遺産相続コラム
他の相続人が勝手に使い込んだ遺産を取り戻すには、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を行う方法が考えられますが、ここでは不当利得返還請求についてご説明いたします。
これらの請求については、時効期間が過ぎると返還請求ができなくなるので注意が必要です。お早めに弁護士へ相談して、不当利得返還請求の準備を進めましょう。
本コラムでは不当利得返還請求について、消滅時効・遺産相続における事例や方法、注意すべき点や対策などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「不当利得返還請求」とは、法律上の原因なく利益を得た者に対して、損失を被った者が当該利益の返還を求める請求です(民法第703条、第704条)。
遺産相続の場面では、遺産を使い込んだ相続人に対して、他の相続人が不当利得返還請求を行うケースがあります。
不当利得返還請求は、以下の要件をすべて満たす場合に行うことができます。
たとえば、一部の相続人が勝手に遺産を使い込んだ場合には、他の相続人は不当利得返還請求により、使い込まれた遺産を取り戻すことができます。
不当利得返還請求権は、以下のいずれかの期間が経過すると、時効により消滅します(民法第166条第1項)。
時効期間が経過すると、不当利得返還請求を行うことはできなくなってしまうので、早めに証拠を集めるなどの準備を進めることが大切です。
なお、不当利得返還請求とは別の法律構成として、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求を選択することもできます。不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間は、損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年のうちいずれか早い方です(民法第724条)。
状況によっては、不当利得返還請求より不法行為に基づく損害賠償請求の方が有利となることがあるので、対応については弁護士にご相談ください。
不当利得返還請求権の時効完成を阻止する方法としては、以下の例が挙げられます。
遺産相続の場面では、たとえば以下のような形で不当利得返還請求が行われることが多いです。
遺産を管理している相続人が、他の相続人の承諾を得ずに、遺産に含まれる預貯金を使い込んでしまうケースがあります。
この場合、他の相続人は使い込みをした相続人に対して、不当利得の返還を請求できます。
遺産に含まれる不動産を管理している相続人は、収受した賃料を遺産に組み入れることなく、自分の懐に入れてしまうケースがあります。
不動産の賃料は、遺産である不動産とは別の財産であり、各共同相続人が相続分に応じて分割された債権を単独で取得することとなり、分割単独債権として確定的に各共同相続人が取得するとされています。そのため、他の相続人は賃料を独り占めした相続人に対して、相続分に相当する賃料相当額について不当利得の返還を請求できます。
不当利得返還請求は、以下の手順で行うのが一般的です。
まずは、不当利得に関する証拠を確保することが大切です。訴訟などの法的手続きへ発展した場合には、証拠の有無が結果を大きく左右します。
たとえば預貯金の使い込みであれば、被相続人の銀行口座の入出金履歴などを調べて、不正な出金が行われていないかをチェックしましょう。
不当利得に関する証拠がそろったら、金額を集計して実際の請求額を決定します。
なお、不動産や貴金属類など額面が明確でない財産については、不当利得返還請求に当たって価値評価を行わなければなりませんので、弁護士にご相談ください。
不当利得返還請求は、まず相手方に対して書面を送付して行うのが一般的です。
書面は、配達証明付き内容証明郵便の方法で送付するのがよいでしょう。
金額や計算方法が明示されていた方が相手方との交渉もしやすいですし、相手方に対し「正式な請求である」という印象を与えられます。また、内容証明郵便の方法によって書面で送付した場合、請求内容や相手方に到達した日時が記録に残るので、消滅時効の完成猶予を主張する際に役立ちます。
書面に対し相手方から返答を受けたら、不当利得の返還について交渉しましょう。
相手方との交渉がまとまらない場合は、裁判所に不当利得返還請求訴訟を提起しましょう。
訴訟では、請求する側が不当利得返還請求の要件をすべて立証しなければなりません。弁護士のサポートを受けながら、準備を周到に整えた上で訴訟に臨みましょう。
遺産相続について不当利得返還請求を行う際には、以下の各点に注意が必要です。弁護士のサポートを受けながら、適切な対策を講じましょう。
不当利得返還請求を行うに当たって必要な情報は、相手方が保有・管理しているケースが多いです。相手方は情報開示を拒否することが多いため、不当利得に関する調査は難航する場合があります。
ご自身では調査が難しい情報については、訴訟における調査嘱託(民事訴訟法第186条)や文書送付嘱託の申し立て(民事訴訟法第226条)を行うと判明することがあります。
これらの手続きは、不当利得に関する調査が難航している場合に弁護士にご相談ください。
遺産の使い込みについて、法定相続人が単独で返還を請求できる不当利得の金額は、自らの法定相続分相当額が上限です。
法定相続分相当額を超える金額の返還を求めるには、他の相続人と共同して不当利得返還請求を行いましょう。複数の相続人がまとめて一人の弁護士に依頼すれば、手間やコストを軽減できます。
遺産を使い込んだ人がほとんどお金を持っていない場合は、不当利得分を実際に回収することは困難です。差し押さえられる財産がないため、強制執行も空振りに終わってしまいます。
不当利得分の回収を成功させるためには、相手方がお金を使い果たしてしまう前に、早めに弁護士へ依頼することが大切です。弁護士にご依頼いただければ、民事保全によって強制執行の対象財産を確保するなど、不当利得分の回収が成功するようにサポートいたします。
相続税の申告・納付期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。遺産の使い込みについて不当利得返還請求を争っている最中でも、相続税の申告・納付は行わなければなりません。
遺産分割が完了していなければ、法定相続分に従って暫定的な相続税の申告・納付を行いましょう。後に不当利得返還請求や遺産分割の問題が解決すれば、その段階で更正の請求や修正申告を行って税額を修正します。
ベリーベスト法律事務所へご相談いただければ、グループ内に所属する税理士と連携し、相続税の申告・納付についてもワンストップでサポートいたします。
使い込まれた遺産は不当利得として返還を請求できますが、消滅時効が完成すると不当利得返還請求はできなくなります。一刻も早く弁護士に相談して、使い込まれた遺産を取り戻すための対応を開始しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、遺産の使い込みに関するご相談を随時受け付けております。
不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求など、さまざまな方法を比較検討した上で、お客さまが適正額の遺産を取得できるようにサポートいたします。請求額の計算・相手方との交渉・訴訟の提起など、必要な対応を一括して弁護士にお任せいただけます。
遺産相続に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。