遺産相続コラム
平成29年から「法定相続情報証明制度」が利用可能となっています。
「法定相続情報証明制度」を利用すると、相続手続きを行う際の不動産の名義変更や預貯金払い戻しなどの手続きを大幅に簡略化できる可能性があるので、是非ともその内容を知っておきましょう。
今回は「法定相続情報証明制度」の概要と利用方法、メリットやデメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。
法定相続情報証明制度とは、相続が発生した際に相続関係を法務局に証明してもらえる制度です。
つまり、そのケースで被相続人にどのような関係の相続人がいるのかを、法定相続情報一覧図にして法務局が証明してくれます(不動産登記規則第247条)。そこには被相続人や相続人の氏名、本籍、続柄等の情報が記載してあるので、法務局に申し出て法定相続情報一覧図の写しの交付を受けると、それを使って「不動産の登記」や「預貯金払い戻し」などの各種の相続手続きに利用できます。
法定相続情報証明制度を利用しなかったら、相続手続きをする時に「被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本」などをいちいち取得しなければならず大変面倒です。法定相続情報証明制度を利用すると法定相続情報一覧図の写し1通で足りるので、大変便利になります。
ただし、これはあくまでも相続関係を証明する制度なので、複数の相続人のうち、誰がどの財産を取得したかということは、別途遺産分割協議書などを作成して証明しなければなりません。
法定相続情報証明制度は、2017年5月29日に開始されたばかりの比較的新しい制度です。
法定相続情報証明制度は、具体的に何の目的で利用できるのか解説いたします。
(いずれの手続きでも、法定相続人が複数存在している場合には、その相続人がその財産を取得したことについては、別途遺産分割協議書などによる証明が必要になります。)
不動産を相続したら、登記所(法務局)で名義変更の申請をしなければなりません。その際、すべての戸除籍謄本を揃えなくても、法定相続情報一覧図の写しがあれば不動産登記申請できます。
相続財産に預貯金があれば金融機関で名義変更や解約払い戻しなどをしなければなりません。法定相続情報証明制度に対応している金融機関であれば、被相続人の戸籍謄本などを用意しなくても法定相続情報一覧図の写し1通で手続きできます。
被相続人が株式などの有価証券を持っていた場合には、それらの名義変更も必要です。証券会社や株式発行会社が法定相続情報証明制度に対応していたら、戸籍除籍謄本や住民票などを用意しなくても名義変更手続きをしてもらえます。
保険金を受けとるときや保険の名義変更をするとき、相続情報を証明しなければならないケースがあります。法定相続情報証明制度に対応している保険会社であれば、いちいち戸籍謄本類を集めなくても済みます。
2018年4月からは、法定相続情報証明制度が拡充されて「相続税の申告時」にも利用できるようになっています。税務署に法定相続情報一覧図の写しを提出すれば、戸籍謄本類を提出する必要はありません。(ただし、図形式のものであり、実子と養子が区別できるものに限ります。)
なお、相続税の申告の場合にも、相続人が複数であるには遺産分割協議書等は原則として必要ですが、申告時までに分割ができなかった場合には、遺産分割協議書を添付せず、法定相続分で相続財産を取得したものとして申告をすることもあります。ただし、この場合には、特例が利用できなくなったり、事後的に特例の適用を受けるためには特別の書類を出さなければならないなどのデメリットもありますので、税理士などの専門家によく相談されることをお勧めします。
法定相続法上証明制度を利用するためには、必要書類を揃えて法務局に法定相続情報一覧図の写しの交付の申出をすることが必要です。
法定相続情報一覧図の写しの交付の申出をする法務局は、以下の地を管轄する法務局になります。
申出ができるのは相続人のみです。
法定相続情報一覧図の写しの交付を申出する際の必要書類は以下の通りです。
法定相続情報証明制度には、メリットもデメリットもあります。
不動産その他の相続財産の名義変更を同時進行で進められる。
従来、不動産や預貯金、株式などの名義変更を行うときには、それぞれの申請先に被相続人のすべての戸籍謄本、除籍謄本、住民票の除票や相続人の戸籍謄本など、大量の書類を集めて提出しなければなりませんでした。
手続き中は書類の原本を返却してもらえないので、1つの手続きが終わってから次の手続きをせざるを得ず、時間がかかっていました。
法定相続情報証明制度を利用すると、まとめて必要な枚数を発行してもらえるので同時に相続手続きを進め、スピーディーに終わらせることが可能となります。
●戸籍謄本を集める手間と費用を省ける
従来は、同時進行で早く相続手続きを進めたい場合などには何組も戸籍除籍謄本や住民票などの書類を取得して、法務局や各金融機関などに提出する必要がありました。
すると大変な労力がかかりますし、費用もばかになりません。
法定相続情報証明制度を利用すると、一度法務局に申出をしたら何度でも無料で法定相続情報一覧図の写しの交付を受けられるので、再度戸籍除籍謄本類を集める必要はありません。
書類集めが当初の1回だけで済むので、労力や費用を大きく削減できます。
法定相続情報証明制度には、以下のようなデメリットもあります。
●当初に申出をするのが面倒
法定相続証明制度を利用するには、管轄の法務局に必要書類を揃えて申出をしなければなりません。申出書や相続関係情報一覧図などを作成する手間もかかります。
不動産や預貯金などの名義変更が必要な財産が少ないならば、あまり利用のメリットを得られないでしょう。
●対応していない機関がある
法定相続情報証明制度は、法務局における登記申請や相続税申告の場面では利用できますが、民間の金融機関や保険会社、証券会社などでは対応していないケースもあります。
法定相続情報一覧図の写しさえ取得していれば、すべての相続手続きに対応できると期待していても、戸籍謄本などの取得を指示されて手間がかかるケースもあります。
