遺産相続コラム
配偶者が亡くなったあと、義父・義母などの配偶者の親族との縁を切りたいとお考えの方もいるでしょう。そのような方が配偶者の死亡後にできる手続きのひとつに「死後離婚」というものがあります。
死後離婚は、配偶者の親族との関係を法律上で解消する手続きです。特に、義両親の介護や墓の管理などを任されることに抵抗を感じる方が、利用を検討することがあります。
しかし、死後離婚を行う際には、いくつか気を付けるべき点があります。本コラムでは、死後離婚がどのような手続きかや、メリット・デメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
以下で、死後離婚がどのような手続きであるかを詳しく紹介します。
死後離婚とは、配偶者の死亡後、「姻族関係終了届」を市区町村役場に提出することで、配偶者側の親族(ご本人との関係では姻族)との関係を終了させる手続きです。
3親等内の姻族は親族となります(民法第725条3号)。3親等内の血族とは以下の関係にある人を指します。
死後離婚の手続きをすると、上記の姻族との関係が法律上消滅します。
「死後離婚」という呼称から、配偶者が亡くなったあとに、配偶者との婚姻関係を解消する手続きというイメージを持つ方もいらっしゃるでしょう。
しかし、配偶者との婚姻関係は、配偶者の死亡と同時に解消されています。つまり、亡くなった配偶者との婚姻関係を解消するための特別な手続きは必要ありません。
一方、配偶者の親族との関係は、配偶者の死亡後も自動的には終了しません。「死後離婚」は、あくまでも亡くなった姻族(配偶者の血族)との関係を解消する手続きだと理解しておいてください。
配偶者が亡くなったとしても、必ずしも死後離婚をしなければならないわけではありません。死後離婚をせず、姻族との関係を続ける方が多いでしょう。
たとえば、以下のようなケースに該当する場合には、死後離婚が検討されることがあります。
死後離婚には、以下のようなメリットがあります。
死後離婚をすれば、姻族関係が終了するため、義両親の介護や同居の要望を断りやすくなるでしょう。
本来、姻族に対する扶養義務はなく、基本的には介護や経済的な扶養、同居をする法律上の義務はありません。しかし、法律上の義務がないとはいっても、義両親から求められれば、簡単には断りにくいでしょう。死後離婚をしていれば、それを理由に回避しやすくなるでしょう。
また、たとえば義両親が要介護認定された際、配偶者の直系血族に扶養能力のある親族がいなければ、家庭裁判所の審判によって扶養義務を負わせられる可能性があります。しかし、死後離婚をしていれば、扶養義務が課されることはありません。
死後離婚は、姻族の承認なしで手続きを行うことができます。また、市区町村役場から姻族に通知が届くこともありません。そのため、自分から死後離婚することについて言わない限りは、姻族に知られずに縁を切ることが可能です。
死後離婚をすることで、相続や遺族年金の受け取りに影響が生じるのではないかと不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、死後離婚をしたとしても、配偶者としての地位には何ら影響はありません。配偶者の遺産を相続することができ、遺族年金についてもそのまま受け取ることができます。
姻族との縁を切りつつ、遺産や年金の受け取りは変わらずできると聞くと、都合がよいことばかりの制度のように感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、死後離婚はリスクを伴う注意点もありますので、事前に慎重に検討したうえで判断することをおすすめします。
前述のとおり、市区町村役場から姻族に対して、死後離婚についての通知が送付されることはありません。しかし、姻族関係が終了した旨は、戸籍謄本の身分事項欄に記載されます。そのため、何かのきっかけで、義両親や義理の兄弟姉妹等に、死後離婚したことが知られる可能性はあります。
死後離婚が姻族に知られてしまうと、気まずくなったり関係性が悪化したりすることもあるでしょう。死後離婚は、あとから撤回することができない手続きです。そのため、後悔しないよう慎重に考えてから手続きを進めるようにしましょう。
死亡した配偶者との間に子どもがいる場合、死後離婚をしたとしても、子どもと姻族との関係は法律上も変わりません。子どもと義両親は血族です。義両親の経済状態によって子どもが扶養義務を負う可能性は変わりません。
また、死後離婚で義両親や義理の兄弟姉妹との関係が悪化し、疎遠になってしまうと、子どもはショックを受けるかもしれません。これまでかわいがってくれた祖父母たちと会いにくくなり、子どもの反感を買うことになるおそれもあります。
死後離婚をする際には子どもの理解を得たうえで手続きを行うとよいでしょう。
死後離婚をしたとしても、それだけでは名字は変わりません。旧姓に戻したい場合には、市区町村役場への「復氏届」の提出が別途必要です。なお、復氏届の提出に期限はありません。配偶者の死亡届が受理されたあとであれば、いつでも提出することができます。
ただし、復氏届による名字の変更は、亡くなった方の配偶者に対してのみ適用されます。子どもの名字も一緒に変更するには、家庭裁判所に子の氏の変更許可申し立てを行い、裁判所の許可を得る必要があります。
祭祀(さいし)承継とは、お墓や仏壇、系譜などの祭祀財産を引き継ぐことです。
祭祀財産は、相続財産とは別に扱われます。祭祀承継者の指定がある場合にはその指定された人が引き継ぎますが、指定がない場合には親族間で話し合って誰が引き継ぐか決めなければなりません。
亡くなった配偶者により、祭祀承継者として指定された場合、死後離婚をしたとしてもそれだけで祭祀承継者の地位から外れることはできません。死後離婚後もお墓の管理や法事を主宰しなければならず、居心地の悪い思いをすることになるかもしれません。
