遺産相続コラム
遺品整理中に見つけた父の自筆らしき遺言書、「早く開封して中を見たい!」と思ってしまうのが自然かもしれませんいうのが人の常です。しかし、実は勝手に開封してしまうことは、後に新たな紛争を招くおそれがあります。
自筆の遺言書を発見したら、相続人は家庭裁判所で検認手続を行わなければなりません。今回は、自筆遺言書を発見した場合にとるべき手続きの流れや、もし開封してしまったら無効になるのかなど、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺言書は、亡くなった方が生前に自分の財産などを自分の死後にどうしたいかという重要な事柄について、ご自身の意思や希望を記した大切な書面です。法律上の様々な要件に従って作成された有効な遺言は、それが自筆であっても、公正証書遺言であっても同等に法的効力を有しており、その取扱いは法律の定めに則って適切に行われなければなりません。
公正証書遺言であれば、それ自体が適法な形式です。作成後に内容を書き換えるといった改ざんの不正はできません。また、仮に誰かが遺言を隠匿するなどして見当たらなくなっても、公証役場に原本が保管されていますので、紛失のおそれはありません。
ところが、自筆の遺言だと、それがいかに適法なものであっても、発見される前後に改ざんされたり、隠されたり、または紛失する可能性があります。そうなれば、遺言者の遺産に関する意思が実現できないことになりかねません。こうした改ざん・隠匿・紛失のリスクを防止するため、被相続人の死後に自筆の遺言が発見された場合は、封印されている遺言については家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会がなければ開封できないこと、封印があるかないかに関わらず、自筆証書遺言は、すべて検認の申し立てを行うものと民法で定められています。
民法第1004条には、遺言書の検認について次のように定められています。
つまり、この規定を破って、遺言を検認手続することなく開封してしまうと、たとえそれが相続人であってとしても、5万円以下の過料が課せられる可能性があります。さらには、開封だけでなく遺言書の内容を偽造したり、変造したり、破棄したり、隠匿した場合には、相続人となることができない総則人の欠格事由に該当するおそれがあります。自筆の遺言書を発見した場合は、たとえ内容を早く見たいという気持ちにかられても、我慢して、家庭裁判所の検認手続を進めなければならないのです。
検認手続が必要とされる理由は、遺言が改ざんされたり、紛失するなどして、もともとの遺言の内容や存在自体がわからなくなってしまうことを防ぐためです。いうなれば、遺言の検認手続は、遺言の発見時の状態をそのまま証拠として維持するための手続きなのです。
したがって、改ざんや紛失の恐れがない遺言については、検認手続は必要ありません。具体的には、公正証書遺言の方式にて作成された遺言においては、検認手続を経ることなく、その遺言の内容を実現するための手続きを行うことが可能です。
他方、普通方式の3つの遺言のうち、①自筆証書遺言や②秘密証書遺言については検認手続が必要とされています。
1. 管轄裁判所と申立人
検認手続は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることから始まります。申立ては、遺言書を預かっている方、または遺言書を発見した相続人が行います
2. 必要書類
申立てに必要な書類は、おおむね以下のようなものとされています。
④そのほか、印紙や郵券が指定されていますので、裁判所の指示どおりに提出します。
3. 申立から検認までの流れ
申請書類をそろえて管轄の家庭裁判所に申請を行うと、裁判所により検認期日(検認を実際に行う日)が決定されます。 申立てをした方以外の相続人には、申立後、裁判所から直接、検認期日が通知されますので、自分で個別に連絡をする必要はありません。なお、申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは、各人の判断に任されており、相続人全員がそろわなくても検認手続は適法に行われます。
4. 検認手続当日のこと
申立人は、遺言書、申立人の印鑑、そのほか、事前に裁判所の担当者から指示されたものがあればそれらを持参して裁判所に行きます。このときに遺言書を忘れると検認手続が実施できませんので、必ず持参しましょう。
検認の場では、申立人が遺言書を提出し、出席した相続人やその代理人などの立会のもと、封印がしてあれば封筒を開封し、遺言書を検認します。
適法に検認を経たことを証明する必要がありますので、検認が終わる際に、検認済証明書の申請をして、その日の手続きは終了します。
1. 検認手続と遺言の有効無効
上記のように検認には決まった手続きがありますが、これらの定めを知らずにうっかり遺言書を開封してしまったとしても、遺言書自体が無効になるわけではありません。
逆に、検認手続を受けたからといって、その内容が有効になるわけではありません。遺言の有効無効は、その方式や内容によって別途定められており、検認手続自体は、単に遺言を保存するための手続きにすぎないのです。
2. 開封してしまった相続人の地位
また、うっかり開封をした相続人についても、その相続資格がなくなってしまうこともありません。
ただし、相続人が、わざと遺言書の内容を書き換えたり、隠匿または破棄をするなどした場合は、相続人としての相続人となることができなくなります。遺言者の意思は最大限に尊重されなければならないという法の考え方からすれば当然といえます。遺言は慎重に扱うべきものなのです。
