遺産相続コラム
自筆証書遺言は、偽造や変造のおそれがある点が大きなデメリットといえます。
万が一、誰かしらに遺言書が偽造された場合、その遺言書に基づいて遺産分割がなされてしまうと不公平なものになってしまうおそれがあるでしょう。
その際は、適切な手続きを踏んで遺言の無効を争うことになります。
本コラムでは、遺言書の偽造が疑われるときの対処法や刑事罰、損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
民法では、遺言の種類として、普通方式遺言(民法967条以下)と特別方式遺言(民法976条以下)が定められています。以下では、主に普通方式遺言について説明します。
普通方式遺言の方式は3つあります。その中でも自筆証書遺言は作成しやすい一方で、偽造や変造されるおそれも高いため、注意が必要です。
普通方式遺言には、「自筆証書」「公正証書」「秘密証書」の3つの方式が認められています。
上記の3つの遺言書の方式の中で、自筆証書遺言は、公証人によるチェックが唯一行われません。
そのため、遺言者以外の者が、遺言者が作成したものと偽って自筆証書遺言を偽造するケースは起こり得るといえます。
また、原本が公証役場に保管される公正証書遺言や、証書が封印される秘密証書遺言と比較して、自筆証書遺言は内容を書き換えることが容易という側面もあります。
自筆証書遺言が偽造・変造されてしまうと、遺言者の意思が相続の中で適切に実現しないばかりか、特定の相続人が不利益を被ることにもなりかねません。
自筆証書遺言の偽造または変造を証明するためには、筆跡やその他の事情から、遺言者本人が書いたものではないことを示す必要があります。
遺言者自身が書いたものかどうかを判断するに当たって、重要な考慮要素となるのが筆跡です。筆跡には個人のクセや特徴が表れるため、専門鑑定人による筆跡鑑定を行うことによって、遺言者以外の者が自筆証書遺言書を作成したことを証明できる場合があります。
実際に過去の裁判例においても、筆跡鑑定の結果、遺言書の偽造が認定されたケースがあります(高松高裁 平成25年7月16日判決など)。
筆跡以外に、遺言書が偽造されたことの証明につながる要素としては、次のような事柄があげられます。
● 遺言書作成時点での遺言者の自書能力の存否及びその程度、遺言内容の複雑性等
遺言書作成時点で、被相続人の認知能力が相当悪化していたにもかかわらず、かなり詳細かつ複雑な内容で遺言書が作成されている場合など。
● 遺言書の保管状況及び発見状況等
遺言者と疎遠な親族が遺言書を発見した場合や、通常想像ができないような場所から遺言書が発見された場合など。
● 遺言書それ自体の体裁等
遺言書の用紙がそれぞれのページで異なり、遺言書に記載されている文字の色合い、濃淡が異なり、文書形式や言葉遣いが異なる場合など。
● 遺言の動機及び理由、遺言者と相続人または受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等
被相続人と疎遠であったはずの親族などに対して、多額の遺贈が行われているなどの事情がある場合など。
思いもよらない形で自筆証書遺言書が発見され、偽造が疑われる場合には、まず家庭裁判所の「検認」を経て、それから遺言無効確認訴訟の提起を検討しましょう。
自筆証書遺言を発見した場合、遺言書の保管者は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に対して当該遺言書の検認を申し立てなければなりません(民法第1004条第1項)。
検認とは、相続人に対して遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、検認の日時点における遺言書の状態を確定し、遺言書の偽造または変造を防止するための手続きをいいます。検認の際には、あくまでも遺言書の状態の明確化が行われるのみであって、遺言の有効・無効について判断されるわけではありません。
なお、自筆証書遺言書は、家庭裁判所による検認を経ない限り、相続人などが勝手に開封することは禁止されています。遺言書を家庭裁判所に提出することを怠り、検認を経ないで自筆証書遺言書を開封した場合には、「5万円以下の過料」に処される可能性があるので注意しましょう(民法第1005条)。
検認手続きの中で、相続人は自筆証書遺言書の内容を確認することができます。
その段階で、偽造の疑いを持った場合には、裁判所に対して訴訟を提起し、遺言無効の確認を求めましょう。
遺言無効確認訴訟では、筆跡を中心として、遺言の偽造または変造が疑われる事情について主張・立証を行う必要があります。訴訟における主張・立証活動には、事前の法的な検討が不可欠です。訴訟手続きを遂行する手間も考えると、弁護士に相談した上で対応するのがよいでしょう。
