遺産相続コラム
親が亡くなったあとに、知らされていなかった「隠し子」の存在が明らかになることがあります。こうしたケースで「隠し子にも相続権があるのか」と戸惑うご家族も少なくありません。
結論から言うと、被相続人(亡くなった方)から認知されている場合、隠し子であっても相続人です。ただし、血縁上は親子であっても相続人とならない例外も存在し、個別の状況によって対応が異なります。
今回は、隠し子がいた場合の相続について、例外となるケースや、具体的な相続手続きの流れを、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
「隠し子」は、法律上は「非嫡出子(婚外子)」と呼ばれる関係の子を指すことが多いです。非嫡出子(婚外子)も一定の条件を満たせば相続人であり、相続権があります。相続権がある隠し子は必ず遺産相続の手続きに参加させる必要があります。以下では、隠し子がいた場合の相続の基本についてみていきましょう。
被相続人が男性で、その男性に「隠し子」がいた場合、その子どもが父親に認知されていれば相続権があります。
ここでの「認知」とは、法律上、父親がその子どもを自分の子どもとして正式に認める手続きのことです。認知された子どもは、法律上「父の子」として扱われ、戸籍にもその旨が記載されます。
以前は、非嫡出子(婚外子)と嫡出子(婚姻関係にある男女の間に生まれた子ども)とでは、相続分に差がありましたが、現在の民法では両者の相続分は平等とされています。そのため、非嫡出子であっても、他の子ども(嫡出子)と同じ割合で遺産を受け取ることが可能です。
「認知」とは、法律上の父子関係を成立させる手続きをいいます。結婚していない男女の間に生まれた子どもは、母子関係は出産により成立しますが、父と子どもに法律上の親子関係を発生させるためには、「認知」の手続きが必要です。
父親が子どもを認知することで、法律上の父子関係が発生し、子どもには父親側の遺産に対して相続権が認められることになります。
具体的には以下の3つの方法によって認知が成立した場合、子どもは相続人に該当します。
父親に隠し子がいることが判明した場合、遺産相続に関しては、以下の点に注意が必要です。
父親と血縁関係のある隠し子であっても、以下のようなケースでは相続権が発生せず、遺産を相続することができません。
婚外子である隠し子が、父親から認知を受けていない場合、法的な親子関係が成立していません。この場合、民法上の「子ども」とは扱われず、法定相続人ではありませんので、相続権は認められません。
たとえば、DNA鑑定で父子関係が科学的に証明されたとしても、それだけでは法的な親子関係とならず、相続権を主張することはできません。このケースでは、生前に認知されているか、遺言認知または父親の死を知ってから3年以内に裁判所を通じて認知請求を行い、認められる必要があります。
隠し子が父親から認知しようとした場合でも、隠し子側がその認知を拒否した場合には相続権は発生しません。
先述の通り、認知の対象となる子どもが成人であれば子ども本人の承諾、子どもが未だ胎児あれば母親の承諾を得る必要があります。「今更認知してほしくない」「顔も知らない血縁者と関わりたくない」など、何らかの事情で子ども側が認知を拒否した場合には、父親と血縁関係があったとしても相続権を得ることはできません。
特別養子縁組は、子どもの福祉を重視して、実親との親子関係を完全に終了させる制度です。隠し子が別の家庭に入り、特別養子縁組によって新たな親子関係を築いた場合は、実親との法的なつながりが断たれます。
この制度が適用された場合、元の父母からの相続権は完全に失われますので、隠し子は実父の遺産を相続することができません。
なお、似た制度として「普通養子縁組」があります。普通養子縁組の場合は実親との親子関係も残りますので、相続権は失われません。
隠し子が認知されていて法律上の親子関係が成立していたとしても、隠し子が相続欠格事由に該当する場合には、相続権を失うことになります。
相続欠格とは、被相続人や他の相続人に対して著しく反社会的な行為をした者が、相続権を失う制度です。相続欠格事由に該当するものとしては、以下のような行為が挙げられます。
このような行為があったと認められれば、たとえ認知された隠し子であっても、相続の資格は完全に剥奪されます。
隠し子が相続人となる場合には、戸籍で確認できるケースだけでなく、遺言認知や死後認知によって相続人となるケースもあります。それぞれで手続きの流れが異なるため、ケース別にあらためて確認していきましょう。
① 戸籍を確認する
被相続人が亡くなったら、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を取り寄せて、相続人を確定させます。
被相続人に隠し子がいて認知されている場合、戸籍にその旨の記載がありますので、隠し子がいるかどうかを確認することが可能です。
② 隠し子に連絡する
隠し子が相続人に該当すると確認できたときは、その人に連絡をとり、遺産分割協議への参加を求めます。
初めて隠し子の存在を知った状況だと、隠し子の連絡先がわからないかもしれませんが、そのようなときは、戸籍の附票を取得するようにしましょう。戸籍の附票には、住所の履歴が記載されていますので、それにより隠し子の現在の住所地を把握することができます。
③ 遺産分割協議を始める
隠し子も含めたすべての相続人が参加して、遺産をどのように分けるかを話し合う協議(遺産分割協議)を行います。
必ずしもすべての相続人がその場に同席する必要はありませんので、書面やメール、LINEのやり取りなどで話し合いを進めることも可能です。
