遺産相続コラム
親が亡くなり子どもたちが相続すると、兄弟間で意見が合わずに大きな遺産相続トラブルが発生するケースがよくあります。
それまで仲の良かった兄弟姉妹でも相続をきっかけに絶縁状態になることもあり、注意が必要です。兄弟が争わないためにはどのような対策をとればよいのでしょうか。
今回は兄弟が相続するときの相続割合や遺言書、遺留分など、遺産相続トラブルを回避するために知っておきたいポイントを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺産が実家の土地建物などの不動産しかなく長男が親と同居していたパターンでは、実家の相続方法を巡って兄弟間でのトラブルが発生しやすくなります。長男としては「それまで面倒をみていたのだから」と、実家を相続して当然と考えますが、他の兄弟はきちんと相続分を受け取りたいと考えるからです。
弟や妹が長男に対して、「実家を売却してお金がほしい」などと主張するケースもあります。
子どもたちの中で生前贈与受けた相続人がいると、その相続人の遺産取得分を減少させることが可能です。これを特別受益の持ち戻し計算といいます。
しかし贈与を受けた相続人が生前贈与を否認したり、評価を低く見積もったりすることがきっかけとなり、他の兄弟が納得せず、トラブルとなることがあります。
献身的に親を看病した子どもがいる場合、その子どもの遺産取得分を増額できます。これを「寄与分」と言います。しかし他の兄弟が寄与分を否定することでトラブルに発展する事例があります。
同居していた長男などが親の預貯金を使い込んでいたことが発覚し、他の兄弟との間でトラブルになるケースがあります。実際には使い込んでいなくても他の兄弟が疑心暗鬼になり、トラブルとなる事例も少なくありません。
親が長男だけにたくさんの財産を残すなど、不公平な遺言書を残した場合にも他の兄弟が納得できないのでトラブルにつながります。
兄弟姉妹で遺産相続するときには、以下の事項を押さえておくとよいでしょう。
遺言書があると、基本的には遺言で指定された通りに遺産相続をするので子どもたちが「遺産分割協議」を行う必要がなくなります。相続財産の分け方を巡るトラブルが発生しません。また、自分が他の兄弟より多く遺産をもらいたい場合にも有効です。
遺言書には全文を自筆で書く(財産目録はワープロなどによる作成が可能です)自筆証書遺言、公証人に作成してもらう公正証書遺言、内容を秘密にできる秘密証書遺言の3種類があります。できればもっとも確実性の高い公正証書遺言を親に作成しておいてもらうとよいでしょう。
親が亡くなって子どもたちが相続するときの相続割合は、子どもたちがすべて等分です。たとえば3人の子どもがいたらそれぞれが3分の1ずつになります。
前妻の子どもや認知された子ども、養子などもすべて同じ権利を持ちます。
遺産相続がはじまると、遺言がない場合、相続人たちは自分たちで話し合って遺産の分け方を決めなければなりません。その話し合いを「遺産分割協議」といいます。実はこの遺産分割協議の際に相続人同士の意見が合わずトラブルになる事例がよくあります。
親の生前に遺言書を書いておいてもらい、どの遺産を誰が相続するかきちんと決めておいてもらうと、遺産分割協議が不要になり、トラブル防止になります。
遺言書があっても、法定相続人の「遺留分」を侵害することはできません。遺留分とは、配偶者や子ども、親などの相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。
たとえば遺言書によって「すべての遺産を長男に相続させる」と指定されていても、他の子どもたちは、長男へ、自分の遺留分を侵害する分については金銭で支払うように請求できます。
遺留分権利者が遺留分の侵害額の支払請求をすることを「遺留分侵害額請求」と言います。法改正前は「遺留分減殺請求」といって「遺産そのもの」を取り戻す権利でしたが、法改正によって「お金で精算してもらう権利」に変わっています。
トラブルを避けながら兄弟より有利な条件で相続するには、以下のような対策が効果的です。
生前に何も対策しない場合、子どもたちの遺産取得割合は法定相続分に従うので「すべて等分」です。
たとえば同居の長男などが自宅不動産を受け取りたくても、他の兄弟に代償金を払わないと取得できません。特定の子どもの遺産取得割合を増やすには、親に遺言書を書いてもらう必要があります。遺言書を作成すると長男の遺産取得「割合」を増やすこともできますし、実家不動産などの「特定の財産」を相続させることも可能です。
特定の相続人に多額の遺産を分与すると、他の相続人が遺留分侵害額請求をする可能性があります。あらかじめ遺留分を侵害しない範囲で計算して遺言書を作成してもらうか、あるいは生命保険金を受け取れるようにしてもらうとよいでしょう。
生命保険金は原則として特別受益とならないため、受け取った生命保険金を遺留分侵害額請求の支払に充てることが可能です。
親が生前に特定の相続人に財産を贈与したら、その財産は遺産ではなくなるので確実に特定の子どもが引き継ぐことが可能です。ただし相続開始前10年間に行われた生前贈与は「特別受益」になるので、トラブル防止のために親が遺言書で「持ち戻しの免除」をしておく必要があるでしょう。
