遺産相続コラム
長男の妻の立場で夫の両親と同居しながら献身的に義理の両親を介護しても、長男の妻には義理の両親の遺産を相続する権利がありません。
しかし、平成30年7月の相続法改正に伴って、介護などによって被相続人の財産維持や形成に貢献した親族に、相続人に対する金銭請求権が認められる可能性があることが定められました。
身的に夫の親を介護した長男の妻などのように、親族の財産維持や形成に協力した親族に対してどのような権利が認められるようになるのか、弁護士が解説していきます。
まず、遺産を相続する権利が認められるのはどのような範囲の人なのか、そして介護によって「寄与分」が認められるケースについて、理解しておきましょう。
遺産を相続する権利が認められるのは、「法定相続人」です。それ以外の人は、たとえ親族や同居していたとしても遺産相続できません。
法定相続人になるのは、以下の親族です。
このように「長男の妻」は法定相続人の範囲に入っていません。
献身的に被相続人を介護した人には「寄与分」が認められる可能性があります。
寄与分とは「被相続人の財産維持や形成に特別の貢献をした場合」に法定相続人に認められる遺産相続分です。
寄与分が認められるのは「法定相続人」のみです。従来の法制度では、長男の妻などの法定相続人ではない人がいくら介護をしても、寄与者本人の寄与分は認められませんでした。
ただし、その寄与度を「法定相続人自身の寄与分」として一定程度考慮することも例外的に行われていたので、長男の妻が介護した場合の貢献度は、長男が生きて相続するかどうかで大きく評価が変わる結果となることがありました。
●長男が生きて相続する場合
この場合、長男の妻が行った介護は「長男の寄与分」として認められる可能性があります。長男が多めに遺産を取得できるということで、実質的に妻の介護が評価することなどで、相続人間の調整を図ることも行われました。
●長男がすでに死亡していた場合
この場合、長男の妻が行った介護を長男の寄与と同視することができないので、妻による介護は無視されて各相続人の相続分が決められます。長男の妻が介護したことで介護費用を節約できたため遺産の維持形成に貢献しても、法的に評価されることはありませんでした。
このようなケースで長男の妻の介護分を評価するには、被相続人が自筆証書遺言などの遺言書を作成して対処するしかありませんでした。
長男の妻が献身的に義理の両親の療養看護を行ったにもかかわらず、一切の遺産の分配も認められないのは不合理だという考えが多くありました。そこで、平成30年7月の民法改正により一定の範囲の親族には、相続人への金銭請求権が認められるようになりました。
今回の相続に関する一連の制度改正により、被相続人の介護や看病に貢献をした「親族」には「特別寄与料」として金銭請求権が認められるようになります。従前の法定相続人に認められていた寄与分制度と似た制度と言ってもいいでしょう。
ただ、今回の制度改正で金銭請求権が認められる親族は、法定相続人ではない親族なので、遺産分割協議に参加する権利はありません。
介護や看病に貢献したときに金銭請求権が認められるのは、一定の範囲の「親族」です。親族ではない他人がいくら献身的に介護を行っても特別寄与者となって遺産の一部を取得することはできないので、注意が必要です。介護による特別寄与が認められる「親族」とは、以下の範囲の人をいいます。
「血族」とは、自分の親や子ども、兄弟姉妹などの「直接血のつながりのある親族」です。この場合には、「6親等」まで特別寄与料が認められます。
一方長男の妻などは自分とは直接血のつながりのない「姻族」という親族です。この場合には、「3親等」まで特別寄与料が認められます。
長男の妻は、1親等の姻族なので、介護による特別寄与料の金銭請求権が認められます。
なお、孫の妻や兄弟姉妹の妻は2親等の親族なので、これらの人が被相続人を介護した場合にも特別寄与料の金銭請求ができます。
一方、内縁の妻や夫などの配偶者は、法律上「親族」扱いにならないので、どんなに献身的に介護をしても特別料の請求はできません。内縁の配偶者に遺産を残したい場合には、必ず生前贈与や遺言によって対応しておく必要があります。
長男の妻などの親族に特別寄与料が認められるようになる時期は、いつからなのでしょうか?
改正後の民法が施行されるのは、2019年7月1日となる予定です。そこでその後に相続が発生したケースを対象に、改正後の特別寄与料の制度が適用されることになります。
長男の妻などの親族が介護を行ったので相続人に特別寄与料を請求したいとき、具体的にどのようにすれば良いのでしょうか? 請求方法と特別寄与料の計算方法を押さえておきましょう。
まず、寄与者が相続人に対し金銭を請求する方法として、原則として、特別な手続きは不要です。遺産の相続人に対して口頭や書面などの任意の方法で申し出れば足ります。
また、新制度で金銭請求権が認められる親族は法定相続人ではないので、遺産分割協議に参加する権利はありません。相続人の寄与分のように、必ずしも遺産分割協議で特別寄与料を決定する必要はありません。
話し合いをしても相続人と寄与者の双方が納得できる結論に達しない場合には、家庭裁判所に申し立てをして、特別寄与料についての審判を受ける必要があります。
の申立には、期限があるので注意が必要です。特別寄与料を請求したい親族(介護などで貢献をした親族)が、被相続人の死亡と相続人を知ってから6ヶ月以内に申し立てる必要があります。また、死亡の事実を知らなかった場合でも死亡時から1年以内に申し立てなければなりません。
このように介護した親族の金銭請求権には、かなり短い期限が定められているので、もしも介護を行ってその貢献度を考慮してほしいなら早めに請求することが重要です。
親族が介護を行った場合の特別寄与料の金額は、どのようにして算出するのでしょうか?
