遺産相続コラム
遺産を相続したとき、財産総額が一定以上になっていると相続人は「相続税」を申告・納付しなければなりません。税額が大きくなると手元に残る遺産が減ってしまいますが、相続税は控除などを利用して節税できる可能性があります。
今回は、相続税の基本的な計算方法と控除の制度を、税理士法人ベリーベストの税理士が解説します。
相続税を計算するとき、まずは「遺産総額」と「正味の遺産額」を明らかにする必要があります。
相続税を計算するときには、まず預貯金、現金、車、不動産(土地建物)、株式、動産類(絵画や時計、宝石、骨董品など)などの遺産をすべて洗い出して評価し、合計します。これを「遺産総額」といいます。
「相続時精算課税制度」を使っていた場合、贈与財産を相続財産に加算する必要があります。このときの評価額は「贈与時の時価」とします。
遺産の中に土地(宅地)がある場合、一定の要件を満たすと「小規模宅地の特例」を使って評価額を減額できる場合があります。遺産の評価額が減るとその分相続税額も減額されるので、適用できるケースでは忘れずに適用しましょう。
なお、遺産総額に「祭祀財産(お墓や仏壇など)」は含めません。これらは非課税財産だからです。生命保険金や死亡保険金は遺産の範囲に入りますが、これらが相続される場合には「500万円×法定相続人数」までの金額が非課税となります。生命保険金等の非課税枠についても、あらかじめ遺産総額から差し引いておきましょう。
次に、遺産総額から負債と葬儀費用を引いて「正味の遺産額」を計算します。借金や未払い家賃などの負債、葬儀費用の金額を控除すると正味の遺産額を算出できます。
預貯金3,000万円、不動産5,000万円、生命保険金1,500万円(法定相続人2名)、負債500万円、葬儀費用200万円の事例。
遺産総額=3,000万円+5,000万円+500万円(生命保険金1,500万円-1,000万円)=8,500万円
正味の遺産額=8,500万円-500万円-200万円=7,800万円
次に「正味の遺産額」から「基礎控除額」を控除します。基礎控除とは、相続税に認められる基本の控除制度で、どのような事案にも適用されます。
基礎控除の金額は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」です。
たとえば法定相続人が妻と2人の子どもの場合、基礎控除額は3,000万円+3人×600万円=4,800万円となります。
法定相続人になるのは、配偶者と血族です。範囲と相続順位は下記のとおりです。
法定相続人が被相続人より先に死亡している場合、次順位に移らないケースがあります。たとえば孫、甥姪、祖父母がいる場合などが該当します。子どもが親より先に死亡していたら孫が相続人となり、孫も先に死亡していたらひ孫が相続人となります。兄弟姉妹が先に死亡していたらその子どもである甥姪が相続人となります。また子どもがいない場合で、父母が両方とも先に死亡しているときは、祖父母が相続人となります。
法定相続人が相続放棄すると、法律上「その人は最初から相続人ではなかった」ことになって一切の遺産相続をしません。しかし税制上は「相続人」として扱われ、相続税の基礎控除の人数に含めて計算します。たとえば配偶者と2人の子ども(長男、次男)がいて次男が相続放棄した場合でも、基礎控除額は3,000万円+3人×600万円=4,800万円となります。
養子も子どもなので基礎控除の計算対象となりますが「算入制限」があります。
被相続人に実子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は1人が限度です。
被相続人に実子がいない場合、法定相続人の数に含める養子の数は2人が限度となります。
相続税の基礎控除額を増やすためにたくさんの養子をとっても、必ずしも節税にならないので注意してください。
このようにして基礎控除を計算し、正味の遺産額から基礎控除を引きます。その数字が「課税遺産総額」です。課税遺産総額が0円以下であれば相続税は課税されません。
正味の遺産額が7,800万円。
相続人は配偶者と3人の子ども。うち養子が2人、3男が相続放棄。
この場合、養子が2人いますが実子が1人いるので養子により法定相続人の数に含めることができる人数は1人です。
相続放棄した3男は法定相続人の数に計算するので法定相続人の人数は3人分です。
そこで基礎控除は3,000万円+3人×600万円=4,800万円
正味の遺産額が7,800万円なので、ここから基礎控除を引いて7,800万円-4,800万円=3,000万円が課税遺産総額となり、その金額に対して相続税がかかります。
課税対象遺産額を算出できたら、ここに相続税の税率をあてはめて相続税額を計算します。
このとき、まずは「各自の法定相続分に応じて相続税の税率を乗じて税額を算出」し、「計算された税額を合計」する必要があります。
■相続税の税率表
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
■計算例
たとえば以下のようにして相続税額を計算します。
課税遺産総額が3,000万円、配偶者と2人の子どもが相続するケース。
配偶者の法定相続分は2分の1(1,500万円)、子どもたちの法定相続分はそれぞれ4分の1ずつ(750万円ずつ)
配偶者の相続税…1,500万円×15%-50万円=175万円
子どもたちの相続税…750万円×10%=75万円
相続税の総額=175万円+75万円×2人=325万円
全体にかかる相続税額を計算できたら、実際の相続分に応じて各自に相続税を割り当てます。
たとえば上記の例で、配偶者が2,250万円相続(4分の3)、子どもたちが375万円ずつ(8分の1ずつ)相続することに決まったとしましょう。
配偶者にかかる相続税は325万円×4分の3=243万7,500円
子どもたちそれぞれにかかる相続税額は、325万円×8分の1=406,250円となります。
さらに相続税の「控除」を適用する必要があります。控除については次の項目で詳しく説明しますが、配偶者の税額軽減(配偶者控除)や未成年控除などの制度があります。
