遺産相続コラム
相続人以外に財産を相続させたいと考えているけれど、具体的にどうすればいいのかお悩みの方も少なくありません。そういった場合に用いられる方法として、「特定遺贈」と「包括遺贈」があります。
本コラムでは、遺贈の意味や、特定遺贈と包括遺贈の違い、それぞれのメリット・デメリットなど、遺贈を悩んでいる方のために、弁護士が解説いたします。
遺贈とは、亡くなった方が、遺言によって、自分の財産を誰かに無償で譲渡する処分行為をいいます。
遺贈は、相続人に対してすることもできますし、相続人以外の人にすることもできます。自然人に限らず、法人に遺贈することもできます。
このように、遺贈を受ける人を「受遺者」といいます。
相続人に特定の財産を遺したい場合は、「相続させる」という文言で遺言を作成することもできますし、遺贈という手段をとることもできます。
他方、相続人以外の人に対して遺産を死後に譲渡したい場合は、相続ではなく、遺贈でしかその意思をかなえることはできませんので、遺贈を選択しましょう。なお、相続人以外の者が遺贈を受けた場合、税務上は贈与税ではなく相続税の対象となります。
遺贈には、大きく分けて特定遺贈と包括遺贈の2種類があります。そのほかにも、条件付遺贈、期限付遺贈、補充遺贈、後継ぎ遺贈、負担付遺贈などがあります。
今回は、特定遺贈と包括遺贈について、説明します。
包括遺贈と特定遺贈とは、法律上の扱いに大きな違いがありますので、しっかりと区別して、ご自身の状態に適した形を選択することが重要です。この点は、下記で改めてご説明します。
●遺贈はいつ効力が発生する?
遺贈は遺言によって行うものです。遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じます(民法985条1項)。遺贈もその効力が生じ、遺贈の目的物に関する権利義務が遺言者から受遺者に承継されます。したがって、あくまで遺言者が死亡して、遺言がその効力を発揮したときから権利が生じるのです。遺言者が生存している間は、権利関係に変動はなく、遺贈の効果は発生していません。
●受贈者が先に亡くなった場合
「相続」であれば、遺言者よりも先に相続人が亡くなった場合、相続人の子など直系尊属への代襲相続が発生します。たとえば、父が長女に財産の半分を相続させる遺言を残していたけれども、長女が父よりも先に亡くなってしまった場合、長女に子供がいればその子供が長女に代わって父の遺産を譲り受けることになります。
これに対して、遺贈に関しては代襲相続のような規定はありません。したがって、受遺者が遺言者よりも先に死亡した場合は、受遺者に子どもがいても、その子が親に代わって受遺者となることはできません。あくまで受遺者本人限りの権利なのです。
特定遺贈とは、遺言者が相続財産のうち特定の財産を具体的に特定して、指定した人に遺贈することを指します。たとえば、「遺言者は、遺言者の有する次の土地を、遺言者の甥A男に遺贈する。」「甲株式会社の株式100株をB男に遺贈する」といった記載になります。
ポイントは、遺産のうち、どの財産が遺贈対象物なのか、具体的に特定できる必要があるということです。したがって、銀行預金であれば、金融機関名、支店名、預金の区別(普通・定期・当座など)口座番号などをしっかり明記しましょう。
不動産の場合は、不動産登記上の記載の通りに記載しましょう。登記上の所在地の記載は、普段使っている住所表記とは異なることが多いものです。また、建物の場合は家屋番号など、触れたことのない表記も必要です。必ず、登記を取り寄せて確認しながら記載することをお勧めします。
特定遺贈は、その特定された財産が遺贈されるだけです。以下で説明しますが、包括遺贈のように遺言者の債務(借金など)が承継されるといった、予想外のことは生じません。単純に、遺言で特定された財産をそのまま受け取る権利が発生するということです。
特定遺贈は、遺言者が受遺者にこの財産を譲渡したいという気持ちで行われるものです。しかし、受け取る側としては、その財産はいらないという場合もあります。特に、不動産の場合は今後の管理責任も生じますし、固定資産税等の負担もあります。このように、受け取った方が不利益になる可能性もありますから、民法は、受遺者が特定遺贈を放棄する権利を認めています。
特定遺贈の場合は、相続の発生後、いつでも遺贈を放棄することができます。手続きも簡易で、家庭裁判所に届け出るなどの必要もありません。なお、受遺財産が可分な場合は、受遺財産のうち、一部を放棄して、残りを受け取るということも可能です。
受遺者が遺贈を放棄した場合、その財産は遺産の一部として、相続人間の遺産分割の対象となります。ということは、相続人としては、受遺者がその受遺分を受け取るのか放棄するのかによって、自分たちの受け取れる遺産の範囲が異なってくるわけです。
ところが、受遺者の放棄の意思表示に期間制限はなく、いつでも自由に放棄することができるので、相続人としては遺産の範囲がどこまでなのか、いつまでも宙ぶらりんの不安定な状態が続くことになります。こうした不安定な状態を脱するため、一定の利害関係人は受遺者に対して、遺贈を承認するか放棄をするか決めてくれ、という催告ができます。
この催告を行うと、受遺者が相当の期間内に承認または放棄の意思を表示しなければ、遺贈を承認したものとみなされます。その結果、受遺者はそれ以降に遺贈を放棄することはできなくなり、遺産の範囲がはっきりします。
包括遺贈とは、特定の財産ではなく、相続財産の全部又は一定の割合分を特定の人に遺贈することを言います。たとえば、「遺言者は、遺言者の有する財産の全部を、遺言者の内縁の妻A子(生年月日)に包括して遺贈する。」「遺言者は、遺言者の有する相続財産の3分の1をC太郎に遺贈する」といった記載になります。
包括遺贈と特定遺贈の決定的な違いは、特定遺贈における受遺者が単なる譲渡を受けた人に過ぎなかったのに対し、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を与えられるという点です。
