遺産相続コラム
親が亡くなり、子どもたちが残された遺産を相続することになった場合、兄弟間で相続争いのトラブルが発生するケースがあります。嫌がらせかと思うほど、兄弟の身勝手な主張に振り回され、もめるばかりでなかなか相続手続きが進まず、どうしたらよいのか悩んでしまう方も少なくないでしょう。
遺産相続でもめることは、ささいな内容であっても、精神的に疲弊してしまうことです。早く解決するためにも、そのまま兄弟の主張をのんでしまおうかと考えることがあるかもしれません。しかし、法的な知識をもっていれば、一方的な主張を受け入れなくても済む可能性があります。
本コラムでは、兄弟間で起こりがちな相続争いの例をはじめ、相続分がどのように定められているのかといった相続の基本知識や兄弟間で話し合いがまとまらないときの対応法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
そもそも何が相続の対象になり、何が対象にならないのでしょうか。
相続の対象になるのは、故人の所有していた財産や権利、負債関係です。たとえば現金預貯金、不動産や車、株式などは遺産相続の対象となります。また賃貸人・賃借人の地位や損害賠償請求権などの権利関係も相続されます。
一方、お墓や仏壇などの祭祀(さいし)財産、雇用契約の地位、年金受給権、養育費の支払い義務など、故人に一身専属的な権利義務は相続の対象になりません。
子どもたち(兄弟姉妹)が親の遺産を共同で相続すると、以下のような相続争いが起こることがあります。
● 兄が「すべての遺産を取得する」と主張する
兄弟の相続争いで多いのは、兄が「すべての遺産を自分が取得する」と言い出すパターンです。長男は自分が家を継ぐのだから当然遺産は全部もらうべきと考えているのかもしれません。
しかし現在の民法では家督制度が廃止されており、長男がすべての遺産を相続すべきという考え方は法律上ありません。
● 不動産の分割方法が決まらない
不動産の分け方が決まらず、兄弟間の相続争いにつながるケースも多数です。
上記のようなパターンが典型です。
● 兄が葬式費用などの支払い分を遺産から控除すべきと言う
兄が喪主として被相続人である親の葬式や四十九日などの法事をしたため、これに費用がかかったとして、その費用分を遺産から多くもらいたいと主張してくることがあります。
● 生前、被相続人の介護をしていたので多くの遺産を渡せと言われる
兄が生前、被相続人である親の介護を行っており「寄与分」が認められるとして高額な遺産分割を要求してくる相続争いのパターンもあります。
● 兄が多額の生前贈与を受けている
兄が被相続人である親の生前に高額な生前贈与を受けているので「特別受益」が問題となるケースがあります。兄が特別受益を受けていたとしたら兄の遺産相続分を減らすことができますが、本人が特別受益を認めないこともあり、そのような場合には相続争いに発展します。
兄が「すべての遺産を相続する」などと発言していたとしても、遺産分割協議において、弟がその内容に納得し合意しなければ、兄がすべて相続することはできません。
遺産分割協議書は、相続人全員が参加して実印で署名押印する必要がありますので、納得するまで話し合いを継続することが必要となります。
また、遺言書があって「長男にすべての遺産を相続させる」などと書かれていても、弟には「遺留分」が認められ、弟の取得分が0になることはありません。
遺留分とは、一定範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。
遺言や贈与によって相続人の遺産取得分がなくなったり減らされたりしても、最低限遺留分までは取り戻しが可能です。兄が「遺言があるからお前には遺産をやらない」と言っていたとしても、弟は遺留分を主張していくことができます。
遺留分が認められるのは、兄弟姉妹をのぞく法定相続人で、具体的には配偶者、子ども、直系尊属(被相続人の親や祖父母など)が該当します。
被相続人の孫やひ孫などの直系卑属については、代襲相続の場合にのみ遺留分が認められます。
遺留分が認められないのは、以下のような人です。
親が亡くなって子どもたちが兄弟で相続する通常のケースでは、兄にも弟にも遺留分が認められます。たとえ遺言によって兄がすべての遺産を相続しようとしていても、弟は遺留分を請求していくことができます。
参考:遺留分についての基礎知識
遺言書があり、「長男にすべての財産を残す」などと書かれていて、遺言書の有効性を争わない場合には、以下のような対応をとることができます。
遺留分を取り戻すには、「遺留分侵害額請求」という手続きが必要です。遺留分侵害額請求権とは、遺留分の侵害者へ遺留分に相当する金銭の支払いを求める権利です。
遺留分は、遺産そのものを取り戻す権利ではなく「お金で清算を求める権利」なので、遺留分侵害額請求権を行使したら相手からはお金を払ってもらうことになります。
なお2019年6月30日までは遺留分の請求は「遺留分減殺請求」といって「遺産そのものを取り戻す権利」でした。現在は法改正によってお金で取り戻す権利に変わっているので注意しましょう。
兄弟姉妹や甥・姪以外の相続人には最低限の遺産取得分である遺留分が認められますが、何もしなければ遺留分侵害額の支払いを受けることができません。
遺留分侵害額を払ってもらうには、侵害された相続人が侵害者へ積極的に遺留分侵害額請求の意思表示を行わなければなりません。
