実行などについて万全のサポートを受けることができます。
生前の相続対策にご関心をお持ちの方は、一度弁護士までご相談ください。
相続時精算課税制度は、状況によっては節税メリットを生じ得るので、税理士に相談しつつ適切に活用してください。
ベリーベスト法律事務所では、全国各地のオフィスにおいて、弁護士がいつでも相続対策のご相談をお受けしております。また、グループ内税理士同席の下での税務相談も可能であり、ワンストップで総合的な相続サポートをご提供いたします。
生前の相続対策に関する法律または税務上のご相談は、ぜひベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
被相続人(亡くなった方)に配偶者がいる場合、不動産などは、とりあえず配偶者名義にする遺言書を作成したり、または遺産分割協議を行ったりするということは少なくありません。
しかし、被相続人の配偶者が高齢である場合を考えてみましょう。万が一その配偶者が亡くなると、次の相続人がすぐに二次相続をすることになります。二次相続とは、一次相続で相続人になった人が亡くなったときに発生する相続のことです。
法定相続人が子どもの場合、子どもには配偶者特別控除のような大きな控除が認められません。そのため、たとえば相続税上の不動産評価額が高い場合、多額の相続税が発生することがあります。
このような事態を防ぐためにも、あらかじめ二次相続の対策を行っておくことが大切です。
本コラムでは、二次相続対策をするべき理由や二次相続で損をしないための対策方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
生前贈与による相続対策を行う場合、贈与税や相続税の課税を検討することが必要です。
贈与税と相続税の課税を考える際、生前贈与への課税方式を「暦年課税」と「相続時精算課税」のいずれかから選択することになります。まとまった金額の贈与を行う場合などには、相続時精算課税制度を利用する方が有利になりやすいので、税理士に相談してシミュレーションをしてみましょう。
この記事では、相続時精算課税制度のメリット、注意点および必要な手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺産を相続したとき、財産総額が一定以上になっていると相続人は「相続税」を申告・納付しなければなりません。税額が大きくなると手元に残る遺産が減ってしまいますが、相続税は控除などを利用して節税できる可能性があります。
今回は、相続税の基本的な計算方法と控除の制度を、税理士法人ベリーベストの税理士が解説します。