遺産相続コラム
実家などの家屋を相続したとき、建物が不動産登記簿に載っていないケースがあります。
このような建物を「未登記建物」といいますが、未登記建物の場合、通常の不動産相続とは異なり、そもそも登記簿がないのですから、登記名義の変更もできません。まずは「表題登記」および「所有権保存登記」を行う必要があります。
また、未登記だった期間の分、固定資産税をさかのぼって請求されることはあるのかなど、気になる方も多いでしょう。
本コラムでは、未登記建物を相続した場合の固定資産税に関する問題や遺産分割協議などの手続きの注意点、登記方法などについて、弁護士が解説します。
そもそも「未登記」とはどういった状況なのか「登記制度」の基本を含めて理解しておきましょう。
登記とは、不動産の種類や構造などの基本事項や所有者などの権利関係について社会一般に公開して、適切な情報提供をする制度です。これを公示といいます。
土地や建物を登記すると、種類や面積、地積や場所、構造、現在や過去の所有者、抵当権設定の有無などが登記簿(登記事項証明書)によって明らかにされます。
登記簿は誰でも閲覧したり、その謄本を取得できますので、登記することにより当該不動産の物的状況や権利関係を社会一般に知らせることができるのです。登記があるおかげで不動産取引に入ろうとする人は、当該不動産の情報を知ることができ、安心して売買や賃貸、担保権設定等の契約を進められます。
建物を新築したら基本的に登記しなければなりませんが、ケースによっては、未登記のまま放置されている未登記建物が存在します。
相続した建物が登記されているかどうかは、固定資産税の納税通知書をみてみるとわかります。未登記建物でも所有者は納税義務者なので、毎年固定資産税を払う必要があります。自治体から届いた納税通知書に「未登記」と書かれている場合や「家屋番号」が空欄の場合には未登記である可能性が濃厚です。
ただし、まれに家屋番号があっても未登記のケースがありますので、念のために法務局で建物の登記簿の閲覧を申請できるか確認しましょう。該当がないとの回答があったときは、当該建物は未登記である可能性が高いです。
また、固定資産税の納税通知書に記載されている建物面積と登記の面積が食い違っているような場合には、建物の付属建物の表題の登記が欠けている可能性もあります。
不動産登記法47条1項によると、建物を新築したら、所有者は所有権の取得の日から1か月以内に表題登記の申請をしなければなりません。違反すると10万円以下の過料の制裁があります。しかし、それでも登記されずに放置されている未登記建物が多数存在します。
建物の表題登記とは、建物が新築または再築された場合に、はじめてする登記のことを言います、この表題登記を申請することによって、この建物の登記記録が作成され、建物の物理的な状況が明らかになります。
表題登記の申請には、建物図面の添付等、手間も費用もかかります。専門家である土地家屋調査士等に依頼するのがよいでしょう。
しかし、このような申請手続が面倒と思った場合やローンを利用せず全額自己資金で建てたため金融機関が関与しない場合には、表題登記を申請してないケースが多いと言われています。
また登記すると確実に固定資産税や都市計画税を徴収されますが、未登記のまま放置すれば自治体に見つからず税金を逃れられると安易に考えた人が、あえて未登記のまま建物を放置してしまっている現状もあるのではないかと言われています。もっとも、登記されていなくても、固定資産税等を支払う義務は免れません。
建物を未登記のままにしておくと、デメリットも大きくなります。
①土地の固定資産税が高くなる
宅地上に住宅が建っていると、土地の固定資産税が最大6分の1、都市計画税も最大3分の1にまで減額される可能性があります。原則として、住宅の建物が登記がなされていないとこの減額措置を受けられません。
②過去分の固定資産税等を請求される可能性がある
今は未登記建物の存在を知られておらず固定資産税等を払っていなくても、将来自治体に未登記建物であったということが発覚すると、過去にさかのぼってまとめて固定資産税等を請求される可能性があります。
③建物の取引ができない
建物が未登記だと第三者へ建物を譲渡しても、所有権登記の名義変更もできませんので、事実上建物の売買は原則として難しくなるでしょう。また、抵当権設定などもできません。
④過料の制裁が科される可能性がある
建物の表題登記をせずに放置しておくのは不動産登記法47条1項違反です。きちんと手続きしないと10万円以下の過料の制裁を科される可能性もあります。
⑤底地所有者へ対抗できない
建物が未登記の場合、その建物の所有権を第三者へ主張できません。また、たとえば、実家などの建物が他人の所有地上に建っている場合、建物の登記をしないと、建物の所有権のみならず、賃借権を底地所有者(借地権のついた宅地の所有権者)へ対抗できなくなってしまいます。相続を機に底地所有者の気が変わって建物の収去を求められたとき、取り壊さざるを得なくなる可能性があります。
未登記であっても「建物が存在する」以上、財産的価値がありますので、相続財産であることに変わりなく、遺産分割の対象になります。相続人間で遺産分割協議を行い「誰が未登記建物を相続するのか」話し合って決めなければなりません。また、上記しましたように、表題登記は法律上の義務ですから、相続人も表題登記の義務を承継します。
