遺産相続コラム
すでに自分は相続税を納付したのに、税務署から「連帯納付義務制者」として相続税を納付していない他の相続人の分まで相続税を支払えと督促処分を受けてしまった……。理不尽な話ですが、相続税の「連帯納付義務制度」により、このようなことは起こり得るのです。
なぜ、連帯納付義務制者は他の相続税納税義務者の分まで支払わなければならないのでしょうか? そもそも連帯納付義務制度とはどのようなものなのでしょうか?
本コラムでは、このような疑問について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
相続税とは、相続によって得た財産に相続税を支払う力(担税力)を見いだして、その相続した分に応じて課される国税のひとつです。
相続税についてよくある誤解のひとつとして、「相続税額は相続人がそれぞれ実際に相続した分に応じて計算・決定されている」ということが挙げられます。相続税額について、国は相続人それぞれの相続財産額に基づいて決定しているわけではありません。被相続人(亡くなった人)の遺産総額に基づいて,相続人が法定相続分の割合で相続したものと仮定して相続税総額を決定しているのです。また、個々の相続人は自分が支払うべき税金を納付すれば相続税納税の義務を果たしたといえるわけではありません。他の相続人も同様に納付し、遺産総額に基づいた相続税総額がすべて納付されないかぎり、納税義務と国からの徴収は続くのです。
たとえば、ある方が亡くなり子Aと子Bが相続人になり、遺産をそれぞれ2分の1ずつ相続したとします。遺産に対して課税される相続税総額は1000万円であるとします。この場合、子Aと子Bは相続割合に基づき500万円ずつ相続税を申告・納付することになります。
子Aは期限までに500万円の相続税を納付しましたが、子Bは相続財産を使い切ってしまったため相続税を納付することができません。その場合、子Aに対して「子Bが納付すべき相続税500万円を支払え」という通知書や督促状が届くこともあり得るのです。
自分は相続税をしっかりと納付していたとしても、ほかの相続人が納付していなければ連帯して相続税を完納しなければならない、これが相続税の連帯納付義務です。
相続税法第34条1項によりますと、相続税の連帯納付義務は「同一の被相続人から相続又は遺贈・・・により財産を取得した全ての者」が負うものと規定しています。つまり、法定相続人や受遺者(遺言によって遺産を受け取った人)に関係なく、被相続人から遺産を受け取った人は互いにすべて相続税の連帯納付義務を負うことになります。上記の例でいうと、子Aと子Bのほかに被相続人が遺言で財産を遺贈した人(受遺者)がいる場合、子Aおよび子Bとの関係や面識の有無によらず、子A,子B及び受遺者の三者には互いに相続税の連帯納付義務が生じるのです。
では、相続税の連帯納付義務を負う人は、本来の納税義務者の未納分について無制限に負担しなくてはならないのでしょうか。
この点について、相続税法第34条1項では「当該相続または遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度」とすると定めています。つまり、取得した遺産から納付済みの相続税を控除した額を超えて、相続税額の連帯納付義務を負うことはないのです。
たとえば、被相続人から1000万円を相続した子Aの相続税額が100万円、同じ被相続人から2億円を相続した子Bの相続税額が3000万円だったとします。子Bは納税前にすべて使い切ってしまい相続税をまったく支払えない状態のため、子Aが連帯納付義務を負うことになりました。この場合、子Aが負担しなければならない子Bの相続税額は、子Aが相続した1000万円から納付済みの相続税100万円を差し引いた900万円になります。子Aは、子Bが支払えない相続税額3000万円すべてを支払う義務はないのです。
自分はしっかりと相続税を納付したはずなのに、相続税の連帯納付義務に基づいて相続税納付の督促が来る理由は、以下のようなケースが考えられます。
相続税の申告・納税期限は、被相続人が亡くなり相続が開始した日の翌日から起算して10ヶ月以内と決められています。この期限を超えると、税務署は本来の納税義務者に対して督促状を送付します。
それから1ヶ月を経過しても本来の納税義務者が相続税を完納しないと、税務署は連帯納付義務者に対して「完納されていない旨等のお知らせ」を郵送します。これは、本来の納税義務者である他の相続人が相続税を支払っていないことを連帯納付義務者に周知させることが目的です。
通常、税務署は可能なかぎり本来の納税義務者からの相続税徴収を試みます。それでも本来の納税義務者から課税額を徴収が難しいと認められる場合は、最終手段として連帯納付義務者に納付すべき相続税の金額、納付先などを記載した「納付通知書」を郵送することで、連帯納付義務者からの徴収に移ります。