このように、どこでも利用できるとは限らない点も、デメリットと言えるでしょう。
法定相続情報証明制度を利用できるかどうかについては、事前に各金融機関等に確認しておく必要があります。
法定相続証明制度の利用を含め、相続関係の手続きや対応を弁護士に相談すると、以下のようなメリットを得られます。
●適切なアドバイスをもらえる
遺産相続手続きでは、対応を迷ってしまう場面が多々あるものです。たとえば「誰が相続人になるのか」「相続人調査はどうすればよいのか」「遺産分割協議書はどのように作成すれば良いのか」などがわからないこともあるでしょうし、今回ご紹介した法定相続情報証明制度を利用した方が良いのか迷う方もおられます。
そんなとき、弁護士に相談するとケースに応じて適切なアドバイスを受けられるので、安心して相続手続きを進められます。
●労力と時間がかからない
今回ご紹介した法定相続情報証明制度も含め、相続手続きでは手間がかかることが多くあります。すべて自分達で対応していては、多大な労力と時間がかかってしまうでしょう。
書面作成などを弁護士に任せることにより、相続人自身は普段通りの生活を送ることが可能となります。
●トラブルを予防できる
遺産相続の場面では、トラブルが発生するケースも多々あります。共同相続人となっている配偶者と親、兄弟姉妹がもめることもありますし、子どもたちが遺産分割協議でトラブルになる例もあります。
弁護士が関与していたら、できる限り相続トラブルを防ぐべく配慮して手続きを進めますし、無理な要求をする相手には法的な考え方に従って説得をするので、トラブルに発展しにくくなります。
●トラブルになったときに対応できる
遺産相続の場面で実際にトラブルになってしまった場合も、弁護士に相談すればすぐに対応が可能です。家庭裁判所で遺産分割調停を申し立て、弁護士が代理人となって相談者にとってなるべく不利にならないように手続きを展開していきます。
相続の場面では、トラブルになってもならなくても、弁護士に相談しながら進めていくと安心ですし、そのうえスピーディーかつ確実です。
相続問題を弁護士に依頼すると、費用がかかる点がデメリットと言えるでしょう。
ただ、時間や労力をお金で買うと思えば損ではありませんし、リーズナブルな事務所を選べば、弁護士費用もさほど高額にはなりません。
トラブルになったときなどには、そのまま問題を放置しておくと問題が雪だるま式に大きくなってしまい、むしろ弁護士に依頼しない損失の方が大きくなる可能性があります。
費用面について不安があれば、一度弁護士に相談してみると良いでしょう。
遺産の中に不動産が多数含まれている場合などには、法定相続情報証明制度を利用すると相続手続きを大きく簡略化できてメリットが大きくなります。法定相続情報一覧図の写しの交付の申出が面倒な場合には、弁護士が代理人となって手続きをすることも可能ですし、その後の相続手続きもすべて弁護士が進められます。
遺産相続に時間をとられて、普段の生活がないがしろになってしまうとストレスも大きいものです。相続対応で悩みがある場合、時間がなくてついつい放置している場合などには、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。知見のある弁護士が親身になってサポートいたします。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
令和6年4月1日の法改正により、相続登記の義務化が始まりました。義務が発生するのは4月1日以降の相続だけでなく、それ以前に発生した相続も対象になります。
そのため、期限までに相続登記を終えなければ過料の制裁を受けるリスクがあるため、注意が必要です。
こうした制裁リスクを回避できるように新しく創設された制度が、「相続人申告登記」です。
相続登記をするには、遺産分割協議で遺産の分配を決める必要がありますが、期限内に遺産分割に関する話し合いがまとまらないケースもあるでしょう。そのようなときに、この相続人申告登記の制度を利用することで、より簡単に相続登記の申請義務を履行できるようになりました。
本コラムでは、相続登記の義務化に伴い、新たに導入された相続人申告登記の基礎知識について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人と連絡が取れない場合、その人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加しなければならないからです。
たとえ大勢いる相続人のひとりと連絡が取れない場合であっても、勝手に相続手続きを進めてしまうと、遺産分割協議は無効となってしまいます。
行方不明者や連絡が取れない相続人がいる場合には「不在者財産管理人」を選任したり「失踪宣告」をしたりして、法的に適切な対応を進めなくてはなりません。
また、連絡は取れる状態で無視されているようなケースでは、遺産分割調停や遺産分割審判を申し立てることが必要です。
本コラムでは、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産相続の流れや注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
民法・不動産登記法が改正され、令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。対象となる相続登記は、法改正以降に発生した相続だけでなく過去の相続も含まれるため、注意が必要です。
相続登記を行う期限は、「改正法の開始日(令和6年4月1日)」もしくは、「不動産を相続により取得したことを知った日」の、どちらか遅い日から3年以内、遺産分割協議で取得した場合は、別途、遺産分割協議成立日から3年以内となるため、ご自身の場合の期限がどこになるかを見極めて、早めに手続きを進めていくことをおすすめします。
今回は、相続登記義務化の概要と登記しなかった場合の罰則、すぐに相続登記ができない場合の救済措置(相続人申告登記)について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。