遺産相続コラム
親が亡くなり、相続財産の中に借地権付きの建物がある場合、兄弟間で「建物と借地権も分割して相続したらどうか」という話が出てくることもあるでしょう。
そもそも、借地権とはどのようなものなのか、また、相続をすることはできるのかなど、わからないことが多いのではないでしょうか。
そこで、今回は、借地権をテーマに、相続財産の中に借地権が含まれている場合の注意点やトラブルなどについて解説していきます。
借地権とは、借地借家法で定義される権利であり、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいいます(借地借家法2条1号)。建物の所有を目的とする地上権または土地の賃貸借なので、駐車場にするために土地を賃借しているときの賃借権などは、借地権には含まれません。
地上権とは、工作物を所有するために他人の土地を使用する権利です(民法265条)。地上権は、土地の所有者の承諾がなくても自由に譲渡したり、使用している土地を転貸したりすることができます。
他方、賃借権とは、第三者の土地を借りて家や建物を建てることができる権利です。賃借権は、譲渡したり、借りている土地を転貸する場合には所有者(賃貸人)の承諾が必要になります(民法612条1項)。
ただし、建物の所有を目的とする、借地権である土地の賃貸借契約の場合には、借地人が借地上の建物を第三者に譲渡することに対して賃貸人が承諾しない場合は、借地人の申し立てにより、裁判所は賃貸人の承諾に代わる許可を与えることができます(借地借家法19条1項)。この許可を得た場合には賃貸人の承諾がなくても譲渡は可能になります。
借地権に適用される法律は、新法と旧法があります。その理由は、平成4年8月1日に「借地借家法(新法)」が施行されたのですが、平成4年8月1日以前から土地を借りている場合には、「借地法(旧法)」が適用されるからです。
旧法は、借地人の権利が強く保護されていて、一度借地権を設定すると土地の返還がむずかしいという問題がありました。そのため、新法では、定期借地権制度を導入して(借地借家法第四節)、土地所有者が安心して借地権を設定できるようにしました。
また、旧法では、契約期限が決まっていても、更新することにより半永久的に借りることができました。木造などの非堅固建物の場合、存続期間は30年(最低20年)で更新後の期間は20年、鉄骨造・鉄筋コンクリートなどの堅固建物の場合は60年(最低30年)、更新後の期間は30年となっています。
これに対し、新法では、5つに分類され、それぞれ期間が定められています。
①普通借地権
存続期間は構造に関係なく当初30年(借地借家法3条)、1回目の更新は20年、それ以降は10年更新となっています(同法4条)。契約期限が到来した場合であっても、地主側に土地を返してもらう正当な事由がなければ、借地人が望む限り自動的に借地契約は更新されるので半永久的に借りることが可能です(同法5条・6条)。また、契約終了後に、地主に建物の買い取りを請求することもできます(同法13条1項)。
②定期借地権 (一般定期借地権)
定期借地権 (一般定期借地権)は、50年以上の期間、土地を利用することのできる借地権です。契約を更新することはできず、存続期間の延長をせず、建物買い取り請求をしないという契約になるので、契約の終了時には原則として土地を更地に戻したうえで、貸主へ返還しなければなりません。定期借地権は必ず書面によって契約しなければなりません(借地借家法22条)。
③事業用定期借地権
事業用定期借地権は、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とする定期借地権です。一般定期借地権と異なり、公正証書により契約しなければなりません。存続期間は10年以上50年未満です(借地借家法23条)。
10年以上30年未満と存続期間を定めて契約した場合、特約で建物買い取り請求を認めない限り、契約の終了時には土地を更地にして返還しなければなりません(同法23条2項)。他方、30年以上50年未満の存続期間を定めた場合には、契約の更新と、存続期間の延長と建物買い取り請求をしないとすることができます(同法23条1項)。
④建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権は、契約の期間が満了した際、土地所有者が建物を買い取るという特約のある借地権です(借地借家法24条)。存続期間は30年以上です。契約の期間が満了した時点で借地権が消滅し、建物の所有権も貸主へ移転することになります。この時、賃借人が引き続き建物の使用を請求した場合には、建物の賃借人として住み続けることは可能です。
⑤一時使用目的の借地権
一時使用目的の借地権は、ビル建設をする際の仮設事務所などを設置するために、一時的に土地を借りる場合の借地権です(借地借家法25条)。土地の賃貸借契約の目的が一時使用の目的であることが明確であれば、借地借家法の規定の大部分が適用されません。
地主が土地を第三者に売却した場合、借地権はどうなるのかという問題があります。賃借人が、第三者に対して自分の権利である賃借権を対抗できる対抗要件を有していないと、「売買は賃貸借を破る」という原則により、賃借人は賃借権を土地の買主に対して主張できず、新所有者からの明渡請求に応じなければなりません。しかし、対抗要件が具備されていれば、賃借人は賃借権を新所有者にも対抗できることになり、新所有者が賃貸人となって賃貸借契約が継続することになります。
賃借権の対抗要件が具備される場合とは、どのような場合でしょうか。
民法605条において、「不動産の賃貸借はこれを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他第三者に対抗することができる」と規定されています。しかし、土地賃借権を登記するためには、賃貸人である土地所有者の協力が必要なため、ほとんど利用されていないのが実情です。
