遺産相続コラム
親の相続が発生したとき、遺産に「海外資産」が含まれていたらどのように対応すれば良いのでしょうか?
海外不動産などの場合、日本国内にある資産と取り扱いが異なる可能性があります。このように海外の財産を相続するケースを「国際相続」ともいいます。
今回は、海外資産の相続方法や注意点などについて、弁護士が解説します。
そもそも国際相続が発生する「海外資産」にはどういったものがあるのかを確認しましょう。
ひとつは被相続人が海外に不動産を所有しているケースです。最近は海外不動産投資なども人気を集めているので、親が亡くなったときに「実はアメリカやフィリピンなどに不動産を所有していた」という事実が発覚する例も少なくありません。
海外に被相続人名義の預金口座があるケースも考えられます。かつて海外居住していたことのある方、定年退職後に海外移住して生活していた方などは、海外に預金口座を持っている可能性が高いと言えるでしょう。その場合、預金口座の解約や名義変更などが必要となります。
被相続人が海外に骨董品や絵画などの動産を所有しているケースも考えられます。たとえば被相続人が海外に居住していた場合、現地の居宅内に価値のある動産があれば、そういったものは海外資産として遺産相続の対象になります。
被相続人の遺産の中に海外資産が含まれていて国際相続をするケースでは、どの国の国際私法に基づきどの国の相続法(準拠法)が適用されるかを確認しなければなりません。
まず、国際私法というのは、外国人が登場する法律関係や外国において発生した法律関係についてどの国の法律(準拠法)を適用すべきかを定めた法律であり、各国において定められ、その内容はそれぞれ異なります。
日本の国際私法のひとつとして重要なのが、「法の適用に関する通則法」です。
そして、この日本で定められた「法の適用に関する通則法」が相続問題において適用されるためには、被相続人の最後の住所地または遺産所在地が日本である必要があります。
次に、準拠法というのは、当該国の国際私法により、当該外国関係の法律関係について適用されるべきであるとされた国の当該分野の法律です。
したがって、日本の国際私法に基づいて、相続分野の法律関係についてどの国の法律が適用されるかをみると、日本の国際私法のひとつである「法の適用に関する通則法」第36条は「相続は、被相続人の本国法による。」としているので、被相続人の本国法(その人が国籍を有する国の法)が適用されることになります。
なお、被相続人が二重国籍を有する場合には、国籍国のうち、被相続人が常居所(「人が相当長期間にわたって居住する場所」などと定義されます)を有する国があるときはその国の法を、被相続人が常居所を有する国がないときは被相続人にもっとも密接な関係がある国の法の被相続人の本国法とし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を被相続人の本国法とするものとされています(法の適用に関する通則法第38条)。
このように、被相続人の最後の住所地または遺産所在地が日本である場合の相続問題については、原則として、被相続人の本国法が適用されることになりますが、海外に所在する不動産の場合、被相続人の本国法が適用されるとは限りません。
なぜなら、不動産については特別に「所在地の国の法律を準拠法とする」とする国があるからです。このように、不動産とそれ以外の資産の取扱いを分ける方法を「相続分割主義」といいます。
たとえばアメリカやイギリス、フランスや中国などでは「相続分割主義」がとられるので、不動産についてはその所在地の国の法律が適用されます。
他方、日本など、すべての遺産について統一的に相続処理を行う国を「相続統一主義」といいます。同じ相続統一主義でも「被相続人の本国」を基準とするパターン、「被相続人の最終の住所地」を基準とするパターンがあるので注意が必要です。
不動産以外の海外資産の場合、原則どおり、被相続人の本国法が適用されます(法の適用に関する通則法第36条)。
以上のように、被相続人が日本人以外の場合や日本人であっても海外不動産を所有していた場合、相続時にさまざまな国の法律が適用される可能性があります。
したがって、遺産分割に際しては正確に準拠法を確認し、適用される法律の内容を詳しく調べる必要があります。
被相続人が遺言書を残していた場合、その効力はどのようなものとなるのでしょうか?
