遺産相続コラム
公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べてトラブルになるリスクが低い遺言書だと言われています。
しかし、公正証書遺言であっても、遺言書の形式や内容によっては相続人同士でトラブルになる可能性もありますので、公正証書遺言の作成をお考えの方は、遺言書が無効にならないようにするためのポイントを押さえておくことが大切です。
今回は、将来の遺産相続トラブルを防止するため、公正証書遺言作成のポイントについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
以下のようなケースでは、公正証書遺言を作成していたとしてもトラブルに発展する可能性があります。
遺言書を作成するためには、遺言者(遺言をする人)に遺言能力があることが必要になります。
遺言能力とは、遺言の意味や効力を理解することができる能力のことをいいます。高齢の方の場合には、認知症などによって判断能力が低下しているケースも多いため、遺言書の有効性をめぐってもめることがあります。
公正証書遺言は、自筆証書遺言と異なり、ふたり以上の証人が必要になります。
公正証書遺言作成の際に必要となる証人には、特別な資格は必要とはされていませんが、以下のような人は、証人になることができません。
これらの人が証人となった場合には、公正証書遺言は無効となります。
重大な錯誤がある場合には、公正証書遺言が取り消される可能性があります。たとえば、付言事項には法的拘束力がないにもかかわらず、法的拘束力があると勘違いして付言事項に遺言内容を記載してしまった場合には、錯誤が認められる可能性があります。
遺言書の内容が社会の常識や道理に反するものであった場合には、公序良俗違反となり、公正証書遺言が無効になります。
たとえば、配偶者や子どもなどの相続人が存在していて、その者らの生活が脅かされるにもかかわらず、不倫関係を維持継続するために愛人にすべての遺産を相続させる遺言は公序良俗に反して無効になる可能性があります。
認知している婚外子がいた場合には、その子どもにも相続権が認められますので、他の相続人と一緒に遺産分割協議に参加する必要があります。しかし、その子どもの存在を知らされていなかった場合には、他の相続人は自分が考えていた取り分よりも少なくなってしまいますので、認知している婚外子との間で対立が生じ、トラブルになる可能性があります。
相続人同士でもめることになった場合には、遺産分割協議が長引き、相続人間の関係性が悪化して親族関係にも悪影響が生じることが予想されます。そのため、遺言書を作る際は、そのようなトラブルが生じないように配慮することが大切です。
公正証書遺言をめぐってトラブルが生じた場合には、以下のような方法で解決を図ります。
公正証書遺言をめぐってトラブルが生じた場合には、まずは相続人同士の話し合いによって解決を図ります。公正証書遺言が存在していたとしても、他の相続人全員が遺言書を無効だと認めている場合には、裁判などをすることなく、相続人による遺産分割協議によって遺産を分けることができます。
公正証書遺言で特定の相続人にすべての遺産を相続させる旨の内容が記載されていた場合には、他の相続人の遺留分(法律で認められた、相続人がもらえる最低限の相続財産のこと)を侵害することになります。このような場合には、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することによって、侵害された遺留分に相当するお金を取り戻すことができます。
ただし、遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければなりません。
遺産分割方法について、相続人同士の話し合いでは解決することができない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。遺言書の有効性に争いがある場合には、遺言無効確認訴訟で争うのが原則となりますが、遺言が無効であることについて争いがない場合には、遺産分割調停を申し立てて、遺言書が無効であることを前提とした遺産分割を行うことができます。
遺産分割調停では、裁判所の調停委員が間に入って話し合いを進めてくれますので、当事者同士の話し合いよりもスムーズに進むことが期待できます。
当事者同士の話し合いでは、遺言の有効性についての結論が出ない場合には、最終的に遺言無効確認訴訟を提起して、裁判官に遺言の有効性を判断してもらうことになります。
遺言無効確認訴訟によって、遺言の無効が確認されたとしても、それだけでは遺産を分けることはできませんので、その後改めて遺産分割協議または遺産分割調停をしていかなければなりません。
もめない遺言書を作成するためには、以下のポイントを押さえておきましょう。
もめない遺言書を作成するためには、まずは遺産を相続する相続人と話し合いをしておくことをおすすめします。法定相続分とは異なる割合で遺贈を行う場合には、もらえる遺産が減ることになった相続人から不満が出てくる可能性もありますので、なぜそのような遺言書を作成するのかをしっかりと説明して、納得を得ておくことが大切です。
また、推定相続人以外の人に対して遺産を相続させる場合にも同様にその理由を説明しておくことで、死後のトラブルを回避できる可能性が高くなります。
そして、重要なことは、公正証書遺言作成後に公正証書遺言を作成したことを相続人に伝えることです。相続人が公正証書遺言の存在を知らず、公証役場においても確認することをしなかった場合には、せっかく公正証書遺言を作ったのに相続人がそれに気づかず遺産分割協議を進めてしまうことになってしまいます。
相続人には、法律上遺留分が保障されていますので、遺留分を侵害する内容であった場合には、トラブルが発生する可能性があります。そのため、法定相続分とは異なる割合で遺贈をする場合には、遺留分にも配慮した内容にしておくことで遺留分に関するトラブルを回避することができます。