一方、借地借家法10条1項では、「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を有するときは、これをもって第三者に対抗することができる」と規定しています。したがって、建物の登記があれば、借地権を第三者に主張することができます。建物の登記(所有権保存登記)は、借地人だけですることができます。
このように、借地借家法により、地主の協力が得られなくても借地人が借地権の対抗要件を具備することができるようになっているので、借地権は非常に強力な権利であり財産的価値も高いものなのです。
これまで説明してきたように、借地権は非常に長い期間土地を使うことができる権利で、第三者にも容易に対抗できる権利なので、財産的な価値が認められます。そのため、借地権も相続の対象になります。借地権付きの建物が相続財産にある場合には、その建物を相続した場合には借地権も同時に相続することになるのです。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するので、借地権を区分して相続するといったことはせずに、そのまま借地権を相続するのであれば、土地の貸主の承諾は必要ありません。つまり、借地人の法定相続人がその借地権を相続することについて、地主が拒否することはできません。また、名義変更料や更新料は支払う必要はありません。もっとも、遺産分割の協議が終わり次第、新しい借地人がだれであるかは、地主に知らせておく必要があります。
借地権も財産なので、相続税の対象となります。ただ、土地の相続税評価額の60~70%で済むので、土地を相続するよりも負担は少なくなります。
相続人がそのままその建物に住む場合には特に問題はありませんが、誰も住まないことになり、第三者に建物を売却するという場合には、賃貸人(地主)の承諾が必要になります。承諾が得られない場合には、裁判所が許可を与えることができます(借地借家法19条1項)。また、名義変更手続きに伴い、土地の価格の10%程度の名義変更料を支払うのが一般的です。
相続が開始した場合、相続人は、相続財産を調査し、財産目録を作成します。その後、相続人が確定したら、相続人全員が集まって遺産分割協議を行います。そこで、どの財産を誰が相続するのかを話合います。この時、相続財産を売却し、そのお金を相続人で分配するという方法を採ることもできます。いずれにせよ、遺産分割協議が成立すれば、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書の作成が終わった段階で、各種の名義変更を行います。不動産の名義変更の場合には、所有権移転登記をする必要があります。この時、相続財産の中に借地権が含まれる場合には、建物の所有権移転登記をすれば、借地権についても対抗要件を具備したことになります。
次に、相続税の申告が必要になります。相続税は相続財産を評価し課税されるので、借地権がある場合には、借地権についてもその金額を評価して相続税の計算に含めなければなりません。借地権の相続税評価の計算方法は、土地の更地の評価額に借地権割合を掛けて求めます。借地権割合は、路線価図に記載されています。路線価の計算は複雑になることもあるので、税理士などに相談することをおすすめします。
多くは建物の登記をもって借地権の対抗要件としていますが、建物が地震や火事でなくなってしまった場合、対抗要件がなくなってしまいます。そうなると、借地権を主張することができなくなるので注意が必要です。
もっとも、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお対抗要件を有します(借地借家法10条2項本文)。
ただし、この救済規定は、2年間に限られます。建物の滅失があった日から2年を経過した場合には、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物の登記をした場合にのみ、借地権は、なお対抗要件を有します(同法10条2項但書)。
借地権は、遺産分割協議によって、相続人のうちの特定の誰かが相続することになるのが一般的ですが、相続人を特定せずに、たとえば兄弟で「共有」するという形で相続することも可能です。建物を共有にしたら、借地権も共有ということになるでしょう。ただ、共有にしてしまうと、さまざまなトラブルに発展する可能性があるので、おすすめできません。
金銭であれば分配できますが、借地権付き建物のような対象物は簡単には分割できないため、取り敢えず共有にするということがあります。しかし、共有にしてしまうと、建物を売却したり、建て替えたりするときには全員の同意が必要になるので、売却や建替えが簡単にはできなくなります。そのため、将来にわたって何もできずに放置ということになりかねません。
また、相続人の一部が地代や税金を支払わないといったトラブルもあります。借地権付き建物を維持するためには、共有者の誰かがそれを負担しなければならなくなります。そのため借地権付き建物については単独名義にしておいたほうが、管理も処分もスムーズにできます。
相続の際には、相続人の共有とするという共有分割も可能ですが、それだといつ共有物分割請求が行われるか解らない不安定な状態になりますし、管理も処分も難しくなります。そのため、共有分割は避けるべきですが、これは借地権付き建物の場合でも同様なのです。
今回は、借地権が相続財産に含まれている場合に、そもそも借地権とは何なのかということや、借地権付き建物を相続する場合の問題について解説してきました。相続はただでさえ問題が起きやすいものですが、借地権付き建物も共有にして、建物も借地権も共有としてしまうと、後々財産を管理する上で難しいことになってくる危険性があります。
また、借地権付き建物を単独名義にする場合でも、その評価額の算定で揉めたり、代償金額で揉めたりして、遺産分割協議がまとまらないということもあり得ます。そのような時は、弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、相続財産の評価から遺産分割協議の調整や遺産分割協議書の作成までトータルでサポートできます。ぜひお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。