遺産分割協議を進めるとき基本的には「誰が未登記建物を相続するのか」を話し合って決めます。どのような遺産分割協議をするにしても、遺産である建物の評価が必要です。未登記建物の場合、面積や構造などがわからないので、そのままでは評価が困難です。専門家に測量や鑑定を依頼する必要が出てくるでしょう。また、建物を売却して換価する場合は、表題登記及び所有権保存登記をしなければ、所有権移転登記ができませんので、大変面倒な手続が必要となります。
このように、未登記建物の場合の遺産分割協議では、登記済み建物よりも手続が複雑になるケースがあるので注意が必要です。
未登記不動産の場合、遺産分割協議書の書き方にも注意が必要です。
登記済の建物であれば、遺産分割協議書に通常のように登記簿の表題部を引き写せば良いだけです。一方、未登記のまま遺産分割する際には登記簿がないため引き写しはできません。その場合、固定資産評価証明書等の記載を引用して物件を特定します。具体的には以下のような記載となります。
未登記建物を相続するときには、やはり登記をすべきです。必要な登記には「表題登記」と「所有権保存登記」があるので、それぞれについて説明します。
①表題登記とは
表題登記とは、建物の存在や場所、構造などの基本的な事項の登記です。登記事項が掲載されるのは登記簿の「表題部」の部分です。表題登記を行って初めて建物が存在することが明らかになります。
表題登記は、法律上の義務ですので、未登記建物を相続したらすぐに表題登記を申請しましょう。
②表題登記の手続方法
表題登記は建物の所在地を管轄する法務局に申請して行います。主な必要書類は以下のとおりです。
専門家である「土地家屋調査士」に依頼するといいでしょう。
①所有権保存登記とは
所有権保存登記とは、建物の所有者を明らかにする登記です。不動産登記簿の「権利部」に記載されます。権利部は、所有権に関する事項を記録する甲区と所有権以外の権利に関する事項を記録する乙区とに分かれています。
未登記のまま相続した場合、所有権保存登記の名義人は、被相続人名義でも相続人名義でも法律上は可能です。被相続人が生前に当該建物を売買していたという事情がない限り、相続人名義で登記すると良いでしょう。実務上も、相続人名義での登記が一般的となっています。
②所有権保存登記はなぜ必要か
所有権保存登記は表題登記と異なり、法律上の義務ではありません。
しかし、所有権保存登記をしないと、その建物を所有していることを第三者に主張できません。法的には、所有権を第三者に対抗できないとも言います。そのままでは売却も抵当権の設定もできず、他人の土地上に建物が建っている場合には借地権も主張できず収去を求められる可能性があります。
また、第三者が「自分の土地です」などと偽って、売却してしまうリスクもあります。
こういった危険を考えると、たとえ法律上の義務でなくても所有権保存登記をしておくべきといえます。
③所有権保存登記の手続方法
所有権保存登記は、建物の所在地を管轄する法務局に申請して行います。
主な必要書類は以下のとおりです。
所有権保存登記の方法がわからない場合には、司法書士や遺産分割協議で相談している弁護士に相談して手続きをしてもらいましょう。
また、これまで固定資産税を払ってきた場合、登記とは別に自治体に対しても「家屋名義人変更申請書」を提出しておきましょう。
未登記建物を相続したとき、居住も活用もしないケースが多々あります。たとえば古い実家を相続したとき、老朽化が激しく解体せざるを得ない場合もあるでしょう。
解体の際にも登記が必要なのでしょうか?
未登記建物を解体するだけなら、あえて登記する必要はありません。建物を取り壊す際に登記の存在を示す場面はありません。
ただし、未登記建物を解体する場合、必ず自治体へ「家屋滅失届出書」を提出しましょう。家屋滅失届出書とは、「建物が消滅しました」と届け出るための書類です。
未登記建物でも、多くのケースでは自治体から固定資産税を徴収されているものです。建物滅失届を提出しない限り、建物解体後も固定資産税を請求される可能性がありますので、解体したらすぐに届け出をすべきです。
届け出の際には解体工事を担当した業者に署名押印をしてもらう必要がありままので、忘れずに依頼しましょう。書式は自治体にて用意されていますので、問い合わせて事前に取得しておくことをおすすめします。
提出先は、自治体の「資産税課」や「税務課」などです。役所に問い合わせましょう。
未登記建物を相続したら、通常の登記済み建物とは異なる手続が必要となり、弁護士以外にも土地家屋調査士や司法書士によるサポートが有効です。
ベリーベスト法律事務所では弁護士だけではなく司法書士や税理士などの隣接士業も在籍しており、弁護士が中心となってワンストップで相続案件への対応が可能です。
難しい登記のこともわかりやすく丁寧にご説明し、スムーズに相続手続を進められるよう対処方法をアドバイスいたします。
遺産相続に関するお悩みを抱えておられるなら、まずはお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。