検認手続について知らなかったためにうっかり開封してしまった場合、その遺言はいったいどうすればよいのでしょうか。この場合も、速やかに家庭裁判所の検認手続を受けましょう。
そもそも、検認手続は封印がない遺言についても受けることと決まっていますし、開封された後でも、それが勝手に改ざんされたり紛失したりするリスクは同じです。したがって、開封してしまった後でも、証拠を保全するために検認手続をとりましょう。
このように、遺言書を発見した場合は必ず検認手続を経なければ、遺言内容に沿った遺産分割を進めることができません。しかし、検認には、申請書類を全てそろえて、家庭裁判所に申請を行い、また、指定された平日の日中に出頭しなければならないという手間がかかります。
また、検認手続は、いわば今後の相続手続きのスタートラインといえます。
そこで、検認手続から、弁護士に依頼する方が増えています。検認を弁護士に依頼することにはメリットが3つあります。
遺言者のすべての戸籍と、相続人全員の戸籍をすべて取得するだけでも、膨大な手間がかかることがあります。特に、相続人が遠方にいる場合や、相続人に死亡した相続人がいて代襲相続が発生している場合には、相続人が多数となり、複雑な相続関係を読み解いて戸籍を全員の本籍地から取得する必要があります。
こうした手続き自体、相当な手間がかかりますが、相続手続きに慣れた弁護士に依頼することで、手間を大幅に削減できます。また、相続税の申告のため、手続きを急ぎたい場合には、特に弁護士などの専門家の関与により迅速な手続きが可能となります 。
検認は相続手続きのスタートラインですから、実際には、検認から先の手続き、たとえば遺産分割や相続税の問題、そして、相続登記までのすべてを円滑に進めていくことが大切です。そのために、早い段階で相続の全体像を法的な観点から理解し、望ましい進め方を弁護士からアドバイスを受けることは有益です。
遺言を開封したところ、その内容をめぐって、相続人の間で思わぬもめごとが起きる可能性もあります。また、検認手続と遺言の有効無効とは無関係ですから、遺言の内容について争いたい場合や、そもそもこの遺言は無効であるといった異議がある場合には、その争点について別途、協議や裁判で決着をつけるしかないのですが、事前に専門家に相談しておくことで、今後の紛争に備えることができます。
このように、遺言書を発見することは様々な相続手続きへの始まりとなります。遺言を発見したら、無断で開封せず、検認手続の段階で弁護士に相談することで、事前のリスクを予想し、適切な対応をとることも可能となります。
遺言書を発見し、相続手続きをはじめるうえで不安を感じる方は、ベリーベスト法律事務所の弁護士に相談ください。お客様に寄り添い、円滑に相続手続きができるよう力を尽くします。
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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
自筆証書遺言は、偽造や変造のおそれがある点が大きなデメリットといえます。
万が一、誰かしらに遺言書が偽造された場合、その遺言書に基づいて遺産分割がなされてしまうと不公平なものになってしまうおそれがあるでしょう。
その際は、適切な手続きを踏んで遺言の無効を争うことになります。
本コラムでは、遺言書の偽造が疑われるときの対処法や刑事罰、損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
会社経営者にとって、後継者への事業承継が視野に入ってくると、気になるのは「後継者や家族にどうすれば円満に財産を引き継げるか」ということでしょう。
事業承継が絡む遺産相続は、家族だけの問題ではなく、会社の取引先や従業員にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、慎重に準備を進める必要があります。
特に会社経営者がトラブルのない遺産相続を実現するには、遺言書を作成しておくことが重要です。
本コラムでは、会社経営者が遺言書を作成すべき理由や、作成時のポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書は、亡くなった方(被相続人)の意思が書かれたものなので、有効な遺言書があればそのとおりに遺産を分けなくてはなりません。遺産は元々亡くなった方の所有物だったことから、その処分も亡くなった方の意志に従うのが理にかなっているとされているのです。
しかし、「遺言書の内容に納得いかない」「遺言書を無効にしたい」「遺言書の内容を無視して遺産を分配したい」という相続人もいるでしょう。
まず、遺言書が存在していても、法律上効力を認められない遺言であるために、効果が生じない(無効になる)場合があります。法的に意味がないということは、そもそも遺言がされなかったということと変わらず、遺言書を無視して遺産分割を行うことに問題はありません。
遺言書が有効であったとしても、相続人全員で合意をすれば、遺言とは異なる内容の遺産分割を行うことが可能です。
本コラムでは、有効・無効な遺言書の見分け方や、有効な遺言書があっても遺言書の内容と異なる内容の遺産分割をしたい場合の対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。