遺産相続コラム
遺産分割協議の中でトラブルが発生し、親族間の感情的な問題が絡んで相続争いが深刻化してしまうことはしばしばあります。
ただ、相続争いが長引いてしまうと、相続人にとって時間的・経済的・精神的な負担が大きくなってしまいます。
そのため、弁護士に相談をしてできる限り早期に問題を解決することをおすすめします。
この記事では、相続争い(遺産トラブル)を早期に解決した方が良い理由や、実際に遺産分割協議で揉めてしまった場合の対処方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
相続争いがもっとも発生しやすいのは、遺産分割協議の場面です。
まずは遺産分割協議に関する基本的な知識を確認しておきましょう。
遺産分割協議とは、相続人同士で相続財産をどのように分けるか話し合う場のことをいいます。
亡くなった方(被相続人)が有効な遺言を作成されていない場合や、遺言の中で配分先が指定されていない相続財産がある場合には、遺産分割協議により相続財産の配分を決定することになります。
遺産分割協議がまとまった場合には、遺産分割協議書にその合意内容が記載されます。
遺産分割協議の詳細については、以下の記事を参照してください。
参考:遺産分割協議とは
遺産分割協議は、相続権のあるすべての法定相続人が参加して行う必要があります。
民法第900条によれば、法定相続人は被相続人から見て以下の立場にある者となります。
法定相続人に該当しない者(たとえば子どもがいる場合の直系尊属や兄弟姉妹、愛人など)については相続権がありません。したがって、法定相続人に該当しない者を遺産分割協議に参加させなかったとしても遺産分割協議は無効にはなりません。
相続人の範囲については、以下の記事も参照してください。
参考:遺産相続の基礎知識
遺産分割協議の期間については、法律上の制限はありません。
しかし、遺産分割協議が長引いた場合、相続人はさまざまな不利益を受けてしまう可能性があります。
相続開始後、遺産分割協議が終わるまでの期間は、相続財産は相続人全員の共有となります(民法第898条)。そのため、各相続人が相続財産を勝手に処分することはできません。
相続財産のうち負債が大きい場合には、相続人は相続放棄または限定承認をしなければ、マイナスの財産を承継することになってしまいます。
しかし、相続放棄および限定承認は、原則として被相続人の死亡を知ったときから3か月以内に行う必要があります(民法第915条第1項本文)。この3か月の期間を「熟慮期間」といいます。
相続争いがだらだらと長引いてしまうと、相続放棄や限定承認の熟慮期間がいつの間にか過ぎていたということにもなりかねません。
熟慮期間は、正当な事情があると認められれば家庭裁判所への請求により伸長してもらうこともできますので(同項但し書き)、早めに弁護士に相談しましょう。
相続税は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に、一括で納付しなければなりません。
特に相続財産の金額が大きい場合などには、納税の負担が大きくなりすぎてしまうことがあります。そのため、相続税の納税についてはさまざまな優遇措置が設けられています。
しかし、遺産分割協議が完了していなければ、以下の相続税の優遇制度を利用することができません。
上記の優遇制度が利用できない場合、相続税の負担が重くなってしまいますので注意しましょう。
遺産分割協議が完了していないうちに相続人が死亡してしまった場合には、二重に相続が発生している状態が生じてしまいます。
この場合、2つの相続を同時に処理する必要があるほか、相続人の数が後から増えるなど、相続が非常に複雑になってしまいます。
このような事態を避けるためにも、相続争いは迅速に解決する必要があるといえるでしょう。
相続争いでもめ事になりやすい典型的なケースを取り上げて、事例別の対処法を詳しく見ていきましょう。
愛着のある自宅の土地と建物がほしい、すぐに使える現預金がほしい……など、どの財産を承継するかで揉めるケースは、相続争いの中でもっとも典型的といえます。特に不動産などについては、資産価値をどのように評価するかが重要なポイントとなるでしょう。
どの財産を承継するかについて相続争いとなってしまった場合は、まずは弁護士に相談をして適切に財産評価を行うことをおすすめします。その上で相続人間での話し合いを進めつつ、決着が付かなければ、最終的には遺産分割調停を申し立てましょう。
被相続人が生前に遺言書を残していても、弁護士などの監修がない場合には、その内容に法的な問題があるケースもよく見られます。