法律は、特別寄与料の計算方法を明確には定めていないので、基本的に生前の寄与の内容や程度に応じて当事者同士で話し合いをして決める必要があります。家庭裁判所が審判によって特別寄与料の金額を決定する際にも、被相続人に対する寄与の内容や時期、方法や遺産の額などの事情を総合的に考慮して決めることとされており、それ以外のルールは法律で明確に定められてはいません。
当事者同士で話し合いをするとき、どのようにして特別寄与料を計算すべきか迷ったら、従来から認められていた相続人の寄与分の計算方法を参考にしましょう。
具体的には、寄与者による介護がなければ実際にかかるはずだった介護ヘルパーの金額などを基準にして、介護日数をかけ算して特別寄与料を計算します。
たとえば、付添介護人を雇った場合の日当が1万円とすると、寄与者が400日間介護を行ったならば、400万円の寄与分(特別寄与料)を認める計算方法です。
ただし、これまでは、親族には扶養義務があるので、介護ヘルパーの金額が全額寄与分(特別寄与料)として認められるわけではなく、裁判所の裁量によって割合的に減額されることが一般的でした。たとえば、上記の例であれば、3割減として寄与分を280万円などとします。どのくらい減額するかはケース・バイ・ケースです。
自分たちで話し合って特別寄与料を決める際にも、こういった方法を参考に話を進めましょう。
長男の妻などが介護を行ったとき、新制度において特別寄与料が認められるようになるとは言っても、どこまで認められるかは不透明です。また相続人との話し合いの際にもめてしまう可能性も高くなります。
そこで、できれば生前に被相続人に、遺産を受け取るための対策をとっておいてもらうのがスムーズです。
以下のような方法を検討してみてください。
まずは、養子縁組する方法です。もともと親族関係のない人であっても、被相続人と養子縁組をすると親族となり、相続権を取得できます。この方法であれば、長男の妻はもちろんのこと、まったく親族関係のない「お世話になった方(介護ヘルパーなど)」などに相続権を与えることも可能です。
次に、遺言書を作成してもらう方法があります。法定相続人間で争いが生じる可能性があるのであれば、相続トラブルの防止のために、公正証書遺言を作成することが効果的です。公正証書遺言を作成すると、多少の費用がかかりますが、それだけの価値はあると言えます。
遺言書を活用すると、長男の妻や内縁の配偶者など相続権のない人にも財産を遺贈することができます。
生命保険を活用する方法もあります。死亡保険金の受取人を長男の妻などの献身的に介護してくれた人に指定しておけば、寄与が報われる形になります。
生前贈与する方法もあります。生前に先に財産を移転しておけば、たとえ相続する権利がない人でも介護や事業の手伝いなどの寄与が報われることとなります。
ただし、生前贈与には高額な贈与税がかかる可能性もあるので、長男の妻などに贈与をするときには税金対策に注意が必要です。
長男の妻などが介護を行った場合、これまでは寄与分が認められていませんでしたが、今後は特別寄与料の金銭請求権が認められるようになります。
ただ、その運用方法はまだ定まっておらず、特別寄与料がどのように計算されるのかについても家庭裁判所における審判例の蓄積が待たれるところです。
自分たちではどのようにして特別寄与料を定め、支払えば良いかわからない場合には、どうぞご遠慮なくべリーベスト法律事務所までご相談ください。弁護士がじっくりとお話を伺ったうえで、お客さまの個別事情に沿った適切なアドバイスを行うとともに、解決に向けてサポートをいたします。
メールでのお問い合わせ
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
夫が離婚した前妻との間に子どもがいる場合、その子どもには夫(子どもの父親)の残した遺産を受け取る権利(=相続権)が認められています。
遺産分割を行うときは、法定相続人全員の合意が必要です。そのため、自分自身と、亡くなった夫と自分の子ども、亡くなった夫と離婚した前妻との子どもが全員参加して遺産分割協議を進めていかなければなりません。
夫亡き後、実際に相続の手続きを進めていくには、どうすればよいのかと悩んでいる方も少なくないでしょう。遺産分割を進めるうえで、法定相続人が受け取ることができる遺産の相続割合にも注意が必要です。
本コラムでは、夫が過去に離婚した前妻との間に子どもがいる場合の遺産相続の進め方について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
親が亡くなったらお墓を相続しなければならないのでしょうか。お墓の維持管理が大変で相続したくない場合、放棄はできるのでしょうか。
お墓の相続は一般の財産相続とは異なる方法で進める必要があります。
今回はお墓の相続問題でよくあるお悩みや「祭祀(さいし)承継者」となったときのお墓の管理方法、かかる費用、相続に必要な手続きなどについて、弁護士が解説します。
平成30年7月6日に成立した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」は、相続法の分野において約40年ぶりとなる大きな改正が為されています。
その中でも注目すべき制度は、一定の条件のもと遺産分割前でも相続人が単独で被相続人(亡くなった人)名義の預貯金を払い戻すことができる「預貯金の仮払い制度」の創設です。
ここでは、本制度が成立した背景とその概要、そして適用を受ける際の注意点について、相続案件全般を取り扱っているベリーベスト法律事務所の弁護士がご説明させていただきます。