遺産相続コラム
両親の子どもが自分ひとりだけだった場合、遺産相続のことで相談できる兄弟姉妹もおらず、「なんだか不安…」という方は少なくありません。なかには、一人っ子なら遺産分割をする必要もなく、「特に心配する必要もない」と思う方もいるでしょう。
実際のところ、相続税の計算においては、相続人の数が少ないほど不利になるケースがあります。また、親に借金がある場合には相続放棄をしない限り、その借金を背負うことになるなど、知らないと損する事柄もあるため、注意が必要です。
本コラムでは、何かと不安な一人っ子の遺産相続について、注意すべき点や、今のうちから準備しておくべき相続対策などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
一人っ子と兄弟姉妹がいる場合の相続の違いは、相続税の計算において基礎控除額が少ないということです。相続税の課税対象となるのは、相続財産とみなし相続財産(相続開始前3年以内の贈与財産や死亡保険金など、本来相続財産ではないが相続税法上相続財産とみなされるもの)の合計額から基礎控除額を差し引いた部分です。それがマイナスになる場合には、相続税は発生しません。
基礎控除の額は、法定相続人の人数によって異なります。法定相続人の人数が多いほど基礎控除額も大きくなって有利になりますので、相続税額の面だけを見ると一人っ子の方が不利になります。もっとも、一人っ子の場合、最初に片方の親が亡くなったときに、相続財産をめぐって、親の配偶者ともめることはあっても、兄弟姉妹間で争いが生じることはなく、最終的にはご両親からの相続財産を全て独り占めできるというメリットがあるので、納税額が高くても、兄弟姉妹ともめたり、兄弟姉妹と相続財産を分ける必要はないという利点はあります。
ここで注意すべきなのは、相続財産が不動産だけの場合です。
両親が死亡して最終的に不動産を一人っ子が1人で取得したとしても、基礎控除が少ない分、相続税を負担しなればならなくなる確率は高くなります。そして、相続税は原則として現金で納付する必要があるので、相続対象となっている実家の土地や建物に住み続けたい場合、相続税を納付するための現金を調達する必要に迫られる場合があります。
納付する現金が調達できなければ、相続税を不動産で物納するなり、相続した不動産を売却するしかありませんが、物納は優良物件しか認めてくれず、それだったら売った方がいいということになったり、慌てて不動産を売却して安値で買いたたかれてしまったりといったリスクもあります。
ただ、個人が相続や遺贈によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人の事業の用または居住の用に供されていた宅地等は、そのうち一定の面積までの部分について、相続財産の額として算入すべき価額を計算上減額する特例があります。これが「小規模宅地等の評価減の特例」です。この特例の適用を受ける場合には、相続税の申告をしなければなりません。
今回、適用される要件のご説明は省略しますが、たとえば「居住用」としての要件を満たす宅地であれば、自宅の敷地の評価額を減額して相続税を計算することが可能です。
両親の財産を最終的にすべて相続した一人っ子が、結婚しておらず子どももいない、祖父母ももう亡くなっている状況では、まったく相続人がいないということになります。まったく相続人がいない場合、遺言によって誰かに贈与することもできますが、そういった遺言もなく、「特別縁故者」もいないというときには、遺産は国庫に帰属することになります。
内閣府が公表する「令和4年版 少子化社会対策白書」のデータによると、50歳時の未婚割合(生涯未婚率)について、令和2年(2020年)は男性が28.3%、女性が17.8%になっています。つまり、男性の約4人に1人、女性の約6人に1人は独身ということです。
生涯未婚率は今後も上昇すると見込まれており、未婚の人が増えることによって、相続人(子ども)がいないというケースが増えていくと予想されます。
親の相続人となる子どもは、自分以外にはいないと思っていても、被相続人(亡くなった方)の前婚の子どもや隠し子(婚外子)がいる可能性があります。そのため、本当に自分以外に相続人がいないかを確認する必要があります。前婚の子どもや認知されている婚外子がいる場合、他の相続人がその存在を知らなかったとしても、その子どもは相続人になります。また、被相続人が養子縁組をしていた場合、養子にも実子と同様に相続権があります。
本当に一人っ子かどうかを確認するには、被相続人の戸籍をたどっていくしかありません。被相続人の死亡時から出生時まで遡って全ての戸籍を調べることで、他の子や養子の有無を確認することができます。
他の子どもが見つかったときには、その子どもも法定相続人ですので、その子どもも含めて遺産分割をする必要があります。
一人っ子であっても常に親の財産を相続できるわけではありません。被相続人が、第三者に全部の財産を遺贈するという遺言を残していたら、一人っ子でも遺留分侵害額の請求しかできませんので、遺言書が存在していないか、調査・確認をする必要があります。
遺言書には、通常の作成方式として、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があります。自筆証書遺言とは、遺言者が手書きで作成する遺言のことです。公正証書遺言とは、公証人の前で遺言者が遺言書の内容を説明し、公証人が遺言書を作成するものです。秘密証書遺言とは、自分で作成した遺言書を封印して公証人に提出し、公証人が作成日などを記録するものです。
この中で、公正証書遺言を探すのは簡単です。平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、全国どこの公証役場からでもデータベースで検索することができるからです。したがって、相続人の方がご自宅の近くの公証役場に行けば、簡単に調べることができます。