遺言書の内容に法定な問題があるケースには大きく分けて2通りあります。
ひとつめは、遺言が有効となるための法的な要件を欠いている場合です。この場合には、そもそも遺言が無効となってしまいますので、ゼロベースで遺産分割協議を行う必要があります。ただし、場合によっては無効な遺言が死因贈与として有効となるケースもありますので、詳しくは弁護士に相談しましょう。
ふたつめは、遺言による相続財産の配分が相続人の遺留分を侵害している場合です。もし自分の遺留分が侵害されている場合には、他の相続人に対して遺留分侵害額請求を行うことを検討してください。
相続人を確定するために被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せた際、相続人である見知らぬ兄弟姉妹の存在が発覚するケースもあります。
遺産分割協議は相続人の全員で合意しなければなりません。連絡先が判明したら、まずは、被相続人が死亡したことや相続人であることを連絡してみてください。被相続人との関係が疎遠であった場合、相続放棄や相続分の譲渡を検討してもらえる可能性もあります。その場合には、見知らぬ兄弟姉妹が遺産分割協議に参加しないままに協議をすることができます。
被相続人の介護を行ったなどの理由で寄与分を主張する相続人がいる場合があります。その場合、そもそも寄与分を認めるか、認めるとしてどの程度の金額とするかについて争いとなってしまう可能性が高いでしょう。
話がこじれた場合には、裁判所を利用した手続である遺産分割調停を申し立てて早期解決を図った方が良いこともあります。できるだけ早めに弁護士への相談を検討してください。
相続人の一部が多額の生前贈与を受けていた場合、法定相続分の計算において、その生前贈与を相続財産に持ち戻すかどうかという論点が生じます(特別受益、民法第903条第1項)。また、相続開始前10年間に行われた相続人に対する生前贈与(特別受益に該当するもの)は、遺留分の計算にあたっても考慮されます(民法第1044条第1項)。
特別受益に関しては専門的で取り扱いが難しい面がありますので、争点になりそうな場合には弁護士に相談することをおすすめします。
前述の通り、遺産分割協議が未だ調っていない段階では、相続財産は相続人全員の共有となります。相続人が勝手に処分する、つまり、相続財産の対象となっているお金を使ったり、不動産を売却したりすることはできません。
それにもかかわらず、相続人が勝手に遺産を使い込んだ場合には、その遺産が存在するものとみなして遺産分割協議を行うことになります(民法第906条の2第1項)。なお、上記の取り扱いとするには、使い込みを行った者以外の相続人全員の同意が必要なことに注意しましょう。
相続人だけで遺産分割の話し合いを行っても、どうしても感情的な問題が絡んでしまい、なかなか相続争いを解決できないというケースも多いでしょう。
そのようなとき、ひとりで頭を悩ませる必要はありません。まずは弁護士に相談してください。本項では、相続争いが起きた際、弁護士が行える対応について解説します。
弁護士は、法的な観点から客観的なアドバイスを行い、相続人間の話し合いがスムーズに進むようサポートします。また、必要に応じて遺産分割調停を申し立てるなど、相続争いの解決に向けて適切な方法を選択し、解決を目指します。
このように、弁護士に依頼することによって、相続争いを早期に解決できる可能性を高めることができます。
さらに、弁護士を間に挟むことによって、依頼者としては他の相続人と直接言い争う機会が減るため、精神的な負担の軽減につながります。
また、相続人同士でそれぞれの主張の言い合いになってしまった状態において、法的な観点から自分の権利が実現できるようサポートしてくれる存在がいるという事実も、精神的な安定材料となるでしょう。
相続争いが起きてしまった場合は、早めに弁護士に相談をしながら解決方法を探っていくことが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、相続に関するあらゆる問題を解決するため、所属する税理士や司法書士とも連携してワンストップサービスを提供しています。相続の基本的なことを知りたいというだけでも歓迎です。相続争いにお悩みの方は、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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