遺産相続コラム
もし親族が亡くなったときに、通常は遺言書があれば、通常はその内容に沿って相続人同士で遺産の分割について話し合いますが、遺言書がない場合はどのような手順で遺産分割を行えば良いでしょうか。
本コラムでは、相続争いに発展しやすい「遺言がないケース」、トラブルを回避するためにはどうしたらよいのか、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
ご親族が亡くなったとき、気持ちの整理にはある程度時間がかかるでしょう。しかし、避けてとおれないのが遺産、相続の問題です。
できるだけ早く、生前に書かれた遺言書がないか、探してください。作成された遺言の形式によって保管場所や探し方は異なります。
故人が自分自身の手書きで作成した遺言の一定の要件を満たすものを、自筆証書遺言といいます。第三者の手を借りることなく、ひとりで作成できるものです。したがって、誰かに託した場合は別として、基本的には、故人のご自宅の引き出しや仏壇、貸金庫などに保管されている可能性が高いでしょう。
●公正証書遺言
2人以上の証人立会いのもとに公証人によって作成され、公証人が保管する遺言を公正証書遺言といいます。こちらは、作成された遺言自体が、公証役場に保管されます。
ご本人には謄本が交付されていますので、これが自宅から発見される場合もありますが、見つからない場合は、最寄りの公証役場で検索してもらうことができます。検索自体は、相続人であれば無料で行うことができます。作成された役場でなくても、どこでもオンラインで検索可能です。
検索で発見された場合は、有料で交付してもらうことも可能です。
●秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が自分で作った遺言書を公証役場で公証してもらう遺言です。公正証書遺言と異なって、公証人や証人に内容を知られることなく、まさに秘密で作成します。こちらも、公正証書遺言と同様に、公証役場に遺言書の存在記録を残すことができますので、後から公証役場で検索可能です。
●遺言は有効でなければなりません
なお、遺言は、いずれの形式をとっていても、有効となる要件が厳格に定められています。
たとえば、自筆証書遺言であれば、財産目録以外の全文を自署しなければなりませんし、どの遺言も作成された日付が具体的に特定されていなければ無効です。したがって、遺言が発見されたとしても、それが有効なものなのかは、きちんと確認する必要があります。
遺言がない場合、または遺言があってもそれが無効である場合には、相続人間で遺産分割協議を行うことになります。
法定相続人の範囲は、民法で、配偶者と一定の範囲の血族と決まっています。ここでいう一定の範囲の血族とは、子ども、親、兄弟姉妹をいいます。
なお、相続人本人よりも子どもが先に死亡していれば、子の子(本人から見れば孫です)が相続人となります。これを代襲相続といいます。
同様に、子どもも親もいない場合で、さらに兄弟姉妹が本人より先に死亡していれば、兄弟姉妹の子(本人から見ればおい・めいです)が相続人となります。
なお、ここでいう配偶者とは、法律上の婚姻関係にある配偶者に限られます。内縁関係や事実婚の妻は、配偶者として相続する権利はありません。
法定相続人を確定するには被相続人の戸籍を出生から亡くなるまで、すべてをたどる必要があります。戸籍によって知らなかった家族関係が明らかになることもよくあります。
具体的には、まず、亡くなった方の最終の戸籍をとり、そこからさかのぼって、ひとつひとつ戸籍を逆に取得していく作業です。
戸籍は当時の本籍地の所在する市町村でしか発行できませんので、その市町村に申請して取得していくことになります。これを出生まで進めて、亡くなった方のすべての戸籍をまずそろえます。これによって、亡くなった方の相続人となり得る方、お子さんや兄弟姉妹を含めて全部の関係が明らかになります。
次に、その相続人になり得る方の戸籍をすべて取ります。というのは、相続人になるはずの方が、すでに亡くなっているケースもあるからです。こうした作業は思った以上に手間と時間がかかります。しかし、ひとつでも抜けがあると手続が進められません。根気よく、漏れがないように進めましょう。
次に、亡くなった方の相続財産の内容を確定させる必要があります。具体的には、銀行預貯金、不動産、株などの有価証券、車両などの動産、現金などがあります。こうしたプラスの財産とは別にマイナスの財産も調査しなければなりません。マイナスの財産としては住宅ローンや消費者ローンなどの借入れ、未払家賃、また誰かの保証人になっている場合も借金として考えなければなりません。
プラスの財産だけでなく、ローンや借金などマイナスの財産も漏れなく調査することが重要です。
相続は、一部だけを相続し一部を相続しない、ということは認められていません。したがって、遺産調査の結果、プラスよりもマイナスが多かった場合、つまり債務超過となった場合は、結局借金を背負うことになってしまいます。
このような場合は、相続放棄によってすべての遺産を放棄する手続をするほうがよいでしょう。また、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を承継するという限定承認という手続もあります。もっとも、限定承認は、相続人全員で手続する必要があり、その後の手続も煩雑であること、税制上有利にならない場合もあることから、実際はほとんど用いられていません。
遺言がない場合、相続人全員で遺産分割の話合いを行い、誰がどの遺産を取得するか決めることができます。ポイントは、相続人全員が必ず関与しなければならないという点です。ひとりでも関与しないままに行った遺産分割協議は無効となってしまいますので、ご注意ください。
