遺産相続コラム
近年、元気なうちに遺言を作っておこうという方が増えています。残された遺族が相続で揉めないように生前にきちんと決めておきたい場合もあれば、相続人のうち特にお世話になった人に多めに財産を譲りたい場合もあります。
それなのに、トラブルを防ぐために作った遺言が逆に相続人間のトラブルの種となってしまったり、せっかく作成した遺言が法的に無効であったりしては意味がありません。そんな中、注目されているのが公正証書遺言です。
本コラムでは、公正証書遺言の手続の流れやメリット、デメリットについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
遺言の作成件数は年々増えていますが、その背景には、いわゆる「終活」ブームに加えて、自分の死後に遺族が争うことのないようにと願う配慮があると思われます。
遺言は、まず普通方式遺言と特別方式遺言とに大きく分けられ、実際にはほとんどが普通方式で作成されています。そして、普通方式遺言は、さらに、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種に分類され、このうち、特に関心を集めているのが、公正証書遺言です。公正証書遺言の作成件数は年々増加しており、その数は、平成29年には11万件を超えました。
では、公正証書遺言は他の普通方式遺言とどのように異なり、どのようなメリットがあるのでしょうか。具体的にその違いを見てみましょう。
自筆証書遺言とは、遺言者本人が遺言書の相続財産の目録以外の全文・日付・氏名を自書し、これに押印して作成するものです。自筆能力さえあれば自分一人で作成できますし、費用もかからないことから、最も簡易な遺言方式といえます。ただし、専門家のサポートを受けずに作成した場合、内容が不十分である場合もあり、結果として、その有効性をめぐって残された相続人の間に紛争が生じることも珍しくありません。
また、せっかく作った遺言を発見してもらえないおそれや、誰かに隠匿・改ざんされる可能性もあります。なお、筆証書遺言は、相続開始後に、家庭裁判所で検認を受けることとされています。検認は、その後の遺言の隠匿・改ざんを防ぎ、遺言の存在とその内容を証拠として保全する意義がありますが、遺言の有効性を確認する手続ではありませんので、注意が必要です。
秘密証書遺言は、遺言者自身が作成し(自筆でなくともパソコン等による作成も可)、自ら署名押印のうえ、封筒に入れて封印をしたままの状態で公証人にその遺言を提示することで、遺言の存在自体を公証してもらうものです。
公正証書遺言と異なり、公証後の遺言の保管は遺言者にて行います。したがって、遺言が発見されないおそれは残りますし、何より、遺言の内容を公証人が確認しませんので、結果として内容が無効となるリスクも残ります。こうした問題から、実際にはほとんど使われていません。
公正証書遺言の主なメリットは以下の点にあります。
自筆証書遺言や秘密証書遺言と異なり、公正証書遺言は、公証人が作成してくれます。したがって、遺言者が寝たきりであったり手が不自由だったりという理由で自筆できない状況でも作成が可能です。
公正証書遺言の作成にあたっては、公証人が形式を整え、遺言内容を確認し、法的に効力を持たせる表現を吟味しますので、方式不備のおそれが少なく、遺言の効力をめぐる紛争も生じにくいといえます。
遺言の保管場所に困る方は意外に多いものです。誰かに発見されて隠されたり、改ざんされたりしては困りますし、かといって、自分の死後に誰にも発見されないままお蔵入りになっても困ります。こうした不安は、公正証書遺言であれば解消できます。公正証書遺言では、その原本が公証役場で長期間保管されます。遺言者には正本と謄本が交付されますので、内容を確認したくなれば手元にある正本または謄本を見ることができます。なお、正本や謄本でも遺言を実行する効力があります。また、正本や謄本が見当たらなくなった場合や、そもそも遺言があるのかどうかわからない場合でも、相続開始前は遺言者本人が、相続開始後であれば相続人が、公証人役場に申請すれば、全国どこの公証人役場からでも公正証書遺言を探してもらうことができます。なお、遺言者が亡くなり、相続が開始するまでは、たとえ配偶者でも公証役場で遺言を検索することはきません。
このように、他の遺言方式に比べてメリットの多い公正証書遺言ですが、デメリットもあります。
公正証書遺言の作成は、原則として遺言者本人が公証役場に予約をとり、実際に赴いて作成しなければなりません。また、その作成前に、様々な必要書類を取得して公証役場に提出し、遺言の内容をきちんと確定させるための手続が必要です。したがって、作成を決めてから実際に遺言が出来上がるまでに、手間と時間がかかります。
公正証書遺言の作成には、公証人に作成してもらうための一定の手数料がかかります。手数料は、遺産の額と遺産を相続させる人数によって細かく規定されており、遺産が多いほど手数料も増えていきます。
公正証書遺言は、作成時に証人2名の立会いが義務付けられています。なお、相続人など利害関係のある人は証人になれません。証人は、遺言を読み上げて内容を確認する作業にも立ち会いますので、遺言の中身を知られることとなり、完全に秘密にすることはできません。
公正証書遺言の作成には、次のような資料が必要です。
このほか、遺言の内容によって必要な書類が異なりますが、全て事前に取得する必要があります。
(2)-1 遺言内容の検討
まずは、遺言に関する遺言者の希望を検討します。なお、遺言内容に法的問題があるかどうかの判断は難しいですから、この時点で弁護士に相談されるほうが良いでしょう。
相談・依頼を受けた弁護士は、公証人と協議しながら、遺言者の希望に沿う遺言の案を作成していきます。また、同時に、公正証書遺言を実際に作成する日程も決めていきます。作成の日には、遺言者本人と証人2名が必要ですので、日程調整のうえで予約を行います。