また、遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する遺贈や贈与があったことを知ったときから1年間行使しないと、時効により消滅してしまいます。また、相続開始のときから10年間が経過した場合には、除斥期間により消滅します。時効や除斥期間により遺留分侵害額請求権が消滅してしまう前に、早めの対応を行う必要があります。
まずは兄に「遺言があるとしても遺留分を払ってほしい」と求め、兄が拒絶するようであれば請求した証拠を残すためにも、内容証明郵便で遺留分侵害額請求を行使するとの意思を表示した書面を送るとよいでしょう。
兄弟間で相続争いが発生したときには、弁護士に相談するとさまざまなメリットがあります。
兄が一方的な主張をしているような場合、法的な知識がないと「兄の言うことに従うしかないのか」などと思ってしまうものですが、弁護士に相談すれば弟や妹の法的な権利が守られます。
たとえ「長男にすべての遺産を相続させる」という遺言書があったとしても、遺留分侵害額請求をして、最低限の遺産取得分を求めていくことができます。
遺産分割を行うときには、正しく遺産の範囲を確定する必要があります。遺産に含まれるのか固有の権利として遺産分割が不要な資産なのか、兄弟間で遺産の範囲を巡って相続争いが発生するケースも少なくありません。
弁護士は、遺産に該当するものとそうでないものを裁判例などから適切に判断します。その上で被相続人の遺産の総額を計算するため、適切な遺産分割が期待されます。
兄がむちゃな主張をするので相続争いになったとしても、弁護士が代理人として相手を説得すると相手の考えが変わる可能性があります。
「あなたの考えは裁判実務では採用されません、このような運用が通常されます」などと根拠をもって説明し、話し合いで解決できれば調停や審判、訴訟などに発展せず済むこともあります。
兄弟間の相続争いが大きくなると、遺産分割協議を進めるのが負担になるものです。そのようなときには弁護士に遺産分割協議の交渉を代理人に任せることにより、手間とストレスを大きく軽減することができます。
不公平な遺言が残されていた相続争いのケースでは、遺留分を正しく計算して遺留分侵害額請求を行う必要があります。
ただ、遺留分の計算は複雑で法律家でないと間違ってしまうケースも少なくありません。
弁護士であれば、遺産の評価や遺留分の計算を正しく行うことができます。
遺留分侵害額請求を行うとき、兄弟などの当事者が直接交渉するとお互いに感情的になり、相続争いが激化してしまうことがあります。しかし、弁護士が代理人になることで、互いに冷静になって話し合いを進めやすくなることも少なくありません。
また、遺留分侵害額請求を行う手間やストレスを軽減できますし、時効が心配な場合にも弁護士であれば確実に請求を行って時効が問題にならないようにすることが可能です。
兄弟で遺産相続争いが発生すると、遺産分割調停や審判、遺留分侵害額調停や訴訟などの手続きが必要になるケースもよくあります。こういった裁判手続きを有利に進めるには弁護士によるサポートが必要です。
兄弟が遺産相続手続きを進めるときには、相続争いのトラブルが起こりがちです。嫌がらせのような不利な条件を押しつけられて、「このまま条件を受け入れるしかないのか」とお悩みの方もいるでしょう。
遺産相続に関するトラブルを適切に解決するには、弁護士によるサポートが必須といえます。
ベリーベスト法律事務所には、遺産相続専門の弁護士チームとスタッフが所属しており、あらゆる相続トラブルに対応することが可能です。親身になってお話を伺い、サポートいたしますので、兄弟との遺産相続トラブルでお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
特定の相続人に対してすべての遺産を相続させる旨の遺言が残されていたようなケースでは、不公平な遺産分配に納得がいかず、不満を感じる相続人の方もいるでしょう。
このような場合には、遺留分侵害額請求権を行使することで、遺留分権利者は、侵害された自身の遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。
本コラムでは、遺留分権利者や遺留分割合などの基本的なルールについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書がある場合には、遺言書の内容に従って相続手続きが進められることになります。
しかし、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害するような内容であった場合には、遺言書と遺留分のどちらが優先されるのでしょうか。また、遺言書により遺留分が侵害された場合には、どのような方法によって侵害された遺留分を取り戻せばよいのでしょうか。
今回は、遺留分と遺言書に関する基本事項から、遺留分を侵害された場合の手続きまで、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
令和元年の相続法改正により、遺留分の計算時に基礎とされる特別受益の範囲が、相続が開始される前から「10年以内」の贈与に限定されることになりました。
遺産相続における遺留分を計算するルールは、非常に複雑なものとなっているため、お困りになる方も少なくありません。
しかし、遺産相続は誰しもが経験し得るものであり、法改正の内容や相続のルールなどを正しく理解することはとても重要です。
本コラムでは、特別受益や遺留分に関する基礎的な知識や、相続法で規定されているルール、具体的な計算方法について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。特別受益や遺留分のことでお悩みがある方は、ぜひ最後までご一読ください。