遺産相続コラム

死後離縁とは│手続きの流れと相続トラブルを防ぐ方法を弁護士が解説

2025年06月19日
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死後離縁とは│手続きの流れと相続トラブルを防ぐ方法を弁護士が解説

死後離縁とは、普通養子縁組をした当事者である養親または養子が死亡した後、養子縁組を解消する手続きです。

死後離縁をすると法律上の親子関係や親族関係が解消されますが、すでに起こった相続には影響はないため、死後離縁前に相続人であった養親・養子は、死後離縁後も相続権を維持します。思わぬ相続トラブルを防ぐためにも、死後離縁を検討する際はしっかりと制度を理解したうえで行うようにしましょう。

今回は、死後離縁の概要や手続き、メリット・デメリットなど、死後離縁に関する相続トラブルを防ぐ方法をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、死後離縁とは

死後離縁とは、養親または養子が死亡した後、養子縁組を解消する手続きのことをいいます。

養子縁組の当事者の一方が亡くなった後は、家庭裁判所の許可があれば離縁できると定められています(民法第811条6項)。
養子縁組を解消する離縁の手続きは当事者間の合意により行われるのが原則ですが、死後離縁の場合には当事者の一方がすでに死亡しているため、裁判所の許可を必要としているのです。
なお、死後離縁の申し立てができるのは、原則として養親または養子本人だけです。

2、死後離縁するとどうなる?

死後離縁をすると、どのような効果があるのでしょうか。

  1. (1)養親と養子との親族関係が消え、養子は養親の血族に対する扶養義務を失う

    死後離縁をすることで養親と養子との親族関係が無くなります。

    養子縁組をすることで、養親と養子との間には法律上の親子関係が生じ、それに伴い扶養義務が発生します。このような扶養義務は、養親と養子との間だけではなく、養親の血族との間にも生じますので、場合によっては養親の死後、養子が養親の実子(養子から見て義理の兄弟姉妹)や養親の兄弟姉妹等の親族の面倒をみなければなりません。

    しかし、死後離縁により養子と養親との親族関係が解消されますので、親族間の扶養義務も無くなることになります。

  2. (2)すでに発生した相続には影響はなく、解消後も相続権は維持できる

    死後離縁をしても、離縁前に発生した相続の相続権には影響はありません

    養親・養子の双方が生きている間に行う通常の離縁であれば、法律上の親子関係が解消されるのに伴って相続権も無くなります。離縁後にかつて養親または養子だった人が死亡したとしても、元養親・元養子にあたる人は遺産を相続することはできません。

    一方、死後離縁は、養親または養子が死亡してすでに相続が発生してから行う離縁ですから、この場合は相続権に影響は生じません。なぜなら、離縁の手続きは将来に向かって効力が生じ、過去にさかのぼって関係を解消するものではないからです。

    したがって、養親・養子の死亡時点で相続人であれば、死後離縁をしたとしても、遺産を相続することは可能です。

3、死後離縁のメリット・デメリット

死後離縁には、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下では、死後離縁のメリットとデメリットを説明します。

  1. (1)死後離縁のメリット

    死後離縁のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

    ① 親族間の不和・トラブルを清算できる
    死後離縁を検討する方の中には、養親の親族との折り合いが悪く、「養親の親族とこれ以上かかわりを持ちたくない」という理由から死後離縁を検討している方もいらっしゃるでしょう。養親の生存中には養親が間に立つことで養子と養親の親族との間でのトラブルを防げていたという場合であっても、養親の死亡により仲裁者がいなくなってしまっては、さまざまなトラブルが起こりかねません。
    死後離縁をすることで、養親の親族との関係も解消することができるため、親族間の不和やトラブルを清算できるというメリットがあります。

    ② 扶養義務が無くなる
    養親が亡くなったとしても養親の親や実子、兄弟姉妹等が生きている場合、経済的な支援や介護を求められると、養子には扶養義務がありますので、一定の条件を満たせばそれに応じなければなりません。
    そのような扶養義務を負担に感じるときは、死後離縁により扶養義務の負担から逃れることができます。
  2. (2)死後離縁のデメリット

    一方、死後離縁のデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

    ① 遺族年金が受け取れない
    死後離縁により、死亡した養親・養子との親族関係が終了した場合、遺族年金の受給権も無くなります。そのため、養子縁組中は遺族年金の受給権があった場合でも、死後離縁をすると遺族年金を受け取ることができなくなってしまいます。

    ② 名字が養子縁組前に戻る
    養子側から死後離縁をすると、原則として養子縁組中に使用していた養親の名字を使うことができず、養子縁組前の名字に戻さなければなりません。学校や職場などで養親の名字での生活が浸透していると、慣れ親しんだ名字が変わることにストレスを感じたり、免許証やマイナンバーカードの変更などの手続きが負担に感じたりするなどのデメリットがあります。
    ただし、養子縁組の期間が7年以上あり、離縁の日から3か月以内に市区町村役場に届け出をすれば、養子縁組中の名字を引き続き使用することができます。
    なお、養子の子の氏は当然に変更しないため、仮に親と同一の氏を称したいときは、家庭裁判所で「子の氏変更許可」の手続きをとる必要があります。

