遺産相続コラム
相続人が認知症の状態にある場合は、意思能力(判断能力)の有無を確認する必要があります。遺産分割協議は、相続人全員の合意によって遺産の分け方を決める行為のため、原則、意思能力のない方がいる場合には遺産分割協議を進めることができないからです。
軽い認知症であり、遺産分割の内容も複雑ではないのであればその遺産分割協議を行う程度の意思能力が認められることもありますが、本人やご家族だけで判断せず、医師の診断を受けたうえで、弁護士のアドバイスを得ると安心です。
本記事では、軽い認知症の相続人がいる場合に必要となる対応や注意点などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
認知症の状態にあると、自分の行為の結果を正しく判断する能力(=意思能力)が低下します。意思能力が認められないと、遺産分割協議に参加できません。
以下では、認知症の相続人は遺産分割協議に参加できるのか、意思能力があると判断される基準などについて解説します。
民法上、意思表示をした人が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とされています(民法3条の2)。
遺産分割協議での同意も法律行為に当たるため、相続人が認知症により意思能力がない場合には、遺産分割協議で同意してもその同意は無効です。
認知症が軽度であれば、まだ意思能力が残っていて、遺産分割協議での同意が有効とされる場合もあります。
意思能力に疑義がある状態で遺産分割協議を行うと、後々遺産分割協議が有効に成立したのか争いが生じることになりますので、遺産分割協議を行う前に、医師の診断と弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
意思能力が認められるためには、自分の行為の結果を判断できることが必要です。行為の内容にもよりますが、一般的には、7~10歳程度以上の人には意思能力があると考えられています。
遺産分割についても、その内容にもよりますが、たとえば以下のようなことが理解できる場合に、意思能力があると考えられます。
上記のようなことが理解できない場合は、意思能力がないと判断される可能性が高いです。自身が住んでいる住所や、氏名、生年月日などが言えるだけでは、意思能力があるとは評価できず、同意した遺産分割協議は無効の可能性があります。
意思能力の有無が争われた場合は、医師の診断書が重要な証拠となります。遺産分割協議の前に、医療機関を受診して診断書をもらうことも考えられます。
認知症の相続人がいる場合に、誤った方法で相続手続きを進めようとするケースも少なくありません。
特に、以下のポイントに注意しながら、適切に相続手続きを行いましょう。
認知症の相続人は、自分の名前を書くのが難しい場合があるため、遺産分割協議書の署名を別の相続人が代筆するケースがあるようです。
しかし、遺産分割協議書への署名は本人が行わなければなりません。
たとえ本人の意思に沿っていても、別人が署名していると、後になってその有効性が争われるおそれがあります。
さらに、本人の意思を確認せずに遺産分割協議書の署名を代筆した場合は、有印私文書偽造罪(刑法第159条第1項)の責任を問われることもあり得るので十分ご注意ください。
また、遺産分割協議書には、本人の署名だけでなく、実印による押印と印鑑登録証明書の添付が必要となります。
相続放棄は、プラスの財産とマイナスの財産を一切相続しないとする手続きのことをいいます。
認知症によって意思能力が全くない状態にある人は、自分で相続放棄をすることはできません。相続放棄も法律行為に当たるためです。
判断能力が低下した相続人について、他の相続人が勝手に相続放棄の手続きを行って遺産分割協議を進めようとするケースも少なくありませんが、そのような進め方は認められないため注意が必要です。
認知症の相続人がいる場合の対処法が分からないために、遺産分割協議をせずに保留するケースも見られます。
しかし、遺産分割協議を行わずに保留していると、以下のような弊害が生じます。
これらの弊害を避けるためには、弁護士のサポートを受けながら、適切な手続きを踏んで速やかに遺産分割を行いましょう。
認知症により判断能力や意思能力が低下した相続人がいる場合に、遺産分割協議をするためには、成年後見制度を利用する必要があります。
以下では、成年後見制度について詳しく解説します。
「成年後見」とは、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が十分でない本人に代わって、法定代理人が法律行為をしたり、本人の行為に同意したりする制度です。
成年後見制度の目的は、本人に代わり十分な判断能力を有する代理人に法律行為をさせることで、本人の財産を保護することにあります。
成年後見制度の種類は、以下の3つのタイプがあります。
| 区分 | 対象者 | 本人の権利を守る人 |
|---|---|---|
| 補助 | 判断能力が不十分な方 | 補助人 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な方 | 保佐人 |
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 | 成年後見人 |
判断能力が高い順に補助・保佐・後見となります。認知症の程度に照らして、どれを申し立てるべきなのかを検討します。
家庭裁判所で選任申立てをして、家庭裁判所に補助人、保佐人、成年後見人を選任してもらいます。
成年後見制度で選ばれる補助人・保佐人・成年後見人は、本人の親族が選任されるケースもありますが、遺産分割協議を行うために申し立てる場合には、弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースの方が多いです。
成年後見制度で補助人を選任する際は家庭裁判所に申し立てますが、申立てに必要な書類の準備に相応の時間を要し、そして申立て後も実際に補助人等が選任されるまでには1~3か月程度の時間がかかります。
