遺産相続コラム
最近では海外赴任や海外移住する方なども増え、国外銀行に預金口座を開いている人が珍しくなくなっています。では、ご家族が海外預金を残したまま亡くなられた場合、残されたご家族は相続手続きをどのように進めれば良いのでしょうか。
本コラムでは、海外預金を相続するために知っておくべき知識について、弁護士が解説します。
外国の金融機関に預けている預金を他国の人が相続することはできるのでしょうか。また、相続する際、どういった法律が適用されるのでしょうか。
海外預金などの国外財産も相続の対象になります。ただし、その際には「どこの国の法律が適用されるのか」明らかにする必要があります。
法の適用に関する通則法36条は、「相続は、被相続人の本国法による」と規定していますので、被相続人が日本人の場合、海外の金融機関の口座であっても日本法によって相続を進めることができます。
被相続人が日本人の場合、日本の法律によって次にあげる親族が「相続人」になります。
● 配偶者は常に相続人
配偶者以外の相続人には「順位」があります。
日本の法律では、相続人が確定したら相続人全員が参加して「遺産分割協議」を行う必要があります。海外預金の相続人が協議によって決められた場合は「遺産分割協議書」を作成しましょう。
参考:遺産分割協議
海外資産を相続する際に注意しなければいけないのは、相続の考え方が国によって異なるという点です。相続の考え方としては、大きく分けて「大陸法(相続統一主義)」と「英米法(相続分割主義)」があります。
大陸法というのは、ヨーロッパの中でもフランスやドイツなどの国で、主に規定されている法律です。
大陸法が適用される国では、現金、預金、不動産、車など、どの相続財産に対しても、被相続人の本国法を準拠法として適用します。このような考え方を「相続統一主義」といいます。
英米法とは、イギリスやアメリカなどの国で、主に規定されている法律です。英米法では、相続財産は不動産とそれ以外の財産(動産)で、適用される法律が異なります。不動産については不動産の所在地の法律、それ以外については被相続人の本国法が適用されます。
海外預金については、大陸法でも英米法でも「被相続人の本国法」が適用されるので、違いはありません。被相続人が日本人の場合には日本法を適用して相続人を定めます。
ただ、相続人については日本法を適用するとしても、海外預金の払い戻しなどの具体的な手続きは現地の制度に従って行う必要があります。
海外預金を相続する際「プロベート(probate)」という非常に複雑な手続きが必要となるケースがあります。
プロベート(プロベイト)とは、相続財産の管理や分配を裁判所の関与のもとで進める方法です。主に英米法の国で採用されており、遺言書があってもプロベートは必要です。
プロベートが適用される場合、まずは相続人が現地の裁判所に検認を申し立てて、すべての相続財産を「遺産管理人」に預ける必要があります。遺産管理人が相続財産調査や相続債務の支払い等の清算業務を行い、終結した後、相続人らが遺産を受け取れる仕組みです。
プロベート制度のない国の海外預金であれば、プロベートなしで遺産を受け取れます。
たとえば韓国、ドイツ、イタリアなどではプロベート制度がないので、これらの国の海外預金であればプロベートなしで預金の払い戻しが可能です。
一方、アメリカやイギリスなどに預金があるとプロベートが適用されるので、相続手続きに多大な労力と費用がかかります。
海外預金を相続するには、預金口座を解約してお金を払い戻すか名義変更をする必要があります。
海外預金を払い戻して相続する手続きは、プロベートが適用される英米法系の国と適用されない大陸法系の国とで異なります。
一般的な流れを、それぞれ確認しましょう。
① 遺産管理人の選任
裁判所で「遺産管理人(相続財産管理人)」が選任され、以後、相続財産はすべて遺産管理人の管理下に置かれます。
② 相続財産と相続人の調査
遺産管理人が相続財産(資産や負債)、相続人についての調査を進めて確定します。
③ 相続税(遺産税)の申告と納付
相続税(遺産税)の納付義務が発生する場合、遺産管理人が必要な相続税の申告と納付手続を行います。
④ 相続財産の分配許可
①~③まで完了すると、裁判所から相続財産の分配許可が受けられます。
⑤ 遺産を相続する
相続人が遺産を相続します。海外預金も受け取ることができるので、預金のある金融機関に対して、預金の払い戻しを請求します。相続が完了した時点で、遺産管理人は裁判所へと任務終了の報告を行います。
① 海外の金融機関へ相続を報告
預金のある金融機関へ連絡をして、預金名義人が死亡した事実を伝えます。その上で相続人として預金の払い戻しを受けたいと申し出ます。
② 必要書類の取得と作成
金融機関によって必要となる書類は異なるため、確認をしながら進める必要があります。一般的には、故人が死亡した事実を証明する書類、相続人であることを証明できる資料、払い戻し用の申請書などが必要になるでしょう。
③ 必要書類の翻訳
書類がそろったら現地の言葉に翻訳します。正確に翻訳する必要があるため、費用はかかりますが翻訳業者などを利用すると安心です。
④ 公証役場で認証を受ける
翻訳した書類が適式なものであることを証明するために、公証役場で認証を受けます。
⑤ 外務省で証明を受ける
日本で適式な方法をもって、公証人による認証を受けた書類であるということ証明する必要があります。そのため、公証役場で認証を受けた書類を外務省に提出し、公証が日本のものであるという証明をもらいます。
⑥ 在外公館にて証明を受ける
預金のある国の大使館にて、必要書類を作成したのが相続人本人であることを証明してもらいます。
⑦ 払戻請求
すべての書類の準備と認証手続きが終わったら、ようやく海外の金融機関へ預金の払戻請求をすることができます。不備がなければ解約払戻に応じてもらえます。
海外預金を相続する際には弁護士に依頼するのが得策でしょう。
海外預金相続の際には、多数の書類の翻訳が必要ですが、正確性も求められます。そのため、現地の言語だけではなく、法律も理解した弁護士のサポートを受けるのが賢明です。
プロベートが適用される場合、預金を相続するのに1~3年程度かかるともいわれ、大変複雑な手続きが必要になります。プロベートが適用されないケースでも、さまざまな機関で認証を受けなければならず、相続人だけで対応するのは簡単ではありません。この点、弁護士に依頼すれば、これらの対応を依頼することが可能です。
故人が預金以外に国外財産を所有していた場合、さらに複雑な手続きが必要になることもあります。たとえば、相続分割主義が適用される国に不動産があれば、現地の法律に従って相続手続きを進める必要があります。このようなケースでも、現地の法律に詳しい弁護士がいれば必要な手続きを漏れなく進めることができます。
海外資産を相続した場合でも、相続人が日本人であれば原則として日本で相続税の課税対象となります。ケースによっては現地で相続税や遺産税の支払いが必要となる可能性もあるでしょう。税理士と提携している弁護士がついていれば、こうした税金関係についてのアドバイスも受けられるので安心です。
参考:相続税の対象となる財産
国際相続は非常に複雑です。国をまたいでの作業が必要になるため、個人で行うには負担が大きく、誤りなく手続きを進めるのは簡単ではありません。
ベリーベスト法律事務所では、海外に相続財産がある場合のご相談にも応じております。当事務所には、中国法やカリフォルニア州法、ハワイ州法等の資格がある弁護士が在籍しているので、スムーズな対応が可能です。また、ベリーベストグループには税理士も在籍しているため、ワンストップで充実したサービスを提供します。
海外預金を相続することになり、どのように対応するべきか悩まれている場合は、ぜひお早めにご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。