遺産相続コラム
配偶者がすでに他界し、子どもも独立しているような場合、遺産によって子ども間でもめることもあるため、全額を寄付したいと考える人も増えてきているようです。また、子どもと疎遠であるため相続させたくない、相続するべき身内がいないという理由の場合もあるでしょう。
このような場合に、何もせずにおくと、法定相続人がいれば、法定相続人が遺産分割を行って遺産を相続することになります。また、法定相続人がいない場合には、相続財産は、特別縁故者からの分与請求が行われない限り、すべて国庫に帰属することになります。それよりは、自分が信頼するNPO法人などに寄付をして、自分の遺産を役立ててもらいたいなどの考えがあるときには、寄付を検討することになりますが、寄付をするにはどのような方法があって、どのような点に注意すべきなのかよくわからないという人が多いと思います。
そこで、本コラムでは、遺産を寄付する場合の手続きの流れや寄付するために準備をしておくべき内容などについて解説します。
遺産が多いと、遺産をめぐり争いが生じることもあるため、遺産を公共団体などに寄付したいと考える人も増えてきていると言われています。また、自分自身が病気で苦しんだような場合には、その病気の治療の研究に遺産を使ってほしいと、特定の分野の研究機関に寄付したいと考えるようなこともあるでしょう。
このような場合、遺産を特定の団体や企業、相続人以外に寄付することは可能です。
寄付をすることで、自身の想いをかなえながら、社会貢献もできるというメリットがあります。
遺産を寄付する方法としては、遺贈と死因贈与があります。
遺贈は、遺言書に遺贈の意思を記載することで特定の人や団体に遺産を贈与する方法です。財産を渡す人を「遺贈者」、財産を受け取る人を「受遺者」と呼びます。受遺者に制限はなく、法定相続人はもちろん、法定相続人以外の親族や各種団体に対しても行うことができます。
遺贈の方法は、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
●包括遺贈
包括遺贈とは、「全財産の○割をAに与える」というように、贈与する財産の割合と相手を指定する遺贈を言います。割合は10割でも構いません。包括遺贈の場合、資産だけでなく負債も引き継ぎますので、その点は注意が必要です。
包括遺贈の場合には、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)とされているので、遺贈を受けたくない場合には、自分が包括遺贈を知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。また、限定承認をすることも可能ですが、限定承認をするためには、他の相続人や包括受遺者と一緒にしなければなりません。
●特定遺贈
特定遺贈とは、「A土地はBに遺贈する」というように、贈与する具体的な財産と相手を指定する遺贈を言います。包括遺贈とは異なり、負債を引き継ぐことはありません。ただ、財産は常に変動するものなので、財産に変動があった場合には見直す必要があります。
特定遺贈の場合は、受遺者はいつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条1項)。ただ、遺贈を受けるのかどうかはっきりしなければ、その他の相続の処理を進めることができません。そのため、相続人などの利害関係者は、受遺者に対して相当期間を定めて遺贈を承認するか放棄するかの回答を求めることができ、期限内に回答がない場合は、遺贈を承認したものとみなすことができます(民法987条)。
遺贈に、遺贈を受けた財産は医療技術開発のために使うようにといった条件等をつけることもできます。これを負担付遺贈と言い、もし負担が履行されない場合には、相続人が履行を請求し、それでも負担が履行されない場合には、相続人は、その負担付遺贈を行った遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法1027条)。
死因贈与は、被相続人が死亡したことによって効力が生じる贈与契約のことです。生前に受贈者との間で、「贈与者が死亡した場合に、指定した財産を受贈者に贈与する」と合意した上で契約を結ぶ必要があります。死因贈与は、遺言のような贈与者の一方的な意思表示ではなく、贈与者と受贈者の生前の契約ですが、贈与契約というのは、書面によらないもの(単なる口約束)であれば、履行する前はいつでも取消が可能なものです(民法550条)。
死因贈与も贈与契約であることに違いはないので、書面によらない生前贈与契約であれば、いつでも贈与者による取消が可能です。また、遺贈はいつでも遺言の方式に従って撤回することができます(民法1022条)が、判例によれば、死因贈与にもこの条文が、方式に関する部分を除いて準用されるとされているので、この点からも、死因贈与契約は贈与者が取り消したり、撤回したりすることは可能です。
また、死因贈与には、遺贈と同じように条件を付けることができます。たとえば、「生存中の介護をしてくれたら自宅の土地と建物を与える」というように、受贈者に義務を課すことができるのです。このような死因贈与は「負担付死因贈与」と呼ばれています。
このような負担付死因贈与の場合で、しかも負担の履行期が贈与者の生前であり、贈与者死亡前に負担の全部または全部に類する程度の履行をした場合には、例外として、民法1022条は準用されないという最高裁判所の判例はあります。
しかし、やはり、この判例は、死因贈与契約を信頼して課せられた負担をほとんど履行した受贈者を保護するための例外的なものであり、現在の判例の解釈からすると、死因贈与契約を行ったからといって、遺贈より確実に遺産を取得できるとは限りません。
遺贈にしても死因贈与契約にしても、遺言者の最終意思を守ろうということが原則であるとして考えられています。つまり、遺産を自分が選定した相手に寄付したいという贈与者の最終意思が尊重されるということになります。
だから、寄付するからには、自分が生きている間にこれだけのことをやってもらいたいという希望があるなど、特別な事情があるときには、しっかりと書面で負担付死因贈与契約を締結して、生前に負担を履行してもらうべきでしょう。(その代わり、死んだらあげるといっていた財産を、今更あげないということはできなくなります。)それが嫌なら、無意味に受贈者に期待を持たせるような死因贈与契約ではなく、贈与者の意思次第でどうするか決められる遺贈の形式で寄付をするほうが無難でしょう。
遺産を寄付したいと思う場合は、まず寄付先を探すことからはじめます。具体的な寄付先が決まっていない場合は、自分は何を支援したいのかを考える必要があります。
