遺産相続コラム
自分が知らない間に父は長女にだけ多額の現金を生前贈与していたことが判明。そして、財産として残っているのは田舎の自宅だけ……。
そうした場合は遺留分を侵害されたとして、遺留分減殺請求という方法を採ることができます。
弁護士が詳しく解説していきます。
生前贈与とは、自分自身の財産を自分が生きている間に自分の意思で特定の人に贈与することです。
自分の財産を特定の人に譲りたい場合、遺言書に書き記す方法もあります。しかし、遺言は自分が亡くなってからしか効力がありません。それに対して、生前贈与はいつでも行うことができ、贈与した相手が喜ぶ姿を現実に見ることができる方法です。
贈与の対象となる財産に制限はありません。したがって、不動産や金銭、株式など、自分が所有する財産であれば、ほとんど全てのものを贈与できます。
生前贈与は、必要なときに必要な額を自由に贈与できる点がメリットです。それに加えてもうひとつのメリットは、夫婦の間で居住用不動産を贈与したときの贈与税の配偶者控除を利用するなどで、節税になる場合がある点が挙げられます。
特別受益とは、特定の相続人が被相続人から生前に贈与を受けたとか、遺贈を受けたといった事情で、被相続人から特別の利益をもらっていることをいいます。
共同相続人のうち、特別受益を受けた人と受けていない人がいるにもかかわらず、単純に法定相続分通りに相続分を計算すると、特別受益を受けた人がもらい過ぎの不公平な結果となります。この不公平を是正するため、特別受益を受けた相続人については、その受取額を差し引いて、相続分を決定することとされているのです。
なお、生前贈与のすべてが特別受益に当たるわけではありません。特別受益に該当する生前贈与の例としては、次のようなものがあります。
①婚姻の際の持参金、支度金(結婚式の費用もかなり高額の場合などには特別受益とされることもあります。)
②学費の贈与(通常の教育費を超えて、特定の相続人だけに充てられた学費がある場合は、その家庭の教育や経済水準を考慮して特別受益にあたるかを判断します)
③生計の資本としての贈与(名目が生活費であっても扶養義務を超えた相続分の前渡しと認められる程度の高額の金員の贈与、居住用あるいは収益物件などの不動産や開業資金の贈与も含まれます)
共同相続人のうち、特別受益に該当する生前贈与を受けた人がいる場合、生前贈与された金額を、遺産総額に加算して相続分を計算します。きの価額ではなく、相続開始時点の価額で加算します。もし、昭和30年に行われた贈与というような、数十年前に行われた現金の贈与であれば、現在までに貨幣価値が変動していますので、消費者物価指数を考慮して現在の価値に引き直して加算します。ここでは、このような貨幣価値の変動はない、近年行われた贈与として計算しています。)これを特別受益の持ち戻しといいます。
そのうえで、贈与を受けた人は、すでに受け取った贈与額を相続分から差し引いて、具体的な受取額を決定します。具体的な計算方法は、次のとおりです。
このように、持ち戻しの手段を使っても、現実に分割できる遺産は、父名義で残された遺産だけです。
たとえば、上記の姉と妹のケースで、父のもともとも財産額が1200万円だったとします。こうなると、父が亡くなった時点で遺産の残高は200万円です。
被相続人の相続人(ただし、兄妹姉妹は除きます)に残された最低限の相続財産の割合のことです。
被相続人が、遺言や生前贈与によって、自分以外の相続人にだけ遺産の多くを取得させる場合があります。この被相続人の意思を一部制限する効果を持つのが遺留分制度です。
たとえ、被相続人の意思に反しても、相続人である以上、一定割合だけは遺産を受け取る権利が保証されているわけです。
遺留分が侵害された場合、遺留分の権利を有する人は、遺贈や贈与を受けた者に対して、遺留分を侵害されている限度で、遺留分を主張すること(「遺留分減殺請求」といいます)ができます。
そして、特別受益がある場合の遺留分計算では、相続開始時の遺産額に、特別受益の額も加算して計算します。遺産額+特別受益に遺留分割合を掛けた額が、相続人に認められた遺留分になります。
そして、相続人が直系卑属(子どもや孫)だけであれば、遺留分割合は法定相続割合の2分の1です。
したがって、相続人が子ども2人の場合は、もともと2分の1だった法定相続割合の2分の1、つまり4分の1が各相続人の遺留分割合です。
たとえば、上記の姉と妹のケースで、父が1200万円の財産のうち1000万円を姉に生前贈与してしまった場合の遺留分はこうなります。
