遺産相続コラム
相続税には法定申告期限もあることから、慌てて手続きをしてしまう方もいるでしょう。しかし、後になって「もしかして、相続税を払いすぎたかも」と思った場合、払いすぎた相続税を取り戻す方法はあるのでしょうか。
払いすぎた相続税については、「相続税還付申請」を行うことで戻ってくる場合があります。今回は、相続税の払いすぎが起こりやすいケース、相続税還付請求の方法や注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
相続税には定められた計算方法があります。それにもかかわらず、なぜ「払いすぎ」という事態が起こってしまうのでしょうか? 多く払ってしまう理由やパターンをみてみましょう。
ひとつには、土地の評価方法の問題があります。土地評価額は、基本的に「路線価格×面積」によって計算しますが、土地の形状や環境などの個別要素による修正も行われます。
例えば不整形地や広すぎる土地、いびつな土地などは、利用用途が限られるために基本の計算結果より価格が下がります。土地の評価が適切にできていないと、高く評価しすぎて相続税が高額になり、払いすぎが発生します。
相続税は、自己申告の税金です。つまり誰も正解を教えてくれませんし、申告後も税務署は払いすぎであることを指摘してはくれません。自己申告で払いすぎたら自己責任になるということです。そのため、払いすぎたことに気づかないままになっている方がいるのです。
税理士と言えば税金の専門家なので、全員が相続税申告業務をしていると思われているかもしれません。しかし、中には相続税申告についての専門知識や経験の少ない税理士もいます。
相続税に不慣れな税理士に計算と申告書作成を依頼すると、減額要素に気づかなかったり控除の制度を適用してくれないなど、相続税の払いすぎが起こる場合があります。
相続税を申告したとき、計算間違いで過少申告となっていたら税務署から連絡が来て、修正申告を促されるケースがあります。
しかし、それとは反対に払いすぎていたとしても税務署は「払いすぎです」という連絡はしてきてはくれません。払ったら払ったままになってしまいます。
払いすぎた相続税の還付を受けたいときには、自分で払いすぎであることに気づき、自発的に還付申請をするしかないのです。
相続税の払いすぎが起こりやすいのは、以下のようなパターンです。
土地面積が500平方メートル以上(三大都市圏の場合。それ以外の地域では1000平方メートル以上)になっていると、通常の土地より評価減額されるケースがあります。
以前は「広大地評価」として補正されていましたが、税制改正により「地積規模の大きな宅地の評価」となり、評価方法が変わっています。どちらにしても、土地が広い場合には減額対象となることに変わりはありません。
墓地や工場に隣接している場合、高架下で騒音がひどい場合など、周辺環境が悪いケースでは土地評価が下がる可能性があります。
線路沿いの土地は騒音や振動もあって利用価値が下がるので、10%評価減額できる可能性があります。
道路に接していない土地や、道路に出るために細い道を利用せざるを得ない場合、最大40%減額評価される可能性があります。
傾斜地は利用しにくいので、相続税の評価額が減額される可能性があります。
高圧線が上空に通っていて家屋の建築に制限がかかる場合、建造物の建築制限がかかる部分について相続税評価が30~50%程度減額される可能性があります。
土地の形が三角形やL字型、台形などいびつな不整形地の場合、利用しにくいので評価減額されます。
土地内に鳥居や祠(ほこら)、社などの礼拝対象物がある場合、礼拝対象物の敷地となっている部分は非課税となります。
車庫などの施設を駐車場の利用者の費用で造ることを認めているような契約の場合、土地の価額が減額される可能性があります。
アパートについては貸家であることにより土地の評価額が減額されます。スーパーについては敷地が広い場合に(1)に該当する可能性が、敷地を貸し付けている場合はあるため、公共施設については敷地が非課税になる可能性があるため、土地の評価額が減額されることもあります。
山林や田畑は評価方法が複雑です。評価額が下がる可能性があるので、相続に詳しい税理士に相談してみましょう。
相続税還付請求をしたいとき、以下のような流れで手続きを進めていくことができます。
相続税の還付を求めるときには、税務署へ「更正請求」という手続きを行います。更正請求とは、「以前に申告した内容を正しく改めてほしい」という請求です。
更正請求書を提出すると税務署で相続税額見直しのための審査が行われ、更正が相当であると認められたら相続税の還付が行われます。
相続税還付の際には前回の申告内容を全体的に見直して土地鑑定評価などをやり直す必要があり、専門的な知識が必要です。一般の方がひとりで対応することは現実的ではありませんので、相続税の計算や申告を得意とする税理士に依頼しましょう。
相続税の更正請求を成功させるためには、必ず「相続税申告に詳しく知識・経験豊富な税理士」に依頼しましょう。税理士にもいろいろな専門分野があり、すべての税理士が相続税税制に詳しいわけではありません。個人や法人の確定申告や決算は行っていても相続税関連業務をほとんど取り扱っていない税理士は大勢います。
また、相続税還付を成功させるには土地の財産評価がポイントになります。更正請求を実行する前に土地の現地調査などを行い、不動産鑑定士に依頼して不動産評価をやり直すこともあるので、不動産鑑定士と連携して現地調査なども実施してくれるような税理士を探しましょう。更正請求が成功するかどうかは税理士選びで決まると言っても過言ではありません。
更正請求を行うと、だいたい3~6か月で審査決定が行われ、更正が相当であると認められれば、指定した口座へと還付金が振り込まれます。
相続税還付の申請(更正請求)には、「相続税の申告期限から5年」という期限があります。相続税の申告期限は相続開始を知ってから10か月であるため、多くのケースでは相続開始後5年10か月が経過した時点で相続税還付請求が受け付けられなくなります。
相続税を払いすぎた可能性があるなら、早めに税理士に相談しましょう。
相続税還付の請求をするとき、遺産分割協議をやり直す必要はあるのでしょうか?