国際相続において遺言書が有効になるのは以下のようなケースです(遺言の方式の準拠法に関する法律第2条)。
このように、日本法では遺言の要件を満たさなくても「遺言作成時の住所地の法律」や「不動産の所在地の法律」などの国の法律の要件を満たせば遺言が有効になる可能性があります。
本では「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3種類の遺言方式しか認められていませんが、国によっては「録音方式」が認められているケースもあります。そういった法律が適用されれば、日本では無効となる遺言も有効になる可能性が発生します。
したがって、国際相続の事案で遺言が残されていたら、遺言の「準拠法」を調べた上でその有効性を確認しなければなりません。
アメリカなどに海外不動産があり、現地の法律が適用されると国際相続の手続が日本のものと大きく異なり、より複雑な手続が求められる可能性があります。国によっては「検認裁判(プロベイト)」とよばれる手続が必要となることもあります。以下で国際相続の手続を詳しくみていきましょう。
日本を始めとする多くの国では、検認裁判制度はありません。
たとえば日本であれば相続人が「遺産分割協議」を行い全員が合意をすれば、遺産を分割することができます。その場合に、後の紛争を予防するため、「遺産分割協議書」を作成すべきでしょう。相続人全員が署名押印した遺産分割協議書があれば、不動産の登記名義変更や預貯金の払戻しなどの相続手続をスムーズに進められます。
ただし、遺産分割協議書を作成する際には、基本的に「実印」と「印鑑証明書」が必要です。なぜなら、遺産分割協議書に基づいて不動産の登記名義を変更する等の手続をする際に、印鑑証明書の提出を求められるからです。一方、相続人が海外に居住していたり、外国籍で実印がない場合、この方を含めて遺産分割協議書を作成するためには、現地の在外公館で「サイン証明書」を取得する必要があります。
アメリカやイギリスなどの国では相続手続に「検認裁判(プロベイト)」が必要となります。検認裁判とは、裁判所の関与のもとに遺産相続手続を進めるものです。まずは裁判所が「人格代表者」を任命し、人格代表者が相続財産の調査や確定、負債の支払いや税金申告等を行います。
最終的に裁判所が相続財産の分配について許可を出したとき、ようやく相続人らが海外資産を受け取ることができます。
検認裁判には現地の弁護士の関与が必須になるので、費用や時間(おおよそ1年から3年間)がかかります。
相続が発生したときにアメリカなどの検認裁判が適用される国に不動産があると、相続人らに大きな負担がかかります。将来、検認裁判が必要になる可能性がある場合、被相続人の生前のうちにできる限り海外不動産は処分しておいた方が良いでしょう。
相続の際に海外資産が残されていて、国際相続に対応しなければならない場合、相続人だけでは対処が困難なこともあります。弁護士へのご依頼をおすすめする理由について、ご説明いたします。
国際相続の場合、どこの国の法律(準拠法)が適用されるのか、正確に調べる必要があります。間違った法律をもとに相続手続を進めても無効になりかねませんので、注意が必要です。
そのため、初めから弁護士に相談して適切に手続を進めるべきでしょう。
国際相続では、現地の弁護士や税理士、不動産業者などさまざまな専門家や業者の関与が必要となるケースは少なくありません。特に何の伝手(つて)もない日本在住の相続人の場合、誰に相談したら良いかわからず困ってしまう可能性もあります。
海外資産の取り扱いになれている弁護士であれば、海外の専門家にもコネクションを持っている可能性も高いのでスムーズに相続手続を進められるでしょう。
国際相続を相談するときには、弁護士選びを慎重に行うべきでしょう。
日本国内の案件しか取り扱っていない弁護士に国際相続を相談しても、スムーズに進めるのは難しいでしょう。できれば「外国法を取り扱える弁護士」の所属している法律事務所を選択しましょう。外国法を取り扱える弁護士とは、遺言書や遺産目録など各種書類の翻訳・通訳対応ができる、現地法についての深い知識がある、現地弁護士等とのやり取りやコネクションがあるなどのスキルを持った弁護士のことです。日本人であっても外国人であってもかまいません。
準拠法となる国の法律に詳しい弁護士がいれば、相続手続を間違うこともなくスムーズに進められて安心です。
また、できるだけ「税理士」が所属あるいは連携している法律事務所を選びましょう。海外資産がある場合、どこの国に相続税を納めるべきか、税額がいくらになるのかなどもきっちり計算しなければならないからです。弁護士は税務をあまり取り扱わないのが通常なので、相続税については別途税理士に依頼する必要があるでしょう。
ベリーベストグループにはアメリカ法や中国法などの各国法律に詳しい弁護士が在籍しており、多種多様な海外案件に対応可能です。また税理士も所属しているので、相続税に関する税務対策もワンストップで行うことが可能です。
これまでにも多くの国際相続案件を解決してきた実績もございます。海外資産が残されて対応に迷ってらっしゃるなら、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
被相続人が外国人の場合、日本法の下では、その相続には原則として被相続人の本国法が適用されることとなっておりますが、当所には中国法やカリフォルニア州法、ハワイ州法等の資格がある弁護士が在籍しておりますので、被相続人の本国法がそれらの法である場合にも御対応できます。
ただし、案件によりましては日本法やその他の国の法資格の弁護士による対応が必要となる場合もございますので、詳しくはお問い合わせください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
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本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
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たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
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相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。