遺産の分け方は、全員が納得すればよく、必ずしも法定相続割合どおりにしなければならないわけではありません。もっとも、法定相続割合にしたがって協議を進められることが一般的で、もめごとが少なくなります。
遺言がない場合で、相続人同士の遺産分割協議もうまくいかない場合は、家庭裁判所の調停や審判を利用することができます。家庭裁判所の調停では、調停委員が間に入り、全員の意見を聞きながら、話合いが進められます。
調停でも意見がまとまらない場合は、遺産分割審判で裁判所が結論を出すことになります。
なお、遺言がある場合でも、特定の誰かに全てを譲る、といった内容である場合は、遺留分が問題となります。遺留分とは、民法で定められている一定の相続人が最低限相続できる財産のことをいいます。言い換えれば、遺言によっても奪えない権利ですので、遺留分を主張する相続人との関係で調整を行う必要があります。
相続人同士で遺産分割の話合いがまとまったら、それを必ず書面に残しましょう。これを遺産分割協議書といいます。
遺産分割協議書は協議の結果を残して、後からもめごとが再燃しないようにするという効果もあります。
したがって、話合いがまとまったら、必ず協議書を作成することが必須です。
遺産分割協議書には、遺産をすべて羅列した遺産目録を添付し、その遺産一つひとつについて、誰がどれだけ取得するか、今後新たに遺産が発見されたらどうするか、といった点を具体的に記載します。
遺言があれば、その中に、遺産を誰がどう取得するか決められています。相続人からすれば、多少自分の思いと異なる点もあるかもしれません。
しかし、遺産はもともと亡くなったご本人のものですから、それをどう分けようが本人の気持ちで決められるはずです。したがって、遺言があれば相続人はそれに沿って手続をするだけであり、その後の紛争は防ぐことが可能です。
また、遺言には遺産がすべて記載されていることが多く、相続人が遺産を探して手間や時間をとられるということもありません。
しかし、遺言がない場合は、相続人は、遺産がどこになにがあるのか探し出すことから始めなければなりません。さらに、それをどう分けるか、全員で話し合わなければならないわけです。
普段から親しくしていても、相続の場面ではどうしてももめやすいものです。ましてや、普段から不仲の場合は、話合いに入ること自体が大変な負担になります。
遺言がない場合のトラブル例を挙げておきます。
こうしたトラブルが起きる場合は、当事者だけで話し合いをまとめることは極めて困難です。
しかし、弁護士などの専門家に相談、依頼することで一気に話が進むことはよくあります。たとえば、遺産の評価の仕方や分け方で、当事者の満足を得られる可能性もあるのです。
遺産分割はこのように、親族関係を悪化させる可能性がある微妙な問題です。あらかじめ遺言書を遺(のこ)しておくことで、かなりの部分を解決できますが、現実に遺言がなければ、その前提でベストな選択をするしかありません。
できるだけ早く相続に詳しい弁護士などの専門家に相談し、できるだけ迅速に問題を解決できるように進めることが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、遺言がない場合の遺産分割についても、多くのご相談をいただいており、それぞれのご事情に応じた解決をご提案しています。ぜひ一度ご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
配偶者である妻には、亡き夫の遺産を相続する権利(=相続権)が民法で認められています。一方で、義両親にも死亡した夫の相続権が認められるケースがある点にご留意ください。
このようなケースは、妻と義両親の間で遺産分割に関する利害調整が求められることもあり、慎重な対応が必要です。
仮に「義両親に一切の遺産を渡したくない」と思っていても、義両親に相続権がある以上は、義両親の要求をすべて拒否することは難しいといえます。
本コラムでは、夫死亡後の遺産相続における義両親の相続権や相続分、姻族関係終了届が相続に影響するのか否かなどのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
両親が亡くなった後に、実家の土地や建物をどう相続するかは、多くの方にとって悩ましい問題です。
たとえば、思い入れのある実家を残したいと思っても、誰か住むのかで揉めてしまうケースや、相続後の管理に多大な労力を要するケースが少なくありません。
実家の土地や建物が相続財産にある場合は、各選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、家族にとってどのような形が望ましいかをよく検討しましょう。
本コラムでは、実家の土地や建物を相続する際の基礎知識や手続きの流れ、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
相続人が死亡するなど、一定の理由により相続権を失った場合は、その子どもが亡くなった相続人に代わって遺産を相続するケースがあります。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)と呼び、代襲相続により相続することになった方を代襲相続人といいます。また、代襲相続とは、民法で詳細に規定されている遺産相続の制度です。代襲相続は相続割合や法定相続分の計算が変わることもあり、相続争いに発展するケースもあるため、注意しましょう。
本コラムでは、具体的に代襲相続とはどういった制度なのか、代襲相続人となれる範囲や要件、相続割合などについて、代襲相続による注意点を含めて、べリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
代襲相続は複雑なために理解が難しい点もありますが、基本的なポイントをおさえることから理解を深めていきましょう。