遺産相続コラム
遺産相続を進める際「財産目録」があることで、遺産全体の内容が一目でわかり、相続人が遺産分割協議(話し合い)をスムーズに行いやすくなります。
本コラムでは、そもそも財産目録とはどういったものか、また相続手続きにおける財産目録の重要性や作成時の注意点など、相続法改正における変更点も交えて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
相続における財産目録とは、相続財産の内訳や評価額をまとめた一覧表です。現金預金や不動産、株式などの資産、負債を含む被相続人の各財産とそれぞれについての評価額を記入し、合計額や差引額など相続財産の状況を示します。
財産目録は、被相続人が作成する場合と相続人が作成する場合があります。被相続人が作成する場合には、財産目録を基準に遺言書を作成します。相続人が作成する場合には、相続財産調査をした結果を財産目録にまとめます。どちらの場合でも、相続手続きを円満かつスムーズに進めるのに役立つので、ぜひとも活用しましょう。
財産目録を作成すると、以下のようなメリットがあります。
被相続人が財産目録を作成して遺言書を作成する場合、財産目録を基準に遺言書を作成することが多いです。財産目録を作成することで、何を誰にどれだけ分配するのかがわかりやすくなるからです。
特に、2019年1月13日以降に作成される自筆証書遺言は、民法の改正により、財産目録の部分は自筆を要しないことになりました。財産目録を作成しておくと自筆証書遺言ですべての財産を自筆で記載するという手間が省略できます。
被相続人があらかじめ財産目録を作成し、生前に所有していた全ての財産の内容を明らかにすることで、一部の共同相続人が預貯金などの相続財産を隠匿することが難しくなるというメリットがあります。また、被相続人が亡くなってから相続人の相続財産調査が行いやすくなるというメリットがあります。
遺産分割協議の際には、どの相続人がどの財産を取得するか共同相続人全員で話し合って決める必要があります。このとき、意見が一致せずにトラブルになる例も少なくありません。
遺産分割協議に先立ってあらかじめ共同相続人において相続財産調査の結果を財産目録にまとめておけば、財産の範囲や評価額については共同相続人同士で合意できます。あとは法定相続割合に応じて分けていけば良いだけなので、比較的スムーズに遺産分割協議を進められます。
財産目録は、相続税の申告時にも利用・参照できます。相続税申告書には財産の明細を記載する必要がありますが、あらかじめ財産目録があれば相続税申告の要否を確認したり、申告時に参照することができます。
財産目録を作成するときには、以下のようなことに注意しましょう。
財産目録を作成するには、まずは相続財産の内容を詳しく調査する必要があります。漏れがあるとせっかく作成した意味がなくなるので、各財産の種類ごとに細かく調べましょう。
特に、被相続人本人ではなく相続人が調べる際には漏れが発生しやすいので注意が必要です。銀行から残高証明書を取り寄せたり、証券会社に問い合わせたり、法務局で不動産の全部事項証明書を取得したり、役所で名寄帳を確認したりして、1つ1つ明らかにしていきましょう。
財産目録には、以下のような財産の内訳と評価額を記載します。評価方法や評価基準時も記載しておくと便利です。
資産だけではなく、負債もあれば書き入れる必要があります。
葬儀費用は相続財産ではないですが、記載しておくと相続税申告時に便利です。
財産目録の記載方法をご説明します。
不動産の場合には法務局で「全部事項証明書」を取得し、記載されている地番、家屋番号、地目、種類、構造、地積、床面積(㎡)をそのまま引き写し、評価額を記載します。評価額は時価や相続税評価額を記載することが多いのですが、時価等がわからなければ、最低限固定資産税評価額を記入しておくことをお勧めします。
預貯金については金融機関名、支店名、口座番号、口座名義人を記載して特定し、価格を書きます。遺産分割は、遺産分割時点の相続財産を分割するので、相続開始時(死亡時)における預金残高から変動することがあります。相続開始時の残高を記入すれば、相続税申告の参考のために役に立ちます。