納付通知書を受け取ったときから2ヶ月を経過しても連帯納付義務者が完納しない場合、税務署は連帯納付義務者に対して相続税納付を請求する督促状を郵送します。
相続税の連帯納付義務は、相続税の申告・納税期限から5年を経過すると連帯納付義務を負わなくてよくなる可能性があります。ただし、5年を経過する前に連帯納付の通知が発せられている場合や督促を受けている場合は解除されず、連帯納付義務者は引き続き完納するまで相続税を支払う義務を負います。
また、本来の納税義務者が税務署から延納や納税猶予を認められている場合は、連帯納付義務者が相続税を支払う必要はありません。
税務署から通知に従って連帯納付義務者として相続税を支払うときに、注意していただきたいことがあります。それは、連帯納付義務が発生した時点ですでに本来の相続税申告・納付期限を過ぎてしまっているため、納付しなければならない相続税額に利子税(現行は年1.6%)が加算されるということです。
利子税は、相続税の納付期限の翌日から起算し、以下のいずれか早い日までの期間に対して課税されます。
また、連帯納付義務者の相続税支払いには延納が認められないことにもご注意ください。
相続放棄は,民法第938条に定められているとおり,家庭裁判所においてその旨の申述を行う必要があります。
相続放棄の申述をした方は、最初から相続人ではなかったとされるので、相続税の連帯納付義務を負うことはありません。
他方、遺産分割協議(相続人の間で誰が・どの遺産を・どの割合で被相続人の財産を相続するか話し合いで決めること)で「自分は何も相続しない」と表明した遺産分割協議書を作成するだけでは,相続放棄ではないので、相続税の連帯納付義務を免れることはできません。
連帯納付義務者として督促を受けたあとも相続税の支払いを行わないと、税務署は国税徴収法第47条以下の手続に基づき財産の差し押さえによって相続税の徴収手続きを行います。
ここで問題となるのが、本来の納税義務者と連帯納付義務者のどちらから優先して財産の差し押さえを受けるべきものなのか、法律上明確化されていないことです。連帯納付制度の趣旨を鑑み、税務署は本来の納税義務者の財産から差し押さえを試みるようです。しかし、本来の納税義務者の財産が換価性の低い不動産あるいは保険料未納の生命保険などである場合は、税務署の判断次第で連帯納付義務者の財産の差し押さえを優先することもあるようです。
連帯納付義務制度には批判も多く、連帯納付義務者として相続税の支払い通知・督促を受けてしまった人による不服申し立ては数多く起きています。しかし、ほとんどの不服申し立てが「相続税完納は連帯納付義務者として法律上当然の義務」として認められないことが多いというのが現状なのです。連帯納付義務から逃れる方法は原則としてない、と捉えておくほうが賢明でしょう。
したがって、お金にルーズである、相続税の納税に十分な現預金を持っていない、事業などで資金繰りに窮していると考えられる人が他の共同相続人にいる場合は、連帯納付義務者として相続税納税の肩代わりを防ぐために遺産分割の段階で対策を考慮しておく必要があります。
たとえば、そのような相続人が不動産など換価性の低い資産よりも相続税納税用の現預金を多めに相続するように取り計らい、そのうえで共同相続人から納税用のお金を預かり代わりに納税することが一案でしょう。難しい場合は、他の相続人が期限までに納付したか継続的に確認するしかありません。また、他の相続人の相続税納付に関する事情によっては、弁護士のような専門家を紹介してあげることもおすすめです。
なお、税務署から連帯納付義務者としての納付通知書が来る前に、本来の納税義務者の相続税を立て替えることも考えられますが、あまりおすすめできません。なぜなら、もし立て替えてあげた分を本来の納税義務者に請求しても返済を受けることができなかった場合、立て替えた分が贈与とみなされ贈与税が課税されてしまう可能性があるからです。
相続すると同時に課される連帯納付義務に対し、納税のほかに連帯納付義務者としてできることは限られています。したがって、相続が開始したときから対策しておくことがポイントといえます。
連帯納付義務者としての責任を負わないようにするためには、少しでもその可能性を感じた時点で弁護士のような専門家に相談しておくことがおすすめです。
相続税の連帯納付義務者としての問題にかぎらず、相続全般について豊富な知識と経験をもつ弁護士であれば、あなたが抱える問題の解決に向けてさまざまな対応を期待できます。
ベリーベスト法律事務所では、相続全般に関するご相談を受け付けております。ぜひお気軽にお問い合わせください。あなたのために、ベストを尽くします。
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