④ 遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議の結果、合意が成立したときは、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、すべての相続人の署名と実印による押印が必要になります。遺産分割協議書は、その後の不動産の名義変更や預貯金の引き出しに必要となる書類ですので、正確な記載が求められます。
① 遺言書を確認する
生前に隠し子が認知されず戸籍に載っていなかった場合、遺言書によって隠し子の存在が判明することがあります。遺言書に遺言認知の記載がある場合には、遺言執行者が必要です。遺言で遺言執行者が指定されていない場合には、遺言執行者選任申立をしましょう。その後に、遺言執行者から隠し子本人に連絡を入れることになります。
② 隠し子側の承諾を得て認知届を提出する
子どもが成人している場合は本人の承諾を得て、市区町村役場に「認知届」を提出します。なお、胎児の場合は母親の承諾が必要です。
③ 遺産分割協議を行う
承諾が得られた場合、隠し子を相続人になりますので、その後、隠し子も含めて遺産分割協議を行いし、隠し子にも遺産分割協議書への署名・押印をしてもらう必要があります。
① 死後認知の訴えを提起する
被相続人の死亡後、隠し子側が家庭裁判所に「死後認知の訴え」を起こすことができます。請求期限は隠し子が「父の死亡の日から3年以内」です。
② 認知が確定した場合の対応
死後認知が認められた場合、隠し子は相続人となります。
被相続人に隠し子がいたことが判明した場合、感情的な対立や法的なトラブルに発展する可能性があります。このような状況では、専門家の関与が解決への近道ですので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
遺産相続の手続きを進めるにあたって、隠し子がいるかどうかは重要なポイントになります。
しかし、戸籍の記載は非常に複雑ですので、戸籍を取り寄せたとしても相続権を有する隠し子がいるかどうか正確に判断することは難しいといえます。相続人に漏れがあると遺産分割協議が無効になってしまいますので、被相続人に隠し子がいる疑いがあるときは、特に弁護士の関与が必要です。
弁護士であれば、戸籍などの書類から隠し子の有無・相続権の有無を正確に判断できますので、今後の遺産分割の方針が明確になるでしょう。
隠し子の存在が判明すると、すでに相続人として認識されていた家族との間に強い感情的な拒否反応や対立が生じるケースがあります。
隠し子であっても認知されていれば相続権が認められますが、家族からすれば「なぜ今まで黙っていたのか」「本当に親子なのか」「遺産を分けたくない」などの不満を抱く場合もあり、当事者同士では解決が難しいといえるでしょう。
しかし、弁護士であれば、中立的かつ法律的な立場から交渉を代行し、落ち着いて協議を進めることが可能です。また、調停・審判など裁判所での手続きが必要になった場合も、弁護士が代理人として正式に手続きに参加できます。
遺産分割を有効に成立させるためには、法的知識や経験が不可欠です。遺産相続に関する知識や経験が乏しい方だと、手続きに不備が生じるなどして以下のようなトラブルが生じる可能性があります。
これらのトラブルを防ぐためにも、相続開始前・開始直後に法的なリスクを整理しておくことが重要です。弁護士に依頼すれば、将来トラブルにならないよう適切に手続きを進めてくれますので、安心して任せることができるでしょう。
隠し子がいた場合でも、被相続人から認知されていれば法定相続人となり、他の子どもと同じく遺産を受け取る権利があります。
しかし、認知されていない場合や、特別養子縁組が成立している場合など、相続権が発生しないケースもあります。
思わぬトラブルに発展しやすいこのような状況では、法的知識をもとに冷静な対応を取ることが重要です。相続人の範囲や手続きに不安がある場合は、早めに弁護士へ相談し、適切な助言を受けることをおすすめします。
遺産相続に関してお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
親が亡くなったあとに、知らされていなかった「隠し子」の存在が明らかになることがあります。こうしたケースで「隠し子にも相続権があるのか」と戸惑うご家族も少なくありません。
結論から言うと、被相続人(亡くなった方)から認知されている場合、隠し子であっても相続人です。ただし、血縁上は親子であっても相続人とならない例外も存在し、個別の状況によって対応が異なります。
今回は、隠し子がいた場合の相続について、例外となるケースや、具体的な相続手続きの流れを、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
法定相続人が相続の承認、または相続放棄の意思表示をすることなく熟慮期間中に亡くなった場合、再転相続が発生します。
再転相続は、遺産分割が完了する前に次の相続が発生する数次相続とは異なり、まず当初の相続についての承認または相続放棄を検討しなければなりません。また、再転相続の状況によっては、熟慮期間中であっても相続放棄が認められないケースもありますので、注意が必要です。
今回は、再転相続とは何か、再転相続が発生する具体的なケースや熟慮期間の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
交通事故や自然災害などにより家族を同時に複数名失ってしまった場合、亡くなった方(被相続人)の遺産はどのように相続すればよいのでしょうか。
交通事故などで誰が先に亡くなったのかがわからない場合には、「同時死亡の推定」が働き、同時に死亡したものと推定されます。同時死亡と推定されるか否かによって、遺産相続や相続税に大きな違いが生じますので、しっかりと理解しておくことが大切です。
今回は、同時死亡の推定の考え方や具体的なケースについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。