車なら、車検証に従って、メーカ-(ブランド)、車種型式、ナンバー、所有者、評価額を記載します。有価証券なら、取引証券会社名、発行会社名、銘柄、種別、証券番号等、数量と価額を記載しましょう。動産は、名前(ダイヤモンドの指輪など)と評価額を書きます。
債務の場合には、負債の種別(借入金など)、債権者名、ローン名や商品名、支払日、完済予定日などと残額を記載します。
このように個別の資産・負債を特定した上で資産・負債をそれぞれ合計し、最終的に資産から負債を差し引けば財産目録が完成します。
財産目録は、パソコンで作成してもかまいません。エクセルなどのソフトを使うと便利です。
なお、相続人が財産目録を作成するときには問題なくパソコンを使えたのですが、被相続人(遺言者)が自筆証書遺言を作成するときに添付する財産目録については、改正民法が2019年1月13日に施行される前は遺言者が自筆しなければならないという決まりがありました。ところが、改正民法が施行されることにより、遺言書に添付される財産目録については、パソコンや代筆での作成が認められるようになりました。
そこで、現在は自筆証書遺言に添付する財産目録も、パソコンで作成したものが有効となります。
ただし、自筆証書遺言の本体部分は自筆で書く必要がありますし、財産目録の各ページにも署名押印が必要です(改正民法968条1項・2項)。
財産目録を作成する際には、以下のような事項に注意が必要です。
まず、相続財産の内容や評価を間違いなく正確に記載することが大切です。不動産の全部事項証明書の記載内容を引き写す際や口座番号を書くときなど、簡略化せずにすべての項目(たとえば、預貯金なら金融機関名と支店名と口座番号と名義人まで全部)を可能な限り書きましょう。
また、法改正によって遺言書に添付する財産目録も自書する必要はなくなり、パソコンで作成したり登記簿・預貯金通帳の写しを添付したりすることが可能になりました。そうであっても、既に述べたとおり「全てのページに署名押印」が必要です。単に目録のみ添付しただけでは無効になるおそれがあり、注意が必要です。
遺言書作成の際、添付する財産目録が適切な方法で作成されていないと、遺言内容自体が無効になる可能性があります。公正証書遺言ならば通常そういった問題はありませんが、自筆証書遺言のケースでは特に注意が必要です。
遺産分割協議書に添付する財産目録の記載が間違っている場合、遺産分割協議書自体が無効になるわけではありませんが、その遺産分割協議書をもって不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどができなくなる可能性があります。
財産目録を作成するためには、まずは適切な方法で詳しく相続財産調査を行い、その内容を正しく一覧表にまとめなければなりません。少しでも間違っていたら、せっかく作成した遺言が無効になったり相続手続きを完了できなかったりするリスクが発生します。
このようなトラブルを防止するためには、相続の専門家である弁護士に依頼することをお勧めします。以下で、弁護士に財産目録作成を依頼するメリットをご紹介します。
相続人にとって、相続財産調査は簡単ではありません。取引金融機関を調べて個別に訪問し、残高証明書の発行を依頼しなければなりません。不動産についても、法務局で全部事項証明書を取得し、役所で固定資産評価証明書や名寄せ帳を確認し、さらには不動産業者に依頼して不動産業者に評価額を査定してもらう必要などがあり、手間がかかります。
弁護士に相続財産調査を任せることで、相続人自身が行うべき作業が大幅に減るので、かなり楽になります。
被相続人や相続人が自分で財産目録を作成すると、「間違っているのではないか?」と不安になるものです。弁護士が作成する場合には法的に正しい方法で作成するので、作成方法や記載内容を間違えて無効になるリスクを軽減できます。
弁護士に相談すると、自筆証書遺言や公正証書遺言などの遺言書の作成の手伝いを依頼できます。弁護士が遺言作成に関われば、法定相続人の遺留分などにも配慮できるので、死後の遺留分トラブルも予防できます。
弁護士を遺言執行者に指定しておけば、死後に弁護士が各種の遺産相続手続きを進めるので、スムーズに遺言内容を実現できるメリットもあります。
