遺産相続コラム
家族の在り方は様々です。配偶者や、義父母などの親戚付き合いがうまくいっている家族もあれば、そうでない場合もあるでしょう。夫婦の一方である配偶者が亡くなった場合、あまりうまくいっていない義父母との付き合い方はどうすればいいのでしょうか。
死後離婚とは、配偶者の死後に、義父母など配偶者の血縁者との関係を断ち切る手続きのことです。
もっとも、死後離婚という言葉を耳にしたことはあっても、死後離婚をすると相続はどうなるのか、子どもに不利益はないのか、遺族年金はもらえるのかなど、気になることも多いと思います。
そこで今回は、死後離婚と相続の関係について、戸籍や遺族年金への影響等も含めて解説いたします。
配偶者が死亡すると、婚姻関係は終了します。
もっとも、離婚の場合と異なり、配偶者が死亡しても、義父母ら配偶者の親族(姻族)との関係が当然に断ち切られるわけではありません。関係を断ち切るためには「姻族関係終了届」を提出する必要があります。
この手続きは、配偶者の死後行われることから「死後離婚」と呼ばれています。
なお、配偶者の死後に離婚はできませんので、「死後離婚」は法律用語ではなく、通称にすぎません。
政府の統計資料によると、配偶者の死後、「姻族関係終了届」を提出する人の数は、平成21年度は1,823件だったものが、平成30年度には4,124件と直近10年間で2倍以上に増加しています。
婚姻は、離婚または当事者の一方の死亡によって解消します。
しかし、離婚と死亡の場合では、効果に以下のような違いがあります。
① 氏(姓)の使用
離婚の場合、婚姻によって氏を改めた夫または妻は、法律上当然に旧姓に戻ります。ただし、離婚の日から3か月以内に届け出れば、婚姻中に使用していた名字を使い続けることができます。
他方、夫婦の一方が死亡した場合、名字は影響を受けません。
残された配偶者が名字を変えていて、旧姓に戻したい場合には、復氏届を市区町村役場に提出します。復氏届に提出期限はありません。
② 姻族関係
姻族とは、配偶者と血縁関係にある者(血族)および血族の配偶者のことをいいます。
たとえば、配偶者の血族とは、配偶者の父母、配偶者の兄弟姉妹やその子等です。
民法では、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を「親族」としていますので、結婚すると配偶者の両親や配偶者の祖父母、配偶者の兄弟などとも親族になります。
離婚をすると、配偶者の血族との姻族関係は終了します。
他方、配偶者が死亡しても、姻族関係は終了しません。したがって、姻族関係を終了させるためには「姻族関係終了届」を提出する必要があります。
なお、義父母などの姻族の側からは、残された配偶者との関係を終了させることはできません。
死後離婚が増えている理由は、核家族化の進行が考えられます。
義父母との同居が減り、配偶者が存命中は年に数度の行き来があっても、配偶者の死後は、義父母との関係を続けたくないというケースです。
他に、お墓をどうするかで残された配偶者が義父母とでもめるケースや、義父母や義理の兄弟姉妹と遺産を巡って争いになるケースもあります。
民法では、同居の親族は互いに扶(たす)け合わなければならないとされ、特別の事情がある場合には、三親等内の親族間においても扶養義務が生じる可能性があることが定められています。
本籍地または居住地の市区町村に姻族関係終了届を提出すれば、届出をした日に姻族関係は終了します。
届出をするにあたって、義父母等配偶者の血族からの許可は必要なく単独でできます。
配偶者の死亡届が出された後であればいつでも提出でき、提出期限はありません。
なお、一度手続きをすると、後で取り消すことはできません。
姻族関係を復活させることはできないため、急ぐ必要がなければ、慎重に考えてから手続きをしましょう。
死後離婚をしても、相続に影響はありません。
姻族関係終了届は姻族との関係を終了させるだけで、死亡した配偶者との関係を終了させるものではないからです。
また、配偶者の財産を相続した後であっても、すでに受け取った財産を返還する必要はありません。
死後離婚をしても、子どもへの相続に影響はありません。
死後離婚をすれば、残された配偶者と姻族との関係は終了しますが、亡くなった配偶者との間にできた子どもは何の影響を受けないからです。
したがって、子どもは、亡くなった配偶者の財産を相続することができることはもちろん、死後離婚後に祖父母が亡くなった場合にも、その財産を相続できる場合があります。
死後離婚をしても相続に影響はないため、亡くなった配偶者が多額の借金を抱えていて相続放棄をしたいという場合には、別途、相続放棄の手続きが必要です。姻族関係終了届を提出しても、相続放棄をしたことにはなりません。
参考:相続放棄とは
姻族関係終了届を提出しても、遺族年金は受給できます。遺族年金は、亡くなった人の配偶者等遺族に支払われるものなので、姻族関係が終了することと関係ないからです。
※詳細は年金事務所各窓口へにお問い合わせください。
戸籍は、夫婦とその未婚の子を単位として編製されるものなので、姻族関係終了届を提出しても「姻族関係終了」と記載されるほかは戸籍に変更はありません。
婚姻前の氏に戻したい場合には、「復氏届」を提出します。復氏届を提出すると配偶者の戸籍から抜けることになりますので、結婚前の戸籍に戻るか、分籍をして新たな戸籍を作ることになります。
復氏をしても子どもの氏には影響がないため、子どもに自分と同じ氏を名乗らせたい場合には、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出して許可を得る必要があります。家庭裁判所の許可が出たら、市区町村役場で子を自分の戸籍に入籍させる手続きをします。
「熟年離婚」という言葉があるように、長年に渡って不満を抱えていた夫婦の一方が、定年や子どもの独立を機に離婚を切り出すことは、よくあります。
ということは、夫婦関係に不満を抱えながらも離婚には至らないまま配偶者に先立たれる場合も少なからずあるでしょう。
また、相手方の両親の反対を押し切って結婚した場合など、義父母との関係が悪くて結婚後は一切連絡を取っていないという場合もあるでしょう。
こうした場合に、配偶者の死後、義父母などの姻族との関係を断ちたいと思うのは自然なことです。本コラムで説明してきた死後離婚は、上記のような方にとって有効な手段といえます。
一方で、姻族関係終了届の手続きや相続問題など、お一人で対応するのは不安という方も多いと思います。ベリーベスト法律事務所には相続関係について経験豊富な弁護士が在籍しておりますので、相続問題についてお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。