遺産相続コラム
養子縁組により養親と養子との間には、法律上の親子関係が生じますので、養子は、養親の遺産を相続する権利があります。
しかし、養子が遺産相続に参加する養子縁組の相続では、一般的な相続に比べてトラブルが生じるケースが多いといえます。このようなトラブルに対処するには、養子縁組の相続に関する基本事項を押さえておくことが大切です。
今回は、養子縁組の相続に関するトラブル事例やその対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
養子縁組をした後の相続では、どのようなトラブルが起こるのでしょうか。まずはその事例を紹介します。
養子と実子との間では、お互いの相続分を分け合うことになりますので、養子が法定相続人になると実子の相続分が減ります。相続分が減ることに不満を持った実子から養子に対して嫌がらせをするなどのトラブルが生じることがあります。
家業を継がせるなどの理由で、実子の配偶者と養子縁組をすることがあります。
しかし、養子縁組をした後で、実子とその配偶者が離婚しても、養子縁組関係は自動的に解消されません。そのままにしておくと、元配偶者が相続人となり、トラブルが生じる可能性があります。
再婚相手に子どもがいた場合、再婚相手の連れ子との間で養子縁組をするケースが多いです。夫婦関係が円満であれば問題ありませんが、その後離婚をした場合に、養子縁組関係は自動的に解消されないため、その後の相続でトラブルが生じることがあります。
養子縁組では、孫を養子にすることも可能です。しかし、孫を養子にする場合には、相続税の2割加算が適用されます。また、節税目的で行った養子縁組が、相続人の人数を減少させる結果となり、かえって相続税の負担を増やしてしまう可能性もあります。
養子縁組は、節税対策の手段としても用いられており、節税目的だったからといって養子縁組が直ちに無効になるわけではありません。
しかし、養子縁組をするには、実質的な親子関係を創設する意思が必要になりますので、そのような意思がなくもっぱら節税目的しかない場合には、養子縁組が無効と判断されるおそれもあります。
1章では、養子縁組の相続でありうるトラブルをご紹介しました。では、そもそも養子縁組で相続した場合、法律では基本的にどのような割合で分ける、と定められているのでしょうか。
この章では、いくつか代表的な養子縁組の相続のケースで、誰が相続人になり、どのような割合で遺産を相続することになるのか、基本を解説します。
法定相続人とは、民法で定められている、被相続人の財産を相続できる人のことです。
法定相続分とは、民法で定められている、各相続人の相続割合のことです。
被相続人が遺言書を残して亡くなった場合には、その遺言書に従って、遺産が分けられます。遺言書を残さずに亡くなった場合には、相続人が誰であるかを確定し、法定相続分に従って遺産を分けるのが、基本的な相続方法です。
また、相続には遺留分というものが法律上定められています。相続時、法定相続人はいくばくか遺産がもらえるだろうという期待を持つことが多いと考えられています。しかし、遺言書に「1円も渡さない」と書かれていた場合には、法定相続人の期待は裏切られることになります。そこで民法は、法定相続人の遺産への期待を保護するため、仮に「遺言に1円も渡さない」と書かれていたとしても、最低限の割合は法定相続人にわたるよう、その割合を定めています。これが遺留分です。
遺言により遺留分が侵害されていた場合には、遺留分侵害額請求権という権利を行使することで、侵害された遺留分を取り戻すことができます。
以下のケースで養子縁組の相続があった場合、各相続人の法定相続分はどのような割合になるのでしょうか。
① 被相続人に実子と養子のどちらもいる場合
被相続人に実子と養子の両方がいる場合、実子および養子は、どちらも第1順位の相続人になります。実子と養子で法定相続分には差はありませんので、実子1人、養子1人という場合には、以下のような相続分になります。
② 被相続人の子が養子しかいない場合
被相続人の子が養子しかいない場合には、養子が第1順位の相続人になります。養子が1人だった場合、その養子が被相続人のすべての遺産を相続します。
③ 子どもの配偶者と養子縁組している場合
被相続人が、被相続人の子どもの配偶者と養子縁組をしている場合には、被相続人の子どもとその配偶者が相続人になります。被相続人の子どもが離婚をしたとしても、離縁をしない限り養子縁組の効力には影響はありません。
④ 孫と養子縁組している場合
孫は、法定相続人ではありませんので、そのままでは被相続人が死亡したとしても遺産を相続することはできません。しかし、被相続人が孫と養子縁組をしている場合、孫は、実子と同様に第1順位の相続人になりますので、遺産を相続することができます。
被相続人に子どもが複数いる場合には、子どもの人数で相続分を按分します。子ども2人、孫(養子)1人の相続における相続分は、以下のようになります。
⑤ 連れ子と養子縁組している場合
再婚相手に子どもがいたとしても、再婚という事実だけでは、連れ子には相続権は認められません。しかし、再婚相手の連れ子と養子縁組をしている場合、連れ子は、実子と同様に第1順位の相続人になりますので、遺産を相続することができます。
被相続人に前妻との間の子どもがいたとしても、養子と実子との間の相続分には変わりはありません。
2章では相続の基本を紹介しました。それでは、養子縁組後の相続は、普通の相続とは何が違うのでしょうか?