相続人が作成する財産目録は、遺産分割協議書に添付することもできます。弁護士に財産目録の作成のみを依頼することも可能ですが、実際には遺産分割協議書の作成も依頼した方が便利です。弁護士に遺産分割協議書作成を依頼すると、法的な観点から不備のないものを作成してくれるので、遺産分割協議が無効であるとの主張をされるなどのリスクを軽減できて安心です。
遺産分割協議でまとまった協議内容に従って、預貯金払い戻しの手続きも、弁護士が共同相続人らに代わって行うことができるので、スムーズに進められるでしょう。
相続人が遺産分割協議を行うとき、どうしても意見が合わずにトラブルになる場合も少なくありません。そんなとき弁護士に依頼をしていれば、法的に正しい解決へと導き、意見をまとめられる可能性が高まるでしょう。
万一、どうしても意見が割れて遺産分割調停などが必要になる場合でも、弁護士を遺産分割調停・審判の代理人として対応を任せることができます。
遺言書作成や遺産分割協議書作成は、司法書士でもできますが、代理人として交渉を行うことや調停・審判の代理人などになれるのは弁護士のみです。
遺言書を作成するとき、財産目録はパソコンで作成してもかまいませんが、その他の本体部分については全文自筆で書く必要があります。その他、遺産相続手続きにおいては正確な法的知識を要するポイントが多々あります。
当事務所では財産目録作成サポートを始めとして、さまざまな相続関係業務を行っております。税理士とも提携しているので相続税申告納税などについてのご相談も承っております。
円満かつスムーズに遺産相続手続きを終わらせるため、相続についてお悩みの際には、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
結婚相手に連れ子がいる場合、結婚の際に養子縁組をすることもあるでしょう。
養子縁組を行うと、養親は養子に対して扶養義務を負い、養親と養子は互いに相続権を持つことになります。もしその配偶者と離婚した場合でも、連れ子との親子関係は継続するため、注意が必要です。
たとえば、養子縁組をそのままにしておくと、離婚後も養育費の支払いをしなくてはならず、また死後、あなたの遺産が離婚した元配偶者の連れ子に相続されることになります。
法的な権利義務関係を解消するためには、養子縁組を解消しなくてはなりません。しかし、養子縁組解消(離縁)の手続きをしたくても、養子や実父母から拒否されることもあるでしょう。
本コラムでは、養子縁組を解消する手続き方法や拒否されたときの対処方法、法律の定める養子縁組をした子どもとの相続関係について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺産相続が始まったとき、相続人同士による相続争いが起きないようにするためには、生前に相続対策を講じておくことが重要です。
さまざまある相続対策のなかでも、生命保険金を利用したものは、遺留分対策として有効な手段となります。特定の相続人に多くの財産を渡したいとお考えの方は、生命保険金を活用した相続対策を検討してみるとよいでしょう。
本コラムでは、生前にできる遺留分対策や弁護士相談の有効性などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
将来の遺産相続を見据えたとき、「孫に財産を残したい」と考える方は多数いらっしゃいます。しかし孫は通常、相続人にならないため、相続権がありません。
つまり、何の対策もしなければ孫へ遺産を相続することは不可能です(本来相続人である子どもが亡くなっている場合の代襲相続を除く)。相続人ではない孫に遺産を受け継がせるには、遺言書作成や生前贈与などによる対策を行いましょう。
ただし、孫に遺産を相続するとなれば、本来相続人ではない方に遺産を受け渡すことになるため、他の相続人とのトラブルを招く場合があります。
本コラムでは、円満に孫に遺産相続させる方法や、遺産相続の際に起こり得るトラブル回避方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。