遺産相続コラム
自筆証書遺言は、自宅でもどこでも遺言者が一人で簡単に作成できますし、費用もかからない簡便な遺言方式です。一方で、遺言書の一言一句に至るまで、すべてを自分自身で書かなければならない、紛失しやすいなどの問題がありました。
そこで、平成30年7月、相続法の改正に伴って、一部パソコン等による作成が認められるようになりました。
今回は、自筆証書遺言について、どのような点が改正され、便利になったのか、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
平成30年7月、約40年ぶりに相続法(民法と家事事件手続法)が改正されました。現行制度が社会のニーズに合っていなかったためです。主な改正ポイントは、以下の通りです。
●配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設
改正法では、死亡時被相続人の所有建物に居住していた配偶者の居住の権利が守られるよう配慮され、所有権とは異なる配偶者居住権を認めました。
●婚姻期間が20年以上なら配偶者への自宅の生前贈与は持戻し免除が推定される
高齢化社会の進展に伴い、高齢配偶者の生活保障の観点から、配偶者(婚姻期間20年以上)への自宅不動産の生前贈与は、相続開始のときに相続財産に持戻さなくて良い(持戻し免除)という被相続人の意思が表示されたものと推定されると規定されました。持戻し免除の意思がないと、生前贈与された自宅の分だけ相続分が前渡しされたということになってしまいます。持戻し免除の意思が推定されれば、生前贈与された自宅を確保したうえで、その余の遺産についても法定相続分に応じた分が取得できるので、配偶者の生活が従来よりも手厚く保障されることになりました。
●自筆証書遺言の財産目録はパソコン等でも作成可能に
利便化の観点から、改正後は、自筆証書遺言の「財産目録」は自筆で作成する必要がなくなり、パソコン等による「財産目録」の作成が可能となりました。
●法務局で自筆証書遺言の保管が可能に
改正により、自筆証書遺言を作成すると、法務局で預かってもらえるようになります。この保管制度により遺言書の紛失や破棄隠匿などの危険がなくなります。
●遺産分割前に被相続人名義の預貯金が一部引き出し可能に
相続開始によって預貯金が凍結されても、一部の預貯金債権については、各法定相続人が、その3分の1に法定相続分を乗じた金額でかつ法務省令で定める額を限度とする範囲で、遺産分割協議前に出金することが可能となりました。
●被相続人の介護や看病に貢献した親族は相続人に金銭請求ができる
法律の改正後は、相続人でない親族であっても無償で介護などをすると特別寄与者として相続人に対し寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができます。
●遺留分侵害額請求権の新設
遺留分制度についても見直しがあり、遺留分減殺請求権の行使により遺産の共有関係を生じさせるのではなく、遺留分侵害額請求権の行使により、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるだけになりました。
自筆証書遺言については、以下の改正がありました。
従来の自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、これに押印することによって成立する遺言でした。1ヶ所でもパソコンや代筆の部分があれば、遺言書全体が無効になりました。
自筆証書遺言は、紙とペンさえあれば誰でもどこでも作成できます。費用もかからないので、思い立ったときに自筆証書遺言を作成し、自宅などに保管しておくことが可能ですが、紛失等の危険がありました。
これまでの自筆証書遺言は、遺言者が財産目録を含む全文を自筆で作成しなければなりませんでした。特に、遺産が大量にある場合には、財産目録もすべて自筆で作成する必要があったため、大変な手間でした。
しかし、現代社会において、遺言書を作成する際に、パソコンが一切使えないというのは不合理です。そこで、法改正により、利便性の観点から、財産目録についてはパソコンで作成しても良いこととされました。
また、財産目録だけ他人に代書してもらうこともできるようになりましたし、不動産の登記事項証明書(かつての登記簿謄本)や預金通帳のコピーを添付する方法によることも可能になりました。
ただし、自書以外の方法により財産目録を作成した場合には、すべてのページ(両面に記載があるときには両面とも)に、署名をして押印をしなければなりません。すべてのページに署名と押印がないと、無効になってしまいますので注意してください。