養子縁組により、養親と養子との間には、法律上の親子関係が発生します。これにより養子は、養親の遺産を相続する権利を得るため、他の相続人と同様に養親(被相続人)が死亡した場合には、被相続人の遺産を相続することができます。
また、実子と養子との間には、相続権および法定相続分に関して差はありませんので、実子と同様に第1順位の相続人になり、等しい割合で法定相続分を按分することになります。
養子縁組には、
・普通養子縁組
・特別養子縁組
の2種類の枠組みがあります。
一般的に利用されているのは普通養子縁組であり、養親と養子との間で親子関係が生じるとともに実親との間の親子関係も維持されます。
実は、法定相続人に含めることができる養子には、上限が設けられていません。法律上は、何人でも養子にできます。
しかし、相続税法上では、法定相続人となれる養子の人数に以下のような上限が設けられていますので注意が必要です。
ここまで養子縁組の相続に関する基本知識をお伝えしました。しかし、どうしてもトラブルになってしまうこともあるでしょう。その場合、どうすればいいのでしょうか?本章では、予防法と解決方法を解説します。
養子縁組の相続トラブルを回避する方法のひとつとして、相続開始前に養子縁組を解消するという方法があります。
相続税対策や養子との関係が円満である場合には、養子縁組の解消をする必要はありませんが、以下のようなケースでは、養子縁組の解消を検討することはあるでしょう。もっとも、離縁が可能かどうかは、事案によりますので、離縁するかどうか揉めた場合は弁護士にご相談されることをおすすめします。
養子縁組の相続でトラブルが生じてしまい、当事者同士の話し合いでは解決できないという場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てを行います。
調停は、基本的には話し合いの手続きになりますが、裁判所の調停委員が当事者の間に入ってくれます。当事者同士で直接顔を合わせて話し合いをする必要はありません。そのため、養子縁組の相続トラブルであっても、スムーズに解決できる可能性があります。
養子縁組を解消するには、離縁という手続きをとることになります。お互いの合意があれば離縁届の記入・届け出をするだけで離縁は成立しますので、そこまで難しい手続きではありません。しかし、養子が離縁に応じてくれない場合には、調停や審判といった手続きが必要になりますので、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
また、弁護士に依頼をすれば、遺産分割調停や審判になったとしても、話し合いの日に同行してもらうことができますので、安心して話し合いの場に臨むことができます。
養子縁組の相続で少しでも不安がある場合には、相続開始前からできる対策もありますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
養子は、実子と同様に法定相続人となる権利があります。また、養子縁組をしている場合の法定相続人や法定相続分は状況によって異なりますので、養子が相続人に含まれている場合には、弁護士に相談するのがおすすめです。
養子縁組による相続トラブルに巻き込まれてお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
自分以外の相続人による「遺産隠し(財産隠し)」が疑われるときは、被相続人(亡くなった方)の隠されたすべての財産を調査し、発見したいと考えるでしょう。
また、遺産分割協議が終わったあとに特定の相続人による遺産隠しが発覚した場合、遺産分割協議のやり直しができるのかも気になるところです。
相続人による遺産隠しが行われたとき、一気にすべての相続財産を探すことができる特別な方法はありません。預貯金、土地建物などの不動産、株式などの有価証券など個別の相続財産を相続人が根気よくコツコツ探していくことが必要です。
本コラムでは、遺産を隠された疑いがあるときの調査方法や、遺産隠し発覚後の対応方法、時効などの注意点について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言無効確認訴訟とは、被相続人(亡くなった方)による遺言が無効であることについて、裁判所に確認を求める訴訟です。
遺言書の内容に納得できず、遺言書が作成された経緯に不適切な点や疑問点がある場合には、遺言無効確認訴訟の提起を検討しましょう。
本記事では遺言無効確認訴訟について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が詳しく解説します。
不動産に関する相続手続きのなかでも、特に問題となりやすいものが「未登記建物」です。未登記建物を相続する場合、遺産分割協議書の作成には、十分に注意しましょう。
本コラムでは、未登記建物の相続に関わる問題点や遺産分割協議書の作成方法など、一連の相続手続きにおける未登記建物の取り扱いについて、相続業務を幅広く取り扱っているベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
なお、表題部の記載のみで、所有権保存登記などの権利部の記載がない建物は、多数存在しているのが実情です。そして、そのような建物も未登記建物と呼ばれることもありますが、本コラムでは、表題部すらない未登記建物に限定して説明します。