遺産相続コラム
平成30年7月、約40年ぶりに相続に関する大きな法改正が行われました。
なぜ法改正が行われたのか、この法改正によって相続に関するどのような点がいつからどのように変更されるのか、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
今回約40年ぶりに相続に関して大きく法改正されたのは、従前の相続に関する法律内容が現状に適合していなかったためです。
たとえば長年被相続人とともに自宅に居住していた配偶者であっても、家を相続できずに追い出される可能性がありました。また自筆証書遺言では、遺産目録も含めてパソコンの利用が一切認められていませんでしたし、相続人でない親族は被相続人を献身的に介護しても報われることがありませんでした。
このように、従前の相続法にはいろいろと一般的な感覚と異なる点があったため、これを現状により即したかたちに改正したのが、今回の相続法改正です。
法改正の主なポイントは、以下の7つです。
また上記の7つの法改正ポイントについては、それぞれ「施行日」が異なります。施行日とは法律が有効となる日のことです。
以下で、それぞれの相続法改正ポイントの内容と施行日について、詳しく説明します。
1つ目の相続法改正のポイントは「配偶者居住権」を創設したことです。
配偶者居住権とは、被相続人の死亡時に被相続人と同居していた配偶者がいる場合、被相続人の死亡後も配偶者が「家に住み続ける」権利です。配偶者が配偶者居住権を取得した場合、居住建物の「所有権」は、配偶者以外の他の相続人が取得できますが、他の相続人が所有者として配偶者に退去を求めることはできなくなります。
「配偶者居住権」というとわかりにくいのですが、配偶者に特別に認められる「賃借権」のような権利とイメージするとわかりやすいかもしれません。
なお改正相続法では、上記の配偶者居住権とは別に「配偶者短期居住権」も認められています。これにより相続開始時に被相続人と同居していた配偶者は、相続開始後6ヶ月間、自分が家の所有権や配偶者居住権を相続しなくても家に住み続けることが可能となります。
これらの配偶者居住権の規定が施行されて有効になるのは、2020年4月1日の予定です。
2つ目の相続法改正のポイントは、結婚して20年以上の夫婦の場合、配偶者への居住用不動産の生前贈与が特別受益の対象外となることです。
つまり、結婚して20年以上の夫婦間で家を配偶者に生前贈与した場合、死後に遺産分割協議をするときにも、配偶者の遺産取得分が減らされることはありません。生活に必須の住居を受けとっても配偶者の遺産取得分が減らされないので、被相続人死後の配偶者の生活保障につながります。
この規定の施行予定日は、2019年7月1日です。
3つ目の相続法改正のポイントは、遺言制度についての変更です。具体的には自筆証書遺言の財産目録をパソコンで作成可能になります。
これまで自筆証書遺言は遺産目録も含めてすべて遺言者が自筆で書かねばならないとされていました。実際に財産目録をパソコンで作成したために「遺言書が無効」と判断された事例も存在します。
しかし多くの不動産や金融資産を有している場合、これらをすべて記入するのは大変な作業であり、パソコンが常識になった現代においてまで、財産目録までを自筆で書かねばならないとする理由はありません。
そこで自筆証書遺言の財産目録部分については、パソコンでも作成可能と法改正されました。
この規定が施行され有効となるのは、2019年1月13日からです。
4つ目の相続法改正のポイントは、自筆証書遺言の保管方法についての変更です。
これまで、自筆証書遺言を作成したら遺言者が自宅で保管するか弁護士に預けるなどが一般的でした。
しかしながら、自分で保管すると紛失や破棄隠匿の危険があります。かといって誰でも弁護士に遺言書を預けられるわけではないでしょう。
そこで法改正後は、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえるようになりました。この保管制度により、遺言書紛失や破棄隠匿などのリスクを低下させることができます。また法務局で保管してもらっていた場合、自筆証書遺言であっても公正証書遺言と同様に、死後の家庭裁判所における検認手続きが不要となります。