遺言書を偽造または変造した場合、当該遺言書が無効になることはもちろんですが、刑事上および民事上のペナルティーを受ける可能性があるほか、相続権を失うこともあります。
刑法上、遺言書の偽造は「有印私文書偽造罪」に該当します(刑法第159条第1項)。有印私文書偽造罪の法定刑は、3月以上5年以下の懲役です。
また、遺言書を変造した場合にも、同様の刑罰が科されます(同条第2項)。
遺言書の偽造、変造、破棄または隠匿は、相続人の欠格事由とされています(民法第891条第5号)。相続欠格事由に該当した場合、相続欠格者は相続権を喪失します。
ただし、相続欠格事由に該当した者に子どもがいる場合には、その子どもが代襲相続します(民法第887条、889条第2項)。
遺言書の偽造によって、相続人や受遺者が損害を受けた場合には、偽造者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できる場合があります(民法第709条)。
遺言書の偽造または変造・紛失を防ぐためには、公正証書遺言を作成する方法、あるいは法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用する方法が有効です。
公正証書遺言は、遺言者自身が公証役場において公証人に遺言の内容を伝え、その内容に基づいて作成されます。
公正証書遺言の原本は公証役場において保管されるので、相続人その他の親族などによって、遺言書が偽造または変造される心配もありません。
参考:公正証書遺言作成の流れ
法務局の「自筆証書遺言書保管制度」とは、令和2年(2020年)7月10日から開始された新しい制度です。法務局において、自筆証書遺言書を保管してもらうことができます。
自筆証書遺言書保管制度を利用する際には、遺言者本人が手続きを行う必要があり、法務局における本人確認も行われます。また、自筆証書遺言者の手元で保管する場合とは異なり、法務局で原本が保管されます。そのため、相続人その他の親族などによって自筆証書遺言書が偽造または変造されるおそれもありません。
遺言書が偽造または変造されてしまうと、不利益を被る相続人が出てしまうことにもなりかねません。さらに、遺言者の意思が正しく実現されないことにもなります。
遺言書の偽造または変造が疑われる場合には、遺言書の無効確認訴訟を見据えて、弁護士に相談しながら対応することがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所は遺産相続専門チームを組織しており、知見・経験豊富な弁護士が多数在籍しています。遺言書に関するあらゆるトラブルを解決へと導きますので、遺産相続トラブルにお悩みの方や遺言書作成にご関心をお持ちの方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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認知症だった父親や母親が遺言書を残していた場合、「遺産相続はその遺言内容に沿って進めなければならないのか」「そもそも有効なのか」と疑問を抱く方は少なくありません。また、遺言書の内容をもとに、相続人同士でトラブルになることもあります。
遺言書の効力については、認知症が相当程度まで進行していた場合、遺言者の判断能力が欠如していたとして、無効になる可能性があります。
本コラムでは、認知症の父親や母親が遺言を残していたときに無効になり得るケースと相続人がとるべき対応について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書を残して亡くなった方がいた場合、原則として、遺言書の内容に従って相続手続きを進めていくことになります。遺言書がある場合の相続には注意点がありますので、しっかりと押さえておきましょう。
また、遺言書の内容が不公平な内容であった場合、遺留分侵害額請求ができる可能性もあります。この遺留分侵害額請求には、期限が設けられていますので、遺留分の侵害を知ったときは早めに行動することが大切です。
今回は、遺言書がある場合の相続の進め方と不公平な遺言への対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
自筆証書遺言は、偽造や変造のおそれがある点が大きなデメリットといえます。
万が一、誰かしらに遺言書が偽造された場合、その遺言書に基づいて遺産分割がなされてしまうと不公平なものになってしまうおそれがあるでしょう。
その際は、適切な手続きを踏んで遺言の無効を争うことになります。
本コラムでは、遺言書の偽造が疑われるときの対処法や刑事罰、損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。