また、目録を訂正する場合には、自書でなくてもよいのですが、加除訂正する場所を指示し、変更の場所に印を押して、変更した旨を付記して付記部分に署名しなければならないのは、自筆証書遺言本文と同じです。修正液を使ったり、塗りつぶしたりということは絶対にせずに、削除する部分は、どこをどう削除したか分かるように線を引いて抹消してそこに印鑑を押す。加筆する部分は、どこに加筆したか分かるように挿入部分を明らかにしてそこに印鑑を押す。そして、欄外や末尾に「第〇項中、何字削除何字追加」と付記して、遺言書の末尾の署名捺印とは別に、付記部分にも署名するという方式を守ることが必要です。
パソコンであれば作り直すのは簡単なので、不安な場合は、訂正した正しいものをプリントアウトし直して署名押印し、それを目録として添付するのが良いでしょう。
なお、財産目録以外の部分は、改正後もやはり自筆で書く必要があります。
この改正の施行日は2019年1月13日です。
自筆証書遺言についてはこれまで保管制度がなく、遺言者が自分で保管するしかありませんでした。しかしそれでは紛失や遺言書を発見した相続人による破棄隠匿なども心配されます。
そこで改正後は、法務局において保管してもらえるようになりました。法務局に自筆証書遺言を預けていた場合には、相続開始後に家庭裁判所で遺言書の検認手続きを受ける必要もありません。
この改正の施行日は、2020年7月10日です。
自筆証書遺言を作成するときには、無効にならないように配慮が必要です。以下で自筆証書遺言のメリットと作成時の注意点をご紹介します。
●費用がかからない
自筆証書遺言は、作成費用がかかりません。
●手軽に作成できる
自筆証書遺言は、他の遺言方式に比べて手軽です。使用するのもどのような紙でもペンでもかまいませんし、作成する場所も自由です。思い立ったときに自分で作成して、保管しておくことが可能です。2020年7月10日以降は法務局で預かってもらうことも可能です。公証役場や家庭裁判所などに行って手続きを行う必要もありません。
しかし、自筆証書遺言は無効になりやすいので、以下のような点に注意しましょう。
●全文自筆で書く
まず、全文自筆で書く必要があります。法制度の改正によって財産目録のみ、パソコン等の使用が認められるようになりましたが、それ以外の部分については自筆で書かなければなりません。財産目録以外の部分で代筆やパソコンを利用すると遺言書全体が無効になります。
●日付や署名押印を忘れない
自筆証書遺言を作成するとき、日付や署名押印を忘れてしまう方が多くいらっしゃいます。せっかく一生懸命本文を書いても、日付や署名押印がないと遺言書全体が無効になってしまうので、絶対に忘れてはなりません。
●加除訂正の方法は定められた方式に従う
自筆証書遺言を作成している最中で、どうしても間違えてしまうケースもあります。そのようなとき、加除訂正は法律の定める方式で行う必要があるので注意が必要です。間違った方法で訂正や加筆をすると遺言書全体が無効になるので、慎重に対応しましょう。正しい方法がわからない場合、弁護士に相談することをおすすめします。
加除訂正方法に自信がないなら、1から作り直すのもひとつの対応策となります。
自筆証書遺言は、法改正によって方式緩和されたとはいえやはり無効になりやすい危険をはらんでいる遺言方式です。
遺言には、自筆証書遺言以外にも以下のようなものがあるので、ケースによってはそちらを利用した方が効果的です。
公正証書遺言は、公証人が作成する遺言書です。公証人が職務として作成するので無効になるリスクが非常に低いといえます。また、できあがった遺言書は公証役場で保管されるので、紛失、破棄、隠匿や偽造の問題が一切ありません。信用性が高く、相続開始後のトラブルが発生しにくいという点で、メリットがあります。
ただし、公正証書遺言を作成する際には費用がかかります。金額は相続財産の価額によって異なりますが、最低でも数万円かかりますし、自分で「証人」を用意できない場合や公証人に出張してきてもらった場合にはより多額の費用がかかります。
秘密証書遺言は、遺言の内容は秘密にしたまま遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらうタイプの遺言書です。秘密証書遺言を作成するには、遺言者が、署名捺印した遺言書を、封入し、遺言書に捺印したものと同一の印鑑で封印をします。そして、公証人と証人に、自分の遺言書であることと氏名・住所を申述すると、公証人が提出日と申述の内容を封紙に記載し、公証人・遺言者・証人が封紙に署名捺印を行います。遺言書は遺言者のもとに返されるので、受け取った本人が保管する必要があります。
秘密証書遺言は、手間がかかりますが無効のリスクが低くなるわけでもなく、紛失や破棄隠匿などのリスクも高いので、あまり大きなメリットがありません。
どうしても遺言書の内容を、公証人に見られたくない、誰にも知られたくないという場合以外に利用する意味はあまりないでしょう。
自筆証書遺言を作成するとき自分一人の判断で作成するより弁護士に依頼した方が安心で確実です。以下では自筆証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリットをご紹介します。