4、死後離縁ができないケースと注意点

以下では、死後離縁ができないケースや死後離縁をする際の注意点を説明します。

  1. (1)明らかに不当な理由で申し立てをすると認められない

    死後離縁は、申し立てをすれば必ず許可されるというわけではありません。
    たとえば、養子が養親の生前に養親から多額の贈与を受けている、または養親の死亡後に養子が遺産を相続してから死後離縁をするようなケースでは、死後離縁が認められない可能性があります。

    なぜなら、養親から多額の利益を受けているにもかかわらず死後離縁をしようとするのは、養親の親族に対する扶養義務や、墓・仏壇・神棚などの祭祀(さいし)承継を免れようとすることが主目的であり、不当な理由であると判断される可能性があるからです。

    ただし、相続や贈与を受けていると必ず不許可になるというわけではありません。死後離縁の判断は、それぞれの具体的な事情を踏まえて判断されます。そのため、扶養義務を免れる目的があったとしても、養親の親族との不仲やトラブルが原因であるなどの場合には、家庭裁判所の審問において具体的な事情を説明すれば、正当性が認められる可能性があります。

    死後離縁をお考えの方は、一度専門家である弁護士に相談してみるとよいでしょう。

  2. (2)「死後離縁をする=相続放棄をする」にはならないので注意

    死後離縁により養親と養子との親族関係を解消する効果が生じますが、すでに発生した相続には影響はありません。そのため、養親・養子の死亡時に相続人の地位があれば、死後離縁をした後も、遺産分割によって遺産を相続することになります。
    これは、養親・養子に多額の借金があった場合も同様です。借金などの負債の相続をしたくないという場合には、死後離縁とは別に相続放棄の手続きを行う必要があります。死後離縁をしただけでは相続放棄をしたことにはなりません

    相続放棄には、相続開始を知ったときから3か月という期限がありますので、期限内に手続きを行いましょう。

5、死後離縁の手続きの流れ

以下では、死後離縁の手続きの一般的な流れについて説明します。



  1. (1)裁判所に死後離縁許可の申立書を提出

    申立人の住所地を管轄する裁判所に死後離縁許可の申し立てを提出します。その際には、以下の書類も一緒に提出する必要があります。

    • 養親の戸籍謄本
    • 養子の戸籍謄本
    • 収入印紙800円分
    • 連絡用の郵便切手(裁判所により異なりますので、事前に確認をしましょう)
  2. (2)死後離縁の審理・審判

    死後離縁許可の申し立てをすると裁判所により審理が行われます。
    扶養義務や祭祀(さいし)承継を免れるためなど明らかに不当な理由に基づくものでなければ、死後離縁の申し立ては許可されることが多いです。

  3. (3)審判確定後、裁判所に確定証明書の交付を申請

    死後離縁を許可する審判が確定したら、裁判所に確定証明書の交付を申請します。

  4. (4)市区町村役場に養子離縁の届け出

    申立人の本籍地または住所地の市区町村役場に養子離縁届を提出すれば、死後離縁の手続きは完了です。死後離縁の届け出の際には、以下の書類を提出する必要があります。

    • 審判書謄本
    • 確定証明書

6、死後離縁は弁護士への相談がおすすめ

以下のような理由から死後離縁は、弁護士に相談するのがおすすめです。

  1. (1)死後離縁は撤回ができないため慎重な判断が必要

    死後離縁が一度許可されると撤回をすることはできません

    死後離縁後に後悔をしても、すでに亡くなってしまった人とは、再び養子縁組をすることはできません。そのため、死後離縁をすべきかどうかは慎重な判断が必要です。

    相続トラブルを回避したいという理由であれば、死後離縁ではなく相続放棄などの手続きもあります。希望に沿った手続きを選ぶためにも、まずは専門家である弁護士に相談するようにしましょう。

  2. (2)親族間の“争続”を避けるための予防策が打てる

    死後離縁をしたとしても、養親・養子の死亡時に発生した相続権は失われませんので、争続(争いに発展した相続)となる可能性があります。養子縁組が絡む相続の場合には、特に実子と養子間での相続トラブルは発生しがちです。

    弁護士に相談をすれば、親族間の争族を避けるために最適な対策をアドバイスしてもらえますので、争族発生のリスクを最小限に抑えることができます。また、実際にトラブルが生じている場合には、弁護士に依頼することで依頼者の代理人として対応してもらえますので、負担を大幅に軽くすることが可能です。

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7、まとめ

死後離縁は、一度手続きを行うとやり直しがきかない手続きです。手続きをすることによるメリットもありますが、デメリットもあるため、慎重な判断が必要です。
遺産相続はそれぞれのご家庭でご事情が異なるため、一概に「こうすべき」とは言えません。ご自身のケースで死後離縁をすべきか迷われたときや、死後離縁の手続きに不安があるときは、ぜひ一度べリーベストの弁護士にご相談ください。

遺産相続専門チームの弁護士が、お客さまお一人お一人のご事情に合わせて相続手続きをサポートいたします。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地
〒 106-0032 東京都港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立
2010年12月16日
連絡先
[代表電話] 03-6234-1585
[ご相談窓口] 0120-152-063

※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。

URL
https://www.vbest.jp

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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