遺産相続コラム

父親が死亡したが母親は認知症、どのように相続を進めるべきか?

2024年08月19日
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父親が死亡したが母親は認知症、どのように相続を進めるべきか?

父親が亡くなり、遺産相続が始まった際は、遺産(相続財産)の分割について相続人間で話し合う必要があります。

しかし、母親が高齢で認知症にかかっているケースでは、そのまま遺産分割協議を進めることはできません。協議を進行するためには成年後見制度の利用を申し立てなければなりませんが、後見人等による横領のリスクには十分注意が必要です。

本コラムでは、父親が死亡し、母親が認知症にかかっている場合における相続手続きの注意点について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。

1、認知症の相続人がいる場合の相続手続き

認知症の相続人がいる場合は、相続手続きの進め方について注意が必要です。認知症の進行の程度によっては、成年後見制度を利用すべき場合があります。

  1. (1)遺産分割には相続人全員の同意が必要

    家族が亡くなって遺産分割を行う際には、相続人全員の同意が必要です。

    <相続人になる人>
    • ① 被相続人(亡くなった方)の配偶者
    • ② 被相続人の子ども
    • ③ 被相続人の孫(子どもが死亡・相続欠格・相続廃除によって相続権を失った場合)
      ※ひ孫以降も同様
    • ④ 被相続人の直系尊属(子ども・孫などがいない場合に限る)
    • ⑤ 被相続人の兄弟姉妹(子ども・孫などと直系尊属がいない場合に限る)
    • ⑥ 被相続人の甥・姪(兄弟姉妹が死亡・相続欠格・相続廃除によって相続権を失った場合)

    たとえば父親が亡くなったケースにおいて、母親が存命中であれば、母親は相続人になります。仮に母親が高齢で認知症にかかっていたとしても、母親を無視して勝手に遺産分割を進めることはできません
    認知症の母親も、遺産分割に参加していただく必要があります。

  2. (2)認知症の相続人がいる場合、意思能力の有無によって対応が変わる

    認知症の相続人がいる場合の相続手続きの進め方は、意思能力の有無によって異なります。意思能力とは、法律行為の結果を判断することができる能力のことです。

    ある相続人が認知症であっても意思能力があれば、その相続人は遺産分割協議に参加できます。

    これに対して、認知症によって意思能力がなくなってしまっている場合には、遺産分割協議書を有効に締結することができません(民法第3条の2)。この場合は、成年後見制度を利用してサポート役(成年後見人といいます)を選任し、その者に本人の代わりに遺産分割に関する意思決定を行っていただく必要があります。

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2、成年後見制度とは?

成年後見制度とは、判断能力の低下した本人の財産・権利を保護するため、法律行為に関するサポート役を選任する制度です。

  1. (1)法定後見と任意後見

    成年後見制度は、「法定後見」と「任意後見」の2つに大別されます。

    ・法定後見
    民法で定められた成年後見制度です。実際に判断能力が低下するに至った段階で、家庭裁判所の審判によって開始されます。
    判断能力の低下の程度に応じて、「成年後見」「保佐」「補助」の3種類が用意されています。

    ・任意後見
    契約に基づく成年後見制度です。判断能力が低下する前の段階で任意後見契約を締結し、判断能力が低下した段階で契約に基づいて開始されます。
    任意後見人を本人が選べる点や、任意後見人の権限内容を柔軟に決めることができる点などが特徴です。

    相続人がすでに認知症によって意思能力を欠いている場合は、法定後見の一つである「成年後見」の開始を家庭裁判所に申し立てることになります。

  2. (2)成年後見人には誰が就任するのか?

    成年後見人(保佐人・補助人・任意後見人も同様)になれるのは、以下の欠格事由に該当しない人です(民法847条、876条の2第2項、876条の7第2項)。

    • 未成年者
    • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
    • 破産者
    • 本人に対して訴訟をしている者・した者、およびその配偶者・直系血族
    • 行方の知れない者

    成年後見人に就任する人は、家庭裁判所が審判によって選任します。成年後見の開始を申し立てる際、成年後見人になる人を推薦することができますが、そのとおりに選任されるとは限りません。

    実際には本人の親族のほか、弁護士などの専門家が成年後見人に選任されるケースが多くなっています。

  3. (3)成年後見を利用する際の手続き

    認知症の相続人のために成年後見の利用が必要となった場合、本人の住所地の家庭裁判所に対して後見開始の申し立てを行います。

    後見開始の申し立てができるのは、本人のほか、配偶者や四親等内の親族などです。他の相続人の誰かが申し立てを行うのがよいでしょう。

    後見開始の申し立ての主な必要書類は、以下のとおりです。

    • 申立書
    • 申立手数料
    • 登記手数料
    • 郵便切手
    • 戸籍謄本、住民票
    • 本人の成年被後見人等の登記がされていない証明書
    • 診断書
    など