上記の例でいうと、配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用できるので、配偶者には相続税がかからなくなります。
子どもたち2人がそれぞれ406,250円ずつの相続税を支払えば、相続税の納付が完了します。
相続税にはいろいろな控除制度が設けられているので、税額を計算するときには忘れずに適用しましょう。以下で相続税の控除制度をご紹介します。
配偶者が相続人になる場合には「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」が適用されます。配偶者の法定相続分または1億6千万円までのいずれか高い方の金額までが非課税となります。
■具体例
配偶者と子どもが相続人となり、配偶者が3,000万円分の遺産を相続。配偶者の相続額は1億6千万円を下回っているので配偶者は相続税を払わなくて良くなり、子どもが相続税を払うだけで済みます。
被相続人に未成年の子どもがいる場合、その子どもが20歳になるまでの年数×10万円を相続税額から控除できます。年度途中の場合、端数は1年として計算します。未成年者の控除枠が大きく、本人の相続分からは控除を引ききれない場合には「扶養義務者」の相続分から残りの控除枠を控除することができます。扶養義務者に該当するのは配偶者、親や子ども、兄弟姉妹などの親族です。
■具体例
10歳の子どもがいる方が死亡したケースでは、10年分×10万円=100万円が相続税から控除されます。
子どもにかかる相続税額が100万円までであれば相続税の納付は不要であり、100万円を超えていたら超過分だけ支払えば足ります。
被相続人の死亡前3年間に贈与が行われた場合、その贈与財産は相続税の課税対象となります。ただし、すでに納付された贈与税の金額は相続税から控除されます。
■具体例
死亡の2年前に贈与が行われて50万円の贈与税がかかったケース。
相続税が300万円発生したとすると、そこから既に納付済みの50万円の贈与税額が差し引かれ、相続税額は250万円となります。
相続人の中に障害者がいる場合、障害者控除が適用されます。障害者が85歳になるまでの年数×10万円が相続税から控除されます。相続人が「特別障害者」の場合、85歳になるまでの年数×20万円が相続税から控除されます。
障害者の控除枠が大きく、障害者本人の相続分からは控除を引ききれない場合には「扶養義務者」の相続分から残りの控除枠を控除することができます。
■具体例
障害者である50歳の子どもが相続した場合。
35年×10万円=350万円までの相続税が控除されます。本人にかかる相続税額が350万円までなら相続税はかかりません。また本人にかかる相続税額が350万円未満の場合、親や子どもなど扶養義務者の相続税から差し引くことが可能です。
相次相続とは、10年以内に2回以上の相続があったケースをいいます。引き続いて何度も相続が起こると相続税の金額が高額になり相続人に負担がかかるので、相次相続には一定額の控除が認められています。
なお、上記各種の控除が適用されることにより相続税がかからなくなっても、相続税の申告は必要です。申告方法がわからない場合には税理士に相談されることをおすすめいたします。
相続税は申告することにより税額が確定するものであるため、控除等の適用は自ら行う必要があります。気づかずに高額な申告・納税をしても、税務署から指摘してもらえません。また相続税の納付期限である「相続開始から10か月」までに遺産分割協議が成立しない場合は、適用を受けられない控除もあります。
税理士であれば、相続税の計算についてもお手伝いが可能です。また、弁護士が関与すると遺産分割協議もスムーズに進めやすくなります。
ベリーベストグループには、弁護士だけではなく税理士も所属しておりますので、税金に関するお悩みもワンストップでサポートが可能です。
相続についてお悩みの方は、ベリーベストグループまでご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
被相続人(亡くなった方)に配偶者がいる場合、不動産などは、とりあえず配偶者名義にする遺言書を作成したり、または遺産分割協議を行ったりするということは少なくありません。
しかし、被相続人の配偶者が高齢である場合を考えてみましょう。万が一その配偶者が亡くなると、次の相続人がすぐに二次相続をすることになります。二次相続とは、一次相続で相続人になった人が亡くなったときに発生する相続のことです。
法定相続人が子どもの場合、子どもには配偶者特別控除のような大きな控除が認められません。そのため、たとえば相続税上の不動産評価額が高い場合、多額の相続税が発生することがあります。
このような事態を防ぐためにも、あらかじめ二次相続の対策を行っておくことが大切です。
本コラムでは、二次相続対策をするべき理由や二次相続で損をしないための対策方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
生前贈与による相続対策を行う場合、贈与税や相続税の課税を検討することが必要です。
贈与税と相続税の課税を考える際、生前贈与への課税方式を「暦年課税」と「相続時精算課税」のいずれかから選択することになります。まとまった金額の贈与を行う場合などには、相続時精算課税制度を利用する方が有利になりやすいので、税理士に相談してシミュレーションをしてみましょう。
この記事では、相続時精算課税制度のメリット、注意点および必要な手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺産を相続したとき、財産総額が一定以上になっていると相続人は「相続税」を申告・納付しなければなりません。税額が大きくなると手元に残る遺産が減ってしまいますが、相続税は控除などを利用して節税できる可能性があります。
今回は、相続税の基本的な計算方法と控除の制度を、税理士法人ベリーベストの税理士が解説します。