身近なところでは、母校や自分が興味のある研究分野、子どもの支援や病気の支援などが考えられます。思い浮かばない場合はインターネットなどを利用し、公益法人のサイトなどから活動内容を確認してみるのもよいでしょう。
中には信用しがたい団体もあるので、年次報告書の内容を見たり、公益法人やNPO法人として認定を受けているかどうかを確認したりすることが重要です。税制優遇を受けている団体であれば、国または地方公共団体が活動内容を審査しているので、比較的安心して寄付することができるでしょう。
また、寄付をすることによって、どのような税務が発生するのか、各種の特例が適用されるのかなど、税務上の問題もありますので、スムーズに受け取ってもらえるか、税理士の方と相談されることをおすすめします。寄付先に直接確認してみるのも良いでしょう。
遺贈をする場合は、遺言書を書く必要があります。
普通方式の遺言書は、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類です。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で作成する遺言書です。具体的な要件としては次のとおりです。
個人でも対応できるため簡単な方式の遺言と言えますが、方式に不備があれば無効になってしまう恐れがあります。そのため、弁護士などの専門家に依頼し、内容を確認してもらうと安心です。
②公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が公証人の面前で遺言の内容を口授し、それに基づいて、公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言として作成するものです。
法律の専門家である公証人が遺言を作成しますので、方式の不備で無効になることはほぼない、確実な遺言方法と言えます。
③秘密証書遺言
秘密証書遺言は、内容を秘密にしつつ、遺言書を保管できる方式です。
まず、遺言者が遺言の内容を記載した書面に署名押印をした上で、これを遺言書に押印した印章と同じ印章で封印します。次に、公証人および証人二人の前にその封書を提出し、自己の遺言書である旨と、その筆者の氏名、住所を申述します。公証人が、その封紙上に日付と遺言者の申述を記載した後、遺言者・証人二人と共に、その封紙に署名押印することにより作成されます。
遺贈で重要なのは、有効な遺言書を書くことです。要件を欠くと、遺言が無効になってしまうおそれがあります。そのため、作成に多少の手間と費用は掛かりますが、公正証書遺言にしておくことが望まれます。
死因贈与で寄付をする場合には、寄付先の団体と契約を締結する必要があります。民法上は口頭でも契約可能ですが、相続の際にもめたり、取消したりされないよう書面にしておくことは必須と言えます。公正証書にすることも考えられます。
遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に対して、法律上で最低限取得することが保障されている、相続財産の割合のことです。
ここで言う「一定の範囲の法定相続人」とは、兄弟姉妹を除く法定相続人を指しています。
遺留分の割合は次のとおりです。
遺留分権者が複数人いる場合には、3分の1または2分の1に、それぞれの法定相続分を乗じた割合が、それぞれの遺留分となります。
このような遺留分を有する相続人は、遺贈や死因贈与により遺留分を侵害された場合、贈与や死因贈与を受けて遺留分を侵害した受贈者に対して遺留分侵害額請求を行うことができます。
相続人がいるものの遺産を寄付したいと考えた場合には、遺留分を侵害しない範囲で寄付をしなければ、遺留分侵害額の請求がなされる可能性が高いので注意が必要です。
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今回のコラムでは、遺産を寄付する方法と遺贈と死因贈与の違いや注意点について解説してきました。自分が築いた財産を社会に還元することは、自分の意思を果たすことでもありますが、遺産をどのように分けるのかという意思を明確に示すことで、相続財産をめぐるトラブルを防止するという側面もあります。
しかし、遺贈を行うための遺言が無効だったり、死因贈与契約書が無効だったりすると、どちらの目的も達成することはできません。自身の希望をかなえるためには、しっかりと準備することが重要です。
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結婚相手に連れ子がいる場合、結婚の際に養子縁組をすることもあるでしょう。
養子縁組を行うと、養親は養子に対して扶養義務を負い、養親と養子は互いに相続権を持つことになります。もしその配偶者と離婚した場合でも、連れ子との親子関係は継続するため、注意が必要です。
たとえば、養子縁組をそのままにしておくと、離婚後も養育費の支払いをしなくてはならず、また死後、あなたの遺産が離婚した元配偶者の連れ子に相続されることになります。
法的な権利義務関係を解消するためには、養子縁組を解消しなくてはなりません。しかし、養子縁組解消(離縁)の手続きをしたくても、養子や実父母から拒否されることもあるでしょう。
本コラムでは、養子縁組を解消する手続き方法や拒否されたときの対処方法、法律の定める養子縁組をした子どもとの相続関係について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
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さまざまある相続対策のなかでも、生命保険金を利用したものは、遺留分対策として有効な手段となります。特定の相続人に多くの財産を渡したいとお考えの方は、生命保険金を活用した相続対策を検討してみるとよいでしょう。
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将来の遺産相続を見据えたとき、「孫に財産を残したい」と考える方は多数いらっしゃいます。しかし孫は通常、相続人にならないため、相続権がありません。
つまり、何の対策もしなければ孫へ遺産を相続することは不可能です(本来相続人である子どもが亡くなっている場合の代襲相続を除く)。相続人ではない孫に遺産を受け継がせるには、遺言書作成や生前贈与などによる対策を行いましょう。
ただし、孫に遺産を相続するとなれば、本来相続人ではない方に遺産を受け渡すことになるため、他の相続人とのトラブルを招く場合があります。
本コラムでは、円満に孫に遺産相続させる方法や、遺産相続の際に起こり得るトラブル回避方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。