姻族との話し合いにより、祭祀承継者を引き継いでもらえる可能性はありますが、姻族との関係性によっては、スムーズな引き継ぎが難しいケースもあります。話し合いが難しい場合には家庭裁判所で調停や審判を行うことも可能ですが、その場合にも必ずしも祭祀承継者ではなくなるとは限りません。
このように、姻族の墓や法事の管理者(祭祀承継者)を完全に避けることはできません。
亡くなった配偶者に借金などの負の遺産があった場合、それも相続財産に含まれます。死後離婚をしても、相続権には影響がないため、借金の相続を回避することはできません。
借金を相続したくないのであれば、別途、相続放棄の手続きが必要になります。相続放棄には、相続開始を知ったときから3か月以内という期限がありますので、早めに手続きを進めるようにしましょう。
以下では、死後離婚の手続きの流れと、必要になる書類を説明します。
死後離婚をする場合、本籍地または住所地の市区町村役場に「姻族関係終了届」を提出します。死後離婚の手続きは、配偶者の死亡届が受理されたあとであれば、いつでも行うことができ、提出期限もありません。また、姻族の承諾も不要ですので、自分の都合のよいタイミングで行うことが可能です。
なお、死後離婚が受理されたといった通知や連絡が姻族に行くことはありません。
死後離婚の手続きをする際には、以下の書類を準備する必要があります。
市町村役場によっては、印鑑や本人確認書類などが不要なこともあるため、事前に自治体のウェブサイトなどを確認しておくと安心です。
なお、姻族関係終了届は、市区町村役場の窓口に備え付けられているほか、自治体のウェブサイトからダウンロードできる場合もあります。
死後離婚を含む遺産相続に関するお悩みは、弁護士に相談することをおすすめします。
死後離婚は姻族との関係性清算の観点でいえばメリットが多い手続きではありますが、今後の人間関係の悪化にもつながりかねないリスクがあり、また、手続き後の撤回もできないため慎重な判断が必要です。
縁を切りすっきりする、という心理的な面以外ではメリットがない場合もあるため、ご自身のケースでどのようにすべきか判断に迷われる場合には、弁護士に相談するとよいでしょう。
死後離婚を検討するような状況であれば、亡くなった配偶者の親族との関係性が悪化していることも考えられます。このような状況では、配偶者の親族を交えて遺産相続の話し合いをするのは困難な場合もあるでしょう。
弁護士であれば、依頼者の代理人として遺産分割協議に参加することができます。そのため、親族同士のトラブルを回避しながら、適切に遺産分割の話し合いを進めることが可能です。配偶者の親族との話し合いが負担に感じる場合には、弁護士に依頼するとよいでしょう。
死後離婚をすると、姻族との関係悪化により、当人同士ではスムーズに遺産分割協議ができなくなる可能性があります。そのような場合には、遺産分割調停や審判の手続きが必要です。弁護士に依頼をすれば、遺産分割協議から継続して、調停や審判にも対応してもらうことが可能です。
早い段階から依頼することで、円満に遺産分割を成立させられる可能性が高まるため、話し合いがこじれる前に弁護士に相談しましょう。
死後離婚では、亡くなった配偶者の親族との関係を終了することが可能です。そのため、義両親との同居を解消する口実にできるほか、将来の義両親の介護を回避できるなどのメリットもあります。
ただし、死後離婚により姻族との関係が悪化する可能性も十分にあります。死後離婚後に遺産相続の手続きをする場合は、弁護士を代理人にして姻族との話し合いを進めていくとよいでしょう。
配偶者が亡くなり死後離婚をお考えの方は、その後の遺産相続の手続きを含めて、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
親族が亡くなって遺産相続が発生したとき、遺産(相続財産)を誰に、どんな割合で分配するかが大きな問題となります。
民法の規定や関連する注意点を理解しないまま不公平な遺産分配が行われてしまうと、予期せぬ大きなトラブルになりかねません。
相続人同士、もめることなく遺産相続の手続きを進めていくためにも、法定相続分や相続順位など、基本的なルールを押さえておきましょう。
本コラムでは、遺産(相続財産)の分配方法や基本ルールなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書や相続財産の説明など、遺産相続に関する情報を何も残すことなく、突然に親が亡くなってしまうことがあります。
残された家族としては、親の相続財産はどこに何があって、いくらあるのかも全くわからず、「どうやって遺産相続の手続きを進めていけばよいのだろうか」「亡くなった人の財産を調べる方法はないのか」と、途方に暮れることもあるでしょう。
遺産相続が始まったとき、遺言書や遺産目録(相続財産目録)がない場合に必ず行わなければならないのが、被相続人(亡くなった方)の相続財産の調査です。
本コラムでは、亡くなった親の相続財産を調べるために知っておくべきことや、自分で財産調査を行うときの遺産の調べ方について、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親の子どもが自分だけ(一人っ子)の場合、遺産相続のことで相談できる兄弟姉妹もおらず、不安に思う方は少なくありません。なかには、子ども一人だけなら遺産分割をする必要もなく、特に懸念点もないと考えている方もいるでしょう。
しかし実際のところ、相続税の計算においては、相続人の数が少ないほど不利になるケースがあります。また、親に借金がある場合には相続放棄をしない限り、その借金を背負うことになるなど、知らないと損する事柄もあることには注意が必要です。
本コラムでは、何かと不安な一人っ子の遺産相続について、注意点や今のうちから準備しておくべき相続対策などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。