遺留分減殺請求を行うと、遺留分を侵害する贈与や遺贈は、侵害の限度で効力が失われ、目的物の権利は当然に遺留分権利者に復帰すると考えられています。したがって、遺留分権者は、相続人から相手に贈与され、相手の名義になってしまった財産について、自分にも権利があるという前提で、金銭の贈与だったら遺留分侵害額相当の金員の支払を求めたり、不動産の贈与だったら遺留分割合に相当する共有持分の移転登記を求めたりすることができると考えられています。
この点が、特別受益の持ち戻しとは異なる点であり、つまり、残された遺産で足りない分も、相手に対して自分に払えという権利があるのです。
遺留分権利者は、遺言や生前贈与によって財産を取得した者に対して、遺留分減殺請求を自分で行う必要があります。どういう方法で請求を行わなければならないかという点については、法律上の決まりは特にありません。
とはいえ、遺留分減殺請求は、いつ誰に行ったのかということ自体が、消滅時効を中断し、遺留分減殺請求権が消滅しないようにするために、とても重要な意味を持ちます。したがって、いつ誰に行ったのか明白になるように、ぜひとも期間内に内容証明郵便で行うべきです。
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知ったときから1年以内に行使しなければ時効により消滅します(民法1042条前段)。
また、相続開始時から10年を経過すれば除斥期間により消滅します(民法1042条後段)。
自分以外の者への生前贈与や法定相続割合を変更する遺言がある場合には、自分の遺留分が侵害されていないか、できるだけ速やかに判断して、相手方に遺留分減殺請求の意思表示を行わなければなりません。
1年はあっという間に過ぎてしまいますので、できるだけ早く、弁護士などに相談して、アドバイスを受けるとよいでしょう。
遺産分割は、それまで平和だった家族関係を一変させることがよくあります。特に、遺言や生前贈与で、一部の相続人だけが財産を多く取得するケースでは、不公平感によって大きな紛争に発展することもしばしばあります。
亡くなった人の意思を尊重することも大事ですが、残された相続人の権利もある程度は保証されるべきです。この点を調整するのが、特別受益や遺留分の制度ですが、その計算は複雑で、交渉も難航しがちです。
早めに弁護士などに相談して、ご自身の権利の範囲を理解し、もっともふさわしい手段で交渉や遺産分割を進めていくのが得策です。
ベリーベスト法律事務所では、大切なご家族を亡くされたご心情に寄り添いながら、複雑な遺産分割や遺留分といった法的問題についてご相談をお受けしています。お気軽にお問い合わせください。
ご注意ください
「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
特定の相続人に対してすべての遺産を相続させる旨の遺言が残されていたようなケースでは、不公平な遺産分配に納得がいかず、不満を感じる相続人の方もいるでしょう。
このような場合には、遺留分侵害額請求権を行使することで、遺留分権利者は、侵害された自身の遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。
本コラムでは、遺留分権利者や遺留分割合などの基本的なルールについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書がある場合には、遺言書の内容に従って相続手続きが進められることになります。
しかし、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害するような内容であった場合には、遺言書と遺留分のどちらが優先されるのでしょうか。また、遺言書により遺留分が侵害された場合には、どのような方法によって侵害された遺留分を取り戻せばよいのでしょうか。
今回は、遺留分と遺言書に関する基本事項から、遺留分を侵害された場合の手続きまで、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
令和元年の相続法改正により、遺留分の計算時に基礎とされる特別受益の範囲が、相続が開始される前から「10年以内」の贈与に限定されることになりました。
遺産相続における遺留分を計算するルールは、非常に複雑なものとなっているため、お困りになる方も少なくありません。
しかし、遺産相続は誰しもが経験し得るものであり、法改正の内容や相続のルールなどを正しく理解することはとても重要です。
本コラムでは、特別受益や遺留分に関する基礎的な知識や、相続法で規定されているルール、具体的な計算方法について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。特別受益や遺留分のことでお悩みがある方は、ぜひ最後までご一読ください。