ここでは、相続税還付と遺産分割協議の関係や、更正請求が認められなかった場合の対応方法などについて説明します。
相続税還付請求(更正請求)をするとき、<他の相続人の同意は不要です。個々の相続人が自分一人で行うことができるので、他の相続人に知らせる必要もありません。
払いすぎたと思ったら、自分一人でも相続税の申告内容がわかる申告書などの資料を持って、早めに税理士に相談に行きましょう。
相続税還付請求をするとき、遺産分割協議書を作り直す必要はありません。更正決定するときには、遺産分割の方法とは無関係に土地などの相続財産評価方法を変更するだけだからです。遺産分割協議書の内容を変更する必要もありません。
相続税還付を受ける場合、払いすぎた相続税を返してもらうだけであり、申告者に利益はないので課税対象になりません。
ただし、相続税還付請求が認められると「還付加算金」という利息のようなお金がついてきます。これについては、払いすぎた相続税を取り戻したというわけではなく一種の「利益」となるので、課税対象になります。
相続税還付請求(更正請求)をしても、必ず認められるとは限りません。却下されると税務署長から、更正すべき理由がない旨の通知が届きます。
不服があれば通知を受けとってから3か月以内に、「国税不服審判所」に対し審査請求をすることが可能です。または3ヶ月以内に、税務署長に「再調査」を求めることもできます。このような審査や再調査によって相続税還付が認められる可能性もあります。
再調査請求も却下された場合には、その決定書を受けとってから1か月以内に、国税不服審判所に対して審査請求できます。
これらすべての審査請求などが認められなかった場合でも、最終的には弁護士に依頼して、税務訴訟で争うことができます。税務訴訟は裁判所で行われ、裁判官が審理して判決を下します。
相続税は、数百万円や数千万円の単位となる場合も多く、払いすぎたままそれに気づかず放置した場合、莫大(ばくだい)な損失が発生してしまうことにもなります。相続税還付を受けられる可能性があるなら、一刻も早く税理士に相談して対応を開始しましょう。
ベリーベストグループには弁護士だけでなく税理士も在籍し、相続税対策に積極的に取り組んでおります。遺産分割のみならず相続税関連のトラブルに対しても適切に対応し、お客さまのお悩みを多方面からサポートいたします。過去の相続税申告内容、申告額に疑問をお持ちの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
相続税には法定申告期限もあることから、慌てて手続きをしてしまう方もいるでしょう。しかし、後になって「もしかして、相続税を払いすぎたかも」と思った場合、払いすぎた相続税を取り戻す方法はあるのでしょうか。 払いすぎた相続税については、「相続税還付申請」を行うことで戻ってくる場合があります。今回は、相続税の払いすぎが起こりやすいケース、相続税還付請求の方法や注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
将来両親が亡くなったときなど、相続税が発生するのか不安になるものです。しっかり準備を行ってゆとりをもって相続手続きを行うためには、いくらから相続税がかかるのか把握しておきましょう。
この記事では相続税がいくらから発生するのか、いくらくらいになるのかシミュレーション表をもとに説明しつつ、相続税の申告手続きの基本的な流れや注意点などを弁護士が解説していきます。
被相続人が亡くなってから半年ほど後に税務署から相続税の申告に関する書類が届き、どうすればいいのかとお困りの方は多くいます。
期限内に適正な申告をしないと、延滞税などのペナルティがあるので、相続税の申告は早めに準備をしなければなりません。
そこで、相続税の申告が必要なケースや相続税申告の期限、方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説いたします。