こちらの新制度が適用されるのは、2020年7月1日からです。
5つ目の相続法改正のポイントは、遺産分割が成立する前であっても被相続人名義の預貯金を一部出金できるようになることです。
一般的に、人が亡くなるとその人の名義の預金口座は凍結されてしまいます。凍結を解除してもらうには、相続人が全員共同で出金の手続きを行うか、遺産分割を成立させて、預貯金債権を相続した相続人が遺産分割協議書、調停調書、審判書などを持参して金融機関に行き、解約払い戻し請求をするしか方法がありませんでした。つまり相続人が全員共同で出金できない場合、遺産分割が成立しないと預貯金を出金できなかったのです。
しかしそれでは相続人らが葬儀費用や病院への清算金、相続税などを支払うのに難儀するケースもありますし、被相続人に生活費を頼っていた相続人の生活が脅かされる可能性もあります。
そこで法改正により、法定相続分に満たない一部の預貯金は、遺産分割前でも出金(仮払い)できることを明文化しました。仮払いによって払い戻しを受けられるのは、基本的に法定相続分の3分の1が上限とされています。
この規定の施行日は、2019年7月1日からです。
6つ目の相続法改正のポイントは、被相続人の介護や看病に高く貢献した親族が、被相続人に対して金銭の請求をできるようにした点です。
これまでの民法でも被相続人を献身的に介護した相続人がいる場合、その相続人に「寄与分」を認めて遺産取得分を増やす扱いにしていました。しかし今までの寄与分制度では、寄与者(特別寄与者)として認められるのは基本的には「法定相続人」だけであり、相続権のない親族はどんなに献身的に介護を行っても相続において評価されることがありませんでした。
そこで改正後は、法定相続人以外の親族であっても介護や看護で寄与したものがいる場合、被相続人に金銭の請求をできることとされました。
この規定の施行日は、2019年7月1日です。
7つ目の相続法改正ポイントは、遺留分制度についての変更です。
これまで遺留分の請求は「遺留分減殺請求」と言われてきましたが、呼び名が改められて「遺留分侵害額請求」となります。
呼び名だけではなく、遺留分の返還方法が大きく変わってくるので、以下で説明します。
これまでの遺留分減殺請求権は、遺留分を侵害する贈与や遺贈などの個別の効力を失わせるものでした。効力を失わせるので「減殺」と言います。
たとえば不動産の遺贈・贈与があった場合に遺留分減殺請求をすると、侵害された限度で「不動産そのもの」を取り戻すことになるので、遺留分権利者と受遺者・受贈者が不動産を共有する結果となってしまいました。
それでは、後日に再度「共有物分割請求」などをしなければならず、お互いに不便です。
そこで新制度では、個別の遺贈や贈与に対する効果の減殺ではなく、遺留分を侵害された「価額」を金銭で請求できる権利に変更しました。そこで名前も「遺留分侵害額請求権」とされました。
遺留分侵害額請求権となったことで、不動産の贈与や遺贈があった場合に権利を行使した場合でも、不動産の一部ではなく金銭によって返還を受けられるようになりました。
ただし、被請求者の支払い能力や便宜もあるので、支払いには「相当な猶予期間」を設けることができるとされています。
これまで遺留分減殺請求の対象は、法定相続人の「特別受益分」はすべて含む、という考え方でした。つまりどんなに古い生前贈与であっても遺留分減殺請求の対象になったのです。
ところがこのような考え方も不合理なので、相続人の受けた生前贈与であっても遺留分減殺請求の対象になるのは相続開始前10年間のものに限定されることになりました。
被請求者が先に相続債権者に相続債務を支払っていた場合、請求者が負担すべき負債分については相殺して遺留分額を返せば良いことになっています。
この規定の施行日は、2019年7月1日です。
以上のように相続に関する法改正があったことで、相続の各場面にいろいろな影響が及びます。また法改正の施行日は法改正内容によってまちまちなので、正しく押さえておきましょう。
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