遺産相続コラム
戸主(戸籍の代表者)が亡くなった際に、長男がすべての遺産や権利を受け継ぐ「家督相続」の制度は、現在の民法では廃止されています。
しかし、他の相続人が「自分は長男だから」とすべての相続財産を得るような発言をした際に、「家督相続の制度は廃止されている」と訴えても、決着がつかないケースもあるでしょう。
本コラムでは、家督相続を主張してくる相続人への対処法や、現在の遺産相続の基本的なルールなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
家督相続とは、戸主(戸籍の代表者)の死亡や隠居などをきっかけとして、長男などの家督相続人が被相続人(亡くなった方)のすべての財産や権限を引き継ぐ旧民法の相続制度です。なお、「家督相続人」は旧民法において被相続人の地位や家名などすべてを継承する者を意味し、財産のみを継承する者を指す現行民法の「相続人」とは継承する範囲が異なります。
「家制度」が色濃く存在していた戦前から終戦直後の社会では、家督相続が当たり前に行われていました。民法でも、家督相続制度を前提とする相続のルールが定められていたことがあります。
しかし、家督相続を定めた民法の規定は、日本国憲法の施行日である昭和22年(1947年)5月3日に施行された改正法によって廃止されました。現在では、民法の根拠に基づいて、家督相続を主張することはできません。
ただし、昭和22年(1947年)5月2日以前に発生した相続には、家督相続を定めた旧民法の規定が適用されます。
たとえば、戦前から長期間にわたって相続登記が行われていない土地を相続するといった場合は、登記手続きにあたって、家督相続のルールを参照して所有者の変遷を確認すべきケースがあるため、注意が必要です。
相続が発生し、ご自身が相続人となったとき、長男・長女などの他の相続人が、現行民法下では認められない家督相続を主張してきたら、以下の方法で対処しましょう。
まずは、遺言書の有無を確認する必要があります。遺言書が存在する場合には、原則としてその内容に従って遺産を分けなければならないためです。
遺言書は、亡くなった家族の遺品に紛れていることがあるほか、公証役場や法務局に保管されているケースもあります。遺言書を見逃した状態で遺産分割を行うと、後で遺産分割をやり直すことになってしまう可能性がありますので、可能性のある場所は漏れなく探しましょう。
遺言書が見つかった場合には、家督相続を主張する相続人に、遺言書の内容が最も優先されることを伝えましょう。
なお、遺言書がある場合でも、相続人全員の合意があれば、遺言書とは異なる内容で遺産分割を行うことが可能です。
遺言書がある場合の遺産分割は、原則として遺言書の内容に従うことになるため、遺言書に「長男にすべての遺産を相続させる」などと偏った内容が記載されている場合でも、原則としてその内容に従わなければなりません。
ただし、ご自身の相続する遺産等が遺留分(民法で一定の範囲の相続人に保障されている最低限の取り分)を下回る場合には、多くの遺産等を取得した人に対して遺留分侵害額請求を行い、金銭の支払いを求めることが可能です。
遺留分侵害額請求は被相続人の兄弟姉妹には請求権がなかったり、請求権がある人でも請求できる期限が定められていたりなど注意点もある手続きのため、検討される際はまずはすぐに弁護士にご相談ください。
前述のとおり、家督相続の規定は昭和22年(1947年)5月3日に施行された改正法によって廃止されており、現在は存在しません。
家督相続を主張する相続人に対しては、現行法では家督相続が認められていない旨を伝えたうえで、現行民法における相続のルールを説明しましょう。現在の遺産相続のルールについては、次章の「現在の相続制度における基本的なルール」で後述します。
家督相続を主張する相続人が遺産分割に同意しない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
遺産分割調停では、調停委員が各相続人の主張を公平に聞き取り、歩み寄りを促すなどして合意形成をサポートしてくれます。調停において合意が得られない際は、家庭裁判所の審判によって遺産分割の方法が決定されます。
遺産分割調停・審判を有利に進めるためには、遺産を適切に把握・評価したうえで、民法のルールに従った主張をすることが大切です。
遺産分割協議がまとまらないときには、弁護士のサポートを受けながら、調停・審判に向けた準備を整えましょう。
家督相続が廃止された一方で、現行民法では、相続順位・法定相続分・遺留分などのルールが定められています。
現行民法下において相続人となる人は、被相続人の配偶者と、以下の順位に従った最上位者です。
なお、相続放棄によって上位の相続人が全員いなくなった場合は、次順位の相続人に相続権が移ります。
法定相続分(相続割合)と遺留分は、相続人の構成に応じて以下のとおりです。遺留分とは、法定相続人が取得できる遺産の最低限の取り分です。兄弟姉妹とその代襲相続人(甥・姪)以外の相続人には、遺留分が認められています。
相続人の組み合わせ | 総体的遺留分 | 法定相続分 | 個別的遺留分 | |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1/2 | 1/1 | 1/2 | |
子どものみ | 1/1 | 1/2 | ||
配偶者と子ども | 配偶者 | 1/2 | 1/4 | |
子ども | 1/2 | 1/4 | ||
配偶者と直系尊属 | 配偶者 | 2/3 | 1/3 | |
直系尊属 | 1/3 | 1/6 | ||
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 | 3/4 | 1/2(※) | |
兄弟姉妹 | なし | 1/4 | なし(※) | |
直系尊属のみ | 1/3 | 1/1 | 1/3 |
※配偶者と兄弟姉妹が相続人になる場合は、兄弟姉妹に遺留分が認められないので、総体的遺留分1/2すべてを配偶者が取得します。