●要件を満たした遺言書を作成できる
先にも説明した通り、自筆証書遺言は方式違背によって無効になりやすい特徴があります。
弁護士に依頼すると、法律の定める要件にきちんと従って作成するので無効になるおそれは大きく下がります。
●遺言執行者への就任を依頼できる
遺言書を作成する際には「遺言執行者」を定めておくと各種の相続手続きがスムーズに進みやすいと言えます。ただ、共同相続人の中から遺言執行者を選ぶと他の相続人に不公平感が生まれるため、かえって相続トラブルの種になる可能性があります。
弁護士に遺言執行者を依頼しておけば、相続人たちも納得しやすく相続争いを避けやすくなります。
●遺留分に配慮した遺言書を作成できる
遺言をするとき、法定相続人の遺留分に配慮する必要があります。遺留分を無視した遺言書を作成すると、かえって相続争いのもとになってしまうからです。
弁護士に相談していたら、弁護士がそれぞれの相続人の遺留分を計算し、なるべく遺留分を侵害しないように配慮します。
●保管も依頼できる
自筆証書遺言については、法律改正によって保管法ができますが、この新制度の施行日は2020年7月10日です。それまでの間は自分で保管するしかなく、紛失や書き換え、破棄や隠匿などが懸念されます。
弁護士に作成を依頼すると、そのまま弁護士事務所で預かってくれるので、このような心配がなくなって安心です。ただし、弁護士に預けた場合でも、死後の検認は必要です。
弁護士に遺言書の作成を依頼した場合、遺言内容にもよりますが、15万円程度の費用はかかると考えましょう。
相続分野の法改正によって自筆証書遺言が利用しやすくなりますが、今回の改正は全面的というよりも部分的な改正にとどまっています。相変わらず自筆証書遺言の無効のリスクは高いままです。
自分で遺言書を作成すると無効になったり相続争いの種になったりするおそれもあるので、作成の際には弁護士に依頼するのが良いでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、「遺言書を作成したい」と考えたときに「遺言書作成から保管、遺言執行開始まで」弁護士がワンストップでお手伝いできる「遺言パック」のサービスを提供しています。
また当事務所には税理士も在籍しており相続税も考慮した遺言書作成が可能ですし、不動産の生前贈与などの所有権移転登記も、相続発生後の相続登記も承っております。遺産相続関係でお悩みであれば、お気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
自筆証書遺言は、偽造や変造のおそれがある点が大きなデメリットといえます。
万が一、誰かしらに遺言書が偽造された場合、その遺言書に基づいて遺産分割がなされてしまうと不公平なものになってしまうおそれがあるでしょう。
その際は、適切な手続きを踏んで遺言の無効を争うことになります。
本コラムでは、遺言書の偽造が疑われるときの対処法や刑事罰、損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
会社経営者にとって、後継者への事業承継が視野に入ってくると、気になるのは「後継者や家族にどうすれば円満に財産を引き継げるか」ということでしょう。
事業承継が絡む遺産相続は、家族だけの問題ではなく、会社の取引先や従業員にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、慎重に準備を進める必要があります。
特に会社経営者がトラブルのない遺産相続を実現するには、遺言書を作成しておくことが重要です。
本コラムでは、会社経営者が遺言書を作成すべき理由や、作成時のポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書は、亡くなった方(被相続人)の意思が書かれたものなので、有効な遺言書があればそのとおりに遺産を分けなくてはなりません。遺産は元々亡くなった方の所有物だったことから、その処分も亡くなった方の意志に従うのが理にかなっているとされているのです。
しかし、「遺言書の内容に納得いかない」「遺言書を無効にしたい」「遺言書の内容を無視して遺産を分配したい」という相続人もいるでしょう。
まず、遺言書が存在していても、法律上効力を認められない遺言であるために、効果が生じない(無効になる)場合があります。法的に意味がないということは、そもそも遺言がされなかったということと変わらず、遺言書を無視して遺産分割を行うことに問題はありません。
遺言書が有効であったとしても、相続人全員で合意をすれば、遺言とは異なる内容の遺産分割を行うことが可能です。
本コラムでは、有効・無効な遺言書の見分け方や、有効な遺言書があっても遺言書の内容と異なる内容の遺産分割をしたい場合の対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。