早めに遺言書の作成を済ませている方の中には、その後の生活環境や家族構成の変化によって、当初の遺言書の内容では不適当な遺言書になってしまうこともあります。そのような場合には、状況の変化に応じて遺言書の変更も検討するようにしましょう。遺言書は、一度作成したら変更することができないというものではなく、いつでも何度でも変更が可能です。
遺言執行者とは、遺言内容を実現するための権限を与えられた人のことをいい、遺言書で遺言執行者を指定しておくことによって、遺産相続の手続きをスムーズに進めることが可能になります。
遺言執行者には、特別な資格は必要ありませんが、複雑な遺産相続の手続きを確実に実行してもらうためにも、専門家である弁護士などを指定しておくことがおすすめです。
自筆証書遺言を作成する場合には、弁護士に確認を求めたり、法務局にて保管してもらったりしない限り、作成後に誰かに形式面での有効性を確認してもらえることはありません。遺言書は一定の形式が整っていない場合には無効となってしまいます。第三者に確認してもらうことで、遺言書が形式面において無効にならないようにしましょう。
公正証書遺言は公証人が作成しますので形式面での問題が生じることはまずありません。さらに、遺言者の遺言能力についても公証人が確認するため、遺言能力の問題になりにくいと言えます。自筆証書遺言より公正証書遺言を作成することがもめない遺言書を作成することにとって重要です。
公正証書遺言を作成する場合の一般的な流れは、以下のとおりです。
● 遺言書の内容を検討
公正証書遺言を作成する前提として、まずは、誰にどのような遺産を相続させるのかといった遺言書の内容を検討します。遺言書の内容を検討するにあたっては、ご自身の財産を洗い出す必要がありますし、各相続人の遺留分にも配慮した内容にしなければなりません。
遺言書の内容をめぐる争いを回避するためにも、遺言書の内容を検討する際には、弁護士に相談することをおすすめします。
● 必要書類の準備
公正証書遺言を作成する際には、以下の書類などが必要になります。
それぞれのケースに応じて必要となる書類の種類や範囲が異なってきますので、弁護士と相談をしながら必要書類の準備を進めていきましょう。
● 公証人と事前協議
公正証書遺言を作成する前に、公証人との間で遺言書の内容についての打ち合わせを行い、公正証書遺言の案を確定させます。弁護士がいれば、公証人とのやり取りや書類の提出などをすべて任せることができます。
● 証人の決定
公正証書遺言を作成する場合には、ふたり以上の証人が必要になります。親族や友人の中に証人を頼める人がいないという場合には、遺言書の作成を依頼した弁護士に証人を頼むこともできますので、困った場合には相談をしてみるとよいでしょう。
● 遺言作成日の予約
以上の準備が調ったら、公証役場に公正証書遺言作成日の予約を入れます。
● 公正証書遺言の作成
作成日当日は、遺言者および証人ふたりが公証役場に出向いて、公正証書遺言の作成を行います。証人ふたり立ち会いのもと、公証人が遺言書の内容の読み聞かせを行いますので、内容に誤りがなければ遺言者と証人が署名押印します。そして、最後に公証人が署名押印を行えば公正証書遺言は完成です。
完成した公正証書遺言の原本は、公証役場において保管され、遺言書の正本と謄本が遺言者に交付されます。
生前の相続対策として利用される遺言書ですが、相続争いを防止するためには、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言の形式で作成しておくことをおすすめします。
また、弁護士に依頼をすることで、遺言者の意思を実現しつつ将来のトラブルを回避できる遺言書作成のサポートを受けることが可能です。さらに、弁護士を遺言執行者に指定しておけば、遺言内容の実現が確実になります。
公正証書遺言の作成をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
自筆証書遺言は、偽造や変造のおそれがある点が大きなデメリットといえます。
万が一、誰かしらに遺言書が偽造された場合、その遺言書に基づいて遺産分割がなされてしまうと不公平なものになってしまうおそれがあるでしょう。
その際は、適切な手続きを踏んで遺言の無効を争うことになります。
本コラムでは、遺言書の偽造が疑われるときの対処法や刑事罰、損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
会社経営者にとって、後継者への事業承継が視野に入ってくると、気になるのは「後継者や家族にどうすれば円満に財産を引き継げるか」ということでしょう。
事業承継が絡む遺産相続は、家族だけの問題ではなく、会社の取引先や従業員にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、慎重に準備を進める必要があります。
特に会社経営者がトラブルのない遺産相続を実現するには、遺言書を作成しておくことが重要です。
本コラムでは、会社経営者が遺言書を作成すべき理由や、作成時のポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書は、亡くなった方(被相続人)の意思が書かれたものなので、有効な遺言書があればそのとおりに遺産を分けなくてはなりません。遺産は元々亡くなった方の所有物だったことから、その処分も亡くなった方の意志に従うのが理にかなっているとされているのです。
しかし、「遺言書の内容に納得いかない」「遺言書を無効にしたい」「遺言書の内容を無視して遺産を分配したい」という相続人もいるでしょう。
まず、遺言書が存在していても、法律上効力を認められない遺言であるために、効果が生じない(無効になる)場合があります。法的に意味がないということは、そもそも遺言がされなかったということと変わらず、遺言書を無視して遺産分割を行うことに問題はありません。
遺言書が有効であったとしても、相続人全員で合意をすれば、遺言とは異なる内容の遺産分割を行うことが可能です。
本コラムでは、有効・無効な遺言書の見分け方や、有効な遺言書があっても遺言書の内容と異なる内容の遺産分割をしたい場合の対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。