持ち戻しの免除の意思表示をしておけば、生前贈与を持ち戻して計算する必要はなく、生前贈与を受けた相続人の取得分を減らされる心配がなくなります。
親の財産内容が明らかになっていれば無用なトラブルを避けられる可能性があります。不動産をはじめとして預貯金や株式などの把握しにくい財産についてすべて明確になっていれば、他の兄弟から「使いこみ」や「遺産隠し」などと言われるトラブルを避けられます。
不動産がある場合には「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3種類の方法があり、兄弟で公平に分けるには基本的に換価分割か代償分割をするケースが多数です。換価分割とは不動産を売却して代金を等分で分ける方法、代償分割とは不動産を取得する相続人に代償金を払ってもらう清算方法です。
ただし他に預貯金や株式などの流動資産がある場合には、兄に不動産を渡し他の兄弟が預貯金を受け取るなどの方法でも公平に遺産分割できます。
将来親が亡くなったときに兄弟ともめないためには、親が生きているうちに以下のような対策をしておきましょう。
まずは親に対してどのような遺産相続方法を希望するのか意思を確認し、兄弟間で共有します。
他の相続人にそれぞれ将来の遺産相続時、どのような遺産分割方法を希望するか聞いておきます。
将来のトラブルを防止するため、親に遺言書を書き残してもらいます。自筆証書遺言の場合「偽物ではないか」「無理に書かせたのではないか」などと言われてトラブルになる可能性が高くなります。できるだけ無効になりにくく確実性の高い「公正証書遺言」を作成してもらいましょう。
同居の長男がいる場合や事業承継のケースなど「特定の相続人に確実に遺産を受け継がせたい場合」には生前贈与も有効です。
その場合、遺言書を作成して「特別受益の持ち戻し免除」の意思表示を明確にしておくことも必須です。この意思表示は、文書などによる明示のものでなくても可能ですが、争いを避けるために、必ず遺言書などの書面に記載しておくようにしましょう。
親が元気なうちに親自身の協力を得てしっかり親の財産関係を整理しておきましょう。どこに財産の資料がしまわれているのかを聞いて、財産調査を行い、財産目録を作り、概算の評価額や預貯金残高なども記入しましょう。目録を作成しておくと「隠し財産があるのではないか?」と疑われてトラブルになるのを避けられます。
親が認知症になった場合などに備えて財産管理をきちんと行うことも大切です。認知症になった後に長男が預貯金を出金するとそれだけで「使いこみではないか」と言われてしまうケースが多々あります。親による財産管理が不安になってきたら、任意後見、成年後見、信託などを利用して適正な方法で遺産管理を進めていきましょう。
将来親の相続の際、兄弟間でもめ事になるのを避けるには、事前に弁護士に相談しておくことも有効です。以下で弁護士に依頼するメリットをご紹介していきます。
遺産相続の際には、誰が相続人になるのか(法定相続人)、どのくらい相続できるのか(法定相続分)をはじめとしてさまざまな法的知識が必要です。
弁護士に相談すれば必要なアドバイスを受けられて、法律の正しい考え方を理解できます。兄弟全員が正しい考え方を共有できれば無益な争いには発展しにくくなります。
親が存命中に相談すると、遺言書作成のサポートを受けられます。
親が遺言書作成に積極的でなくても弁護士が促してくれたり遺言内容を提案してくれたりしたら、親も重い腰を上げることでしょう。公正証書遺言の作成方法がわからない場合などにも弁護士がサポートします。
将来遺産分割協議の際に他の兄弟とトラブルになってしまったときにも弁護士に相談していればスムーズに対応してもらえます。トラブルにならなかった場合には「遺産分割協議書」の作成を依頼してその後の遺産相続手続きを任せることも可能です。
弁護士に相談する前には、以下の準備をしておくとよいでしょう。
● 親族関係をまとめる
誰が相続人になる可能性があるのかを把握するため、被相続人の親族関係を明らかにする図面を作成します。親、子、孫、兄弟、おいめいまでの情報を記入しましょう。
● 遺産内容をまとめる
どのような遺産があるのか、財産内容をまとめた表を作成します。
● 悩みの内容をまとめる
兄弟仲が悪いのか親が不公平な遺言書を書きそうなのか、自分ができるだけ多くの遺産をほしいのかなど、懸念される事項をメモにまとめ、相談時に持参しましょう。
遺産相続の際には法定相続人の順位や遺産分割、財産調査の方法、相続手続きについての基本的な知識が必要です。またトラブルを防止するためにできる工夫や注意点もあります。
ベリーベスト法律事務所では、必要事項を適切にご説明し、ケースに応じたアドバイスとサポートをいたします。兄弟で遺産相続トラブルになりそうで不安を感じておられるなら、まずはお気軽に当事務所までご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。