相続人と同じ権利義務なので、他の相続人と同様に、遺産分割協議に参加して具体的な遺産の分け方を協議することになります。また、遺産のなかに借金などの債務がある場合、この債務も、指定された割合で遺贈されたことになりなす。この点については、相続人と全く同じ立場です。
特定遺贈と同様に、遺言者からあげるといわれたからと言って、受遺者はこれを必ず受け取らなければならないわけではありません。つまり、包括遺贈についても、受遺者には遺贈を放棄する権利が認められています。ただし、特定遺贈と異なって、包括受贈者は、相続の開始(遺言者が亡くなったということ)を知った時から起算して、3ヶ月以内に家庭裁判所に遺贈を放棄する旨を申述しなければなりません。一般の相続人が行う相続放棄と同じ義務を負わされるということです。
●受遺者が先に死亡した場合
このように、包括受遺者は、相続人と近い立場に立つわけですが、すべてにおいて相続人と同じというわけではありません。特に、包括受贈者が遺言者よりも先に亡くなった場合、相続人であれば、その子供などが相続する代襲相続という制度が適用になります。
しかし、包括遺贈については、特定遺贈の場合と同様に、受遺者が先に亡くなってしまった場合、その子に権利が移ることはありません。
●他の相続人が放棄しても相続分が増えない
相続人のうち、誰かが相続放棄をすると、その分、他の相続人の分配額が増えます。たとえば、兄弟3人が相続人で、もともと3分の1ずつ権利を有していたところ、一人が相続放棄すると残りの二人が2分の1ずつ遺産を分けることになります。しかし、受遺者の場合は、他の相続人が放棄しても、それによって相続分が増えることはありません。
あくまで、遺言書に記載された遺贈割合だけが保証されているということです。
なお、特定遺贈であっても、包括遺贈であっても、相続人以外の受遺者は、登記の単独申請を行うことができません。遺贈による所有権移転登記は、遺言執行者がいる場合は、受贈者と遺言執行者、遺言執行者がいない場合は受贈者と法定相続人全員との共同申請となります。
遺贈は、相続人ではなく、本来の相続権を持たない人にも財産を残すことができる便利な制度です。しかし、メリットだけでなくデメリットもありますので、ここで整理しておきましょう。
●特定遺贈のメリット
●特定遺贈のデメリット
●包括遺贈のメリット
●包括遺贈のデメリット
上記のとおり、遺言者より先に受遺者が亡くなった場合は、その受遺者への遺贈は何の効果も無くなってしまいます。仮に、遺言者の本当の意思としては、自分が死んだら世話になったA子に遺産を残したい、仮にA子が先に死んでしまった場合は、その子供のB男に残したいと思っていた場合でも、A子が先に死亡した場合、その分がB男に受け継がれることはないのです。
このような場合は、「遺言者よりも先に受遺者A子が亡くなった場合は、受遺者の子B男へ遺贈する。」という内容を予備的に記載しておくことで、遺言者の意思を実現することができます。
上記のように、特定遺贈と包括遺贈とでは、メリットもデメリットも大きく異なります。場合によっては、どちらかでなければ受遺者が大いに困るケースもあるでしょう。
特定遺贈なのか包括遺贈なのか、残された人がはっきりと確認できるように、遺言の内容、文言を意識して記載する必要があります。
一部の法定相続人は、被相続人から一定の遺産を受け取ることを期待できる地位にあります。にもかかわらず、遺贈によって、遺産が第三者にわたってしまうと想定外の状態になるわけです。とはいえ、遺言者の意思は尊重すべきですから、このバランスをとるために法が定めた制度が「遺留分」です。つまり、兄弟姉妹以外の法定相続人には、たとえ遺贈で財産が他者に流れていっても、最低限保証された相続割合(遺留分)があるのです。
遺留分を持つ相続人は、遺贈により遺留分を侵害された場合には、侵害された部分について、受遺者に対してそれを返してくれと請求することができます。
これが「遺留分侵害額請求」(旧遺留分減殺請求)です。
遺言者としては、相続人との間でもめることがないようにと思って、遺言を作ることが多いものです。しかし、遺留分を侵害する内容の遺言を作ってしまうと、かえって、受遺者と相続人との間の紛争のタネをまくことになってしまいます。
遺留分については、十分な注意を払って、遺贈の額や割合を決めていく必要があります。
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遺贈の対象の財産に不動産がある場合、受遺者だけでは登記申請ができません。遺言執行者がいなければ、受遺者と他の相続人全員が共同で手続きしなければならないのです。また、不動産以外の財産も、実際には相続人がすべてを握っていて、受遺者に渡そうとしない場合もあるでしょう。そうした場合に備えて、遺言の中で、遺贈を実現してくれる遺言執行者を選定しておくことをおすすめしています。
遺贈は、遺言者から受遺者への思いの表れであり、よかれと思ってなされる行為です。しかし、遺贈はおもいのほか複雑な制度です。遺言の内容や書き方によっては、遺言者の意思が実現できなかったり、場合によっては、かえって受遺者に大きな負担を与えることにもなりかねません。
そのようなことがないように、遺贈をお考えの場合は、ぜひ事前に弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、親身になって、おひとりおひとりのご事情に沿って詳しくお話をうかがっております。ご事情によってさまざまな解決方法があり得ますので、納得いくまでご相談のうえ、大切な遺言を作成していただければと思います。いつでも、お気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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