自筆証書遺言と秘密証書遺言にはそのような検索システムがないので、被相続人が使っていた、タンスや金庫、書斎の引き出しなどを探すしかありません。これらの場所から見つからなかった場合でも、銀行の貸金庫や弁護士などに預けている可能性があります。
ただし、令和2年(2020年)7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が開始されました。こちらの制度を利用した場合、遺言書保管法11条が適用されるので検認も不要になります。この制度を遺言者が利用していれば、遺言者が亡くなった後、遺言書が保管されているか否かを相続人等が確認できることになります。
封印された遺言書が発見された場合、これを家庭裁判所において、相続人またはその代理人の立ち会いのもと開封する必要があります。封印された遺言書は家庭裁判所で開封して検認が行われることになります。開封や検認の手続きに違反すると5万円以下の過料に処せられます。
検認が終わると、裁判所で、遺言書の「検認済証明書」を発行してもらうことができます。相続に関する手続きで遺言書を使用する際には、この検認済証明書が必要となります。なお、公正証書遺言の場合は、開封手続きも検認も必要ありません。
相続の手続きを始めるためには、故人がどのような財産を持っていたかを調べる必要があります。相続税の申告に必要だからです。また、故人に借金があり、相続放棄や限定承認をする場合、それらの手続きには期限があるので、そのためにもすみやかに調査を行う必要があります。
必ず調査すべきものは、預貯金、有価証券、不動産、借金、保証についてです。預貯金や株などの有価証券は、故人宛ての郵便物なども手掛かりにしながら、取引がありそうな金融機関(銀行、証券会社など)に問い合わせます。不動産は、権利証や固定資産税の通知書から法務局や市町村に確認することになります。
借金や保証の有無は、契約書など関連する書類がないか故人の自宅などを探してみましょう。特に、被相続人が連帯保証人になっていた場合、相続人の方が債権者から返済を請求される可能性があるので、注意が必要です。督促の郵便物はないか、預金から定期的に引き落とされているものはないかなどということにも注意しましょう。このほか、信用情報機関(JICC、CIC、KSC)に照会するという方法もあります。
また、仕事の都合などで、相続人がご自分で調査するのは難しいという場合には、弁護士などに財産調査を依頼されることをおすすめいたします。専門家であれば、財産調査のノウハウを持っているため、正確な調査を期待できます。
遺産分割協議書が必要かについては、一人っ子かどうかではなく、相続人が複数いるかどうかによります。つまり、一人っ子が親の不動産の相続登記をする場合であっても、相続人が2名(たとえば、死亡した親に配偶者がいる場合など)以上いる場合には、遺産分割協議書が必要になります。
他方、相続人がひとりしかいない場合は、遺産分割協議書を作らなくても、相続する不動産について自分の名義に相続登記することができます。ただ、親の出生からの戸籍謄本を取って、相続人が自分ひとりであることを法務局に示す必要があります。
参考:遺産分割協議とは
相続をする場合、「一次相続」だけでなく「二次相続」にも注意する必要があります。一次相続とは、両親のどちらかが亡くなった場合の1回目の相続のことです。二次相続とは、一次相続が終わった後にもうひとりの親が亡くなった場合の、2回目の相続のことです。
なぜ、二次相続を考える必要があるかというと、一次相続で配偶者の相続分が大きいなどという事情がある場合、配偶者には配偶者控除などがあるので一時相続では相続税の負担は少ないのですが、二次相続で子どもに大きな負担が掛かる可能性があるからです。特に一人っ子の場合、最終的に両親の遺産をその一人っ子が全て相続することになってくるので、二次相続において、多額の相続税を賦課される可能性があります。
参考:遺留分とは
相続税対策にはいろいろなものがありますが、代表的なものとして、生前贈与があげられます。
生前贈与とは、文字通り、生前に財産を贈与することです。生前に財産を贈与することで、相続財産を減らすことができます。税率自体は、相続税より贈与税のほうが高く設定されていますが、贈与の場合、年間110万円までは非課税なので、毎年110万円以内で贈与していければ、最終的にかなり税金を減らすことができます。
たとえば、相続人となるべき人に対してあらかじめ毎年100万円を10年間贈与しておけば、相続財産を1000万円減らすことができ、相続税の節税が期待できます。ただし、相続前3年間の贈与はみなし相続財産とされ、相続税がかかる点にはご留意ください。
兄弟姉妹がいない一人っ子の遺産相続でも、損をしないために知っておくべき事柄があります。
遺産相続はいつ発生するかわからないものですが、事前に対策を講じることでトラブルを回避できる可能性が高まるため、親が生前のうちに話をしておくとよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、グループ内に税理士も所属しておりますので、法律問題はもちろん、相続税などの税金に関する対策もワンストップで承っております。
遺産相続に関して気になることがあったり、お困りごとがあったりする際には、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。遺産相続に詳しい各士業が連携しながら、最適な解決方法をご提案いたします。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。