(2)-2 作成当日の流れと遺言の保管
作成の日には、遺言者本人と証人2名が公証役場に出向きます(ただし、必ずしも公証役場で作成する必要はなく、遺言者の入院先や自宅に公証人の出張を求めて作成することもできます。)。事前に打合せをしていますから遺言の文言は既にほぼ確定しています。公証役場では、遺言書を読み上げて内容に間違いがないことをしっかり確認したうえで、遺言者本人と証人2名が署名押印します。証人は認め印で構いませんが、遺言者は実印が必要です。最後に、公証人が、その証書が所定の方式に従って作成したものであることを付記して、これに署名押印することで公正証書遺言が完成します。
完成した遺言の原本は、公証役場で保管され、正本と謄本が遺言者にその場で交付されます。なお、定款などで使われる電子公証のシステムは、いまのところ公正証書遺言は利用対象外です。ただし、東日本大震災をきっかけに、公証役場もろとも保管文書が滅失するおそれについての対応が協議されてきました。そして、平成25年7月1日から、東京公証人会、横浜公証人会、大阪公証人会及び名古屋市内の公証役場所属の各公証人において、平成26年4月1日からは、全国の公証役場、公証人において、公正証書の原本を電磁的記録化して、これをその原本とは別に保管する、いわゆる原本の二重保存が実施されることとなりました。公正証書遺言の安全性・保存性がさらに高まっていると言えます。
このようにメリットの多い公正証書遺言ですが、公証人は遺言者の代理人ではなく、あくまで正当な手続を進める点にのみ責任を負う立場にあります。せっかく費用をかけて大切な遺言を作るわけですから、遺言者の立場に立って最善策をともに考えることのできる専門家のサポートを求めた方が安心です。
上記のとおり、公正証書遺言は、自筆遺言と異なり様々な書類が必要で、手続も煩雑です。弁護士に依頼することで、こうした手続を全て弁護士に任せることができ、負担をかなり軽減できます。
相続人以外から2名の証人を確保することは意外に大変です。いくら知人でも、遺産や遺言の中身を知られるのは抵抗があるものです。
弁護士に依頼すると、弁護士自身も証人になれますし、弁護士事務所の他の職員が証人になるケースもあります。弁護士は職務上厳格な守秘義務を負っていますので、証人選びの手間が省けるだけでなく、遺言の秘密を守りたいというご意向にも沿うことができます。
遺言書を作成するとき、もともとの相続割合を変更する場合があります。その結果、相続人間のトラブルが生じる可能性があります。遺言がトラブルの源になるリスクをできるだけ避けるため、経験ある弁護士に相談しながら作成することが大切です。
せっかく遺言を作成しても、遺言のとおりに執行されなければ何の意味もありません。速やかかつ適切に遺言の内容を実現するために、遺言の中に遺言執行者を定め、さらに、遺言執行者を弁護士に指定しておくと、遺言の速やかな実現が期待できます。
ベリーベスト法律事務所では、遺言者ご本人の意思に寄り添いながら、法的に有効な遺言を作成するお手伝いをします。また、相続には税金の問題が切り離せませんが、ベリーベストグループでは、グループ内に税理士が所属しており、法的問題と税務問題を一挙にご相談いただけるワンストップサービスをご提供しております。
ご相談は1時間までは無料でご対応しております(※ご相談内容によっては一部有料)。遺言を作りたい、遺言について知りたいという方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
自筆証書遺言は、偽造や変造のおそれがある点が大きなデメリットといえます。
万が一、誰かしらに遺言書が偽造された場合、その遺言書に基づいて遺産分割がなされてしまうと不公平なものになってしまうおそれがあるでしょう。
その際は、適切な手続きを踏んで遺言の無効を争うことになります。
本コラムでは、遺言書の偽造が疑われるときの対処法や刑事罰、損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
会社経営者にとって、後継者への事業承継が視野に入ってくると、気になるのは「後継者や家族にどうすれば円満に財産を引き継げるか」ということでしょう。
事業承継が絡む遺産相続は、家族だけの問題ではなく、会社の取引先や従業員にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、慎重に準備を進める必要があります。
特に会社経営者がトラブルのない遺産相続を実現するには、遺言書を作成しておくことが重要です。
本コラムでは、会社経営者が遺言書を作成すべき理由や、作成時のポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
遺言書は、亡くなった方(被相続人)の意思が書かれたものなので、有効な遺言書があればそのとおりに遺産を分けなくてはなりません。遺産は元々亡くなった方の所有物だったことから、その処分も亡くなった方の意志に従うのが理にかなっているとされているのです。
しかし、「遺言書の内容に納得いかない」「遺言書を無効にしたい」「遺言書の内容を無視して遺産を分配したい」という相続人もいるでしょう。
まず、遺言書が存在していても、法律上効力を認められない遺言であるために、効果が生じない(無効になる)場合があります。法的に意味がないということは、そもそも遺言がされなかったということと変わらず、遺言書を無視して遺産分割を行うことに問題はありません。
遺言書が有効であったとしても、相続人全員で合意をすれば、遺言とは異なる内容の遺産分割を行うことが可能です。
本コラムでは、有効・無効な遺言書の見分け方や、有効な遺言書があっても遺言書の内容と異なる内容の遺産分割をしたい場合の対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。