相続手続きの中には、相続放棄や相続税申告など、期限が設けられているものもあります。また、遺産分割ができない状態が長期間続くと、前述のとおり、遺産が活用できないままになってしまいます。
速やかに相続手続きを進めるためにも、補助人等の選任申立てには早めに着手しましょう。
相続の場面では、補助人と被補助人(成年後見制度を利用し補助人から支援を受ける人)がどちらも相続人となる場合があります。
被補助人が単独で遺産分割協議に参加することができるケースでは問題ありませんが、補助人に同意権・代理権が与えられている場合には、「補助人自身の利益を求める立場」と、「被補助人の代理人として、被補助人の利益を求める立場」が矛盾してしまうことがあります。このような関係を「利益相反」といいます。
利益相反となった場合には、客観的にみて、補助人である相続人が被補助人の利益のために行動することが期待できませんのでそのまま遺産分割協議を進めることはできません。
利益相反の場合には、補助人は臨時補助人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。臨時補助人は、補助人と被補助人が利益相反となる手続きを進めるために選任されるため、当該手続きが終われば任務終了となります。
利益相反となってしまった場合の進め方に悩んだら、弁護士に相談するようにしましょう。
認知症で意思能力が不十分となった相続人のために、成年後見制度で補助人(保佐人・成年後見人)が選任されるまでの手続きの流れと注意点を解説します。
補助人(保佐人・成年後見人)の選任は、被補助人本人の住所地の家庭裁判所に対して申し立てます。
補助人の申立てに要する費用と主な必要書類は、以下のとおりです。
参考:「補助開始」(裁判所)
なお、成年後見人は本人の代わりにすべての法律行為を代理しますが、補助人は本人の意思能力が一定以上ある状態のため、成年後見人のような広い裁量は認められていません。補助人の場合には、あくまでも補助を受ける本人が希望する範囲内でサポートを行うことになります。
遺産分割協議において、補助人に被補助人の代理をさせたい場合には代理権を、被補助人の行為に補助人の同意を必要としたい場合には同意権を付与する審判をしておく必要がありますので、申立ての際には注意しましょう。
申立てを受けた家庭裁判所は、本人の判断能力の状態や、推薦された候補者が適任か否かを審理します。
補助人は、被補助人本人の利益のために行動することが求められます。特に遺産分割協議を行うために申し立てる場合には、親族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多くなります。
また、補助人(保佐人・成年後見人)は、必ずしも申立時に推薦した候補者が選任されるとは限らず、他の人が選任されるケースもあります。推薦した候補者が選任されなかったことを理由に不服申立てをすることはできません。
なお、場合によっては本人の精神状況を確認するために鑑定が要求されることもあり、その場合には申立人が鑑定費用を負担します。
本人のために補助人(保佐人・成年後見人)の選任が適切だと家庭裁判所が判断した場合は、補助人等を選任する審判を行います。
補助人を選任する場合には補助開始の審判、保佐人を選任する場合には保佐開始の審判、成年後見人を選任する場合には後見開始の審判を行い、補助人・保佐人・成年後見人が選任されます。
これ以降、補助人(保佐人・成年後見人)は、裁判所に認められた権限の範囲内で本人のために法律行為をすることができるようになります。
軽度であっても認知症の状態にある相続人がいる場合は、意思能力の有無を慎重に判断し、必要に応じて成年後見制度を利用しましょう。
認知症の相続人がいる場合の相続手続きの進め方が分からない場合や、相続人間でのトラブルが心配な場合は、なるべく早く弁護士へ相談してアドバイスを受けましょう。
ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。認知症が関係する相続手続きもサポートいたしますので、心配事がある方はベリーベスト法律事務所へご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
相続人が認知症の状態にある場合は、意思能力(判断能力)の有無を確認する必要があります。遺産分割協議は、相続人全員の合意によって遺産の分け方を決める行為のため、原則、意思能力のない方がいる場合には遺産分割協議を進めることができないからです。
軽い認知症であり、遺産分割の内容も複雑ではないのであればその遺産分割協議を行う程度の意思能力が認められることもありますが、本人やご家族だけで判断せず、医師の診断を受けたうえで、弁護士のアドバイスを得ると安心です。
本記事では、軽い認知症の相続人がいる場合に必要となる対応や注意点などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
任意後見人は、判断能力が不十分になった方の代理人として、本人の財産を管理するなどの役割を担います。
しかし実際には、任意後見人を監督する「任意後見監督人」の選任が行われない、任意後見契約内容の認識に食い違いがある、親族と対立するなど、トラブルが生じるケースが少なくありません。
本記事では、任意後見人について起こりがちな6つのトラブル事例や、トラブルの解決方法・予防策などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
マンションを相続する際には、多くのステップを踏んで手続きを行う必要があります。相続税の納税義務が生じる可能性も高いでしょう。
適切に対応するためにも、弁護士や税理士のサポートを受けながら手続きを進めることをおすすめします。
本記事では、マンションの相続における期限や相続税の目安、遺産分割する際の手段などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。