なお、上記の法定相続分にかかわらず、遺言書または遺産分割協議・調停・審判によって異なる相続割合が決められた場合は、その内容が優先されます。
遺留分額は、以下の式によって計算します。
基礎財産に含まれるもの |
---|
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遺留分割合 |
---|
|
相続人が取得できた基礎財産が遺留分額を下回っている場合は、基礎財産を多く取得した者に対して遺留分侵害額請求を行い、不足額に相当する金銭を支払ってもらうことが可能です。
特に、遺言書によって「長男にすべての遺産を相続させる」などと偏った遺産配分が指定された場合は、遺留分侵害額請求を検討しましょう。遺留分侵害額請求には時間制限がありますので、すぐに弁護士にご相談ください。
他の相続人に家督相続を主張されてトラブルになった場合は、弁護士へ相談しましょう。弁護士へ相談することには、主に以下のメリットがあります。
前述のとおり、現行民法では家督相続の制度が廃止されています。
弁護士に相談すれば、家督相続が廃止されたことを法的な観点から説明し、不合理な主張をする相続人に説得を図ることが可能です。
家督相続を指示するような偏った内容の遺言書が見つかった場合でも、諦める必要はありません。遺留分侵害額請求によって金銭の支払いを受ける余地があります。
弁護士に相談すれば、基礎財産の把握・評価や遺留分侵害額の計算など、請求に必要な対応についてアドバイスやサポートを受けることが可能です。
家督相続を主張する相続人が強硬な姿勢を崩さない場合、相続人の方が自力で協議・調停・審判などの対応をするのは大変です。
弁護士ならば、遺産分割に関する協議・調停・審判などの対応を代行することができるため、ご自身で対応する場合に比べて、労力やストレスが大幅に軽減されるほか、適切な解決を得られる可能性が高まります。
現行民法では、家督相続が認められていないものの、遺言書や家族信託(=信頼できる親族などに財産を管理してもらう仕組み)を活用すれば、ひとりだけに遺産を相続させることができます。
ただし、他の相続人が遺留分未満の財産しか得られない結果となる場合、相続発生後に遺留分侵害額請求が行われ、トラブルに発展するおそれがあることには注意が必要です。
また、遺言書を作成する際に、ひとりだけに遺産を相続させることの理由や、遺留分侵害額請求を行わないでほしい旨の付言事項を記載することも選択肢としては考えられます。ただし、このときも、相続人が遺言書の付言事項に従う義務はなく、実際には相続トラブルが発生することもあり得る点にはご注意ください。
いずれにしても、偏った遺産の分け方を指示する場合には、将来発生するトラブルが深刻化するのを防ぐためにも、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
家督相続とは、戸主が死亡した際に、長男がすべての財産や権利を単独で相続する旧制度です。昭和22年(1947年)5月3日に施行された改正法によって、現在は廃止されています。
しかし、法的根拠がないにもかかわらず、他の相続人に家督相続を主張されてトラブルになるケースが散見されます。また、「ひとりにすべての遺産を相続させる」などの遺言書が見つかり、家督相続に似た状況で争いになるケースもゼロではありません。
このような相続トラブルに悩んでいるときは、解決方法について弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、相続の手続きやトラブルに関するご相談を随時受け付けております。遺産相続専門チームの弁護士が問題解決のためにお力になりますので、お気軽にご相談ください。
※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
戸主(戸籍の代表者)が亡くなった際に、長男がすべての遺産や権利を受け継ぐ「家督相続」の制度は、現在の民法では廃止されています。
しかし、他の相続人が「自分は長男だから」とすべての相続財産を得るような発言をした際に、「家督相続の制度は廃止されている」と訴えても、決着がつかないケースもあるでしょう。
本コラムでは、家督相続を主張してくる相続人への対処法や、現在の遺産相続の基本的なルールなどについて、ベリーベスト法律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。
死後離縁とは、普通養子縁組をした当事者である養親または養子が死亡した後、養子縁組を解消する手続きです。
死後離縁をすると法律上の親子関係や親族関係が解消されますが、すでに起こった相続には影響はないため、死後離縁前に相続人であった養親・養子は、死後離縁後も相続権を維持します。思わぬ相続トラブルを防ぐためにも、死後離縁を検討する際はしっかりと制度を理解したうえで行うようにしましょう。
今回は、死後離縁の概要や手続き、メリット・デメリットなど、死後離縁に関する相続トラブルを防ぐ方法をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
ご家族が亡くなり、遺産相続が発生した場合、遺品などの整理とともに相続財産の調査をしなければなりません。
被相続人(亡くなった方)の預貯金や有価証券、不動産、貴金属、さらに借金の情報は、遺産分割を行うために必要です。また、相続税の申告の要否や税額を判断するための情報にもなります。
相続財産に不動産がある場合は、市区町村が作成する「名寄帳(なよせちょう)」をもとに確認するのが一般的です。権利証や毎年送付される固定資産税に関する課税明細書でも不動産の情報を知ることができますが、見落としが起きないよう、名寄帳を利用しましょう。
本コラムでは、名寄帳とはどういうものか、不動産の調査のために名寄帳の取得が推奨される理由や名寄帳を請求できる人と取得方法、相続財産の調査が不十分だった場合に起きる問題などについて、ベリーベスト法律律事務所 遺産相続専門チームの弁護士が解説します。