    家庭裁判所は、後見開始の要否や成年後見人の適性を判断するため、本人に対する事情聴取、後見人候補者からの意見聴取、鑑定などを行います。その結果、本人が判断能力を欠く状況にあると家庭裁判所が判断した場合は、後見開始の審判を行います。

3、成年後見人による横領のリスクと予防策

成年後見人は、本人に代わって法律行為をする包括的な代理権を有します。

当然ながら成年後見人の代理権は、本人の利益のために行使しなければなりません。しかし、成年後見人が、本人の代理権があることを悪用して、本人の財産を横領してしまう事例も報告されています。

本人の財産と権利を保護する観点からは、成年後見人による横領を防ぐための予防策を講じておくことが望ましいでしょう。

  1. (1)後見人等による不正事例の件数

    裁判所の公表資料によると、平成23年から令和4年までの間、後見人等による不正事例について、家庭裁判所から以下の件数の報告がなされています。

    不正事例の総数 うち専門職によるもの
    平成23年 311 6
    平成24年 624 18
    平成25年 662 14
    平成26年 831 22
    平成27年 521 37
    平成28年 502 30
    平成29年 294 11
    平成30年 250 18
    平成31年/令和元年 201 32
    令和2年 185 30
    令和3年 169 9
    令和4年 191 20
    令和5年 184 29

    (出典:「後見人等による不正事例」(裁判所)

    上記のデータからは、専門職(弁護士など)以外の後見人等による不正事例が多数発生していることがうかがわれます。
    専門職による不正事例も一部報告されていますが、信頼できる専門職に後見人等への就任を依頼すれば、横領等のリスクを低く抑えることができるでしょう

  2. (2)後見人等による横領について成立する犯罪

    成年後見人(保佐人・補助人・任意後見人も同様)が本人の財産を横領した場合は、業務上横領罪(刑法第253条)によって処罰される可能性があります。
    業務上横領罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。窃盗・詐欺・恐喝などと並び、重い法定刑が設定されています。

    ここで気にかかるのは、親族間での横領でしょう。

    業務上横領罪については、窃盗などと同様に「親族間の犯罪に関する特例」が準用されて刑が免除、または親告罪となるのが原則です(刑法第255条、第244条)。
    ただし、本人の親族による横領であっても、成年後見人としての立場で横領を行った場合には、親族間の犯罪に関する特例が適用されないと解されています(最高裁平成24年10月9日決定)。

  3. (3)後見人等による横領を防ぐための予防策

    成年後見人が本人の財産を横領する事態を防ぐためには、以下の予防策を講じておくことが考えられます。

    ・弁護士などに成年後見人への就任を依頼する
    弁護士などの専門職の方が、親族などよりも成年後見人として横領行為を働く頻度が低い傾向にあります。成年後見人による横領を防ぐためには、弁護士などに成年後見人への就任を依頼するのがよいでしょう。

    ・家庭裁判所に後見監督人の選任を請求する
    本人・親族・成年後見人は、家庭裁判所に対して後見監督人の選任を請求することができます(民法第849条)。
    後見監督人は成年後見人の職務を監督するため、選任されれば成年後見人による横領の抑止につながるでしょう。

    ・後見制度支援信託を利用する
    家庭裁判所を通じて「後見制度支援信託」を利用すると、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託することができます。
    成年後見人は勝手に大きな財産を処分することができなくなるため、成年後見人による横領のリスクを抑えられます。
    (参考:「後見制度支援信託について」(裁判所)

4、遺産相続に関するトラブルは弁護士にご相談を

認知症の相続人がいる場合も、そうでない場合も、遺産相続についてはさまざまなトラブルが発生する可能性があります。認知症の相続人の成年後見人に、別の相続人が選任された場合などは、特別代理人を選任しなければ、遺産分割協議をすることができないといった問題も生じえます。

相続トラブルを防ぐには、生前の段階から遺言書・家族信託などによって対策を行うことが効果的です。また、実際に相続トラブルが発生した場合には、深刻化を防ぐために適切な対応が求められます。

弁護士は、生前の相続対策や相続手続きなどに関して、ご家庭のご状況やご希望に合わせてアドバイスいたします。効果的なトラブルの予防や、スムーズなトラブルの解決を親身になってサポートいたしますので、ぜひお早めに弁護士までご相談ください。

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5、まとめ

父親が死亡して発生した相続において、母親が重度の認知症にかかっている場合は、家庭裁判所による後見開始の審判を待って遺産分割を行いましょう。

認知症の相続人がいる場合の相続手続きについては、誰を成年後見人に選任するのか等といった注意すべきポイントがたくさんあります。円滑に相続手続きを進めるためには、弁護士へのご相談がおすすめです

ベリーベスト法律事務所は、遺産相続に関するご相談を随時受け付けております。グループ内の税理士や司法書士と連携を行い、相続税申告や相続登記についてもワンストップでご対応可能です。

遺産相続に関する総合的なサポートは、遺産相続専門チームを組成するベリーベスト法律事務所にお任せください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒 106-0032 東京都港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話] 03-6234-1585
[ご相談